HBC北海道放送様より、保育園による補助金・助成金の不正受給の件で幼児教育・保育業界の専門家として取材をお受けいたしました。

取材では補助金・助成金の申請における課題についてお話し、その内容が2024年6月6日HBC北海道放送様情報ワイド番組にて放送されました。

本記事では幼稚園・保育園・こども園の経営に携わる方に向けて、取材を受けた内容を始め、取材の中でお伝えしきれなかった「補助金・助成金の不正受給を起こさないためにできること」をまとめていきます。

また、放送内容はYouTubeで公開されておりますので、こちらもぜひご覧くださいませ。

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ニュースの概要と取材内容

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弊社が取材を受けたきっかけとなった、HBC北海道放送様のニュースの概要と、取材内容をまとめていきます。

認可保育所4園と認可外保育所1園の計5園を運営する株式会社が、相次いで休園し、70人以上の園児が急な転園を余儀なくされました。
休園の理由は職員への給与未払いなどを背景にした職員の一斉退職とされていますが、助成金が本来あるべき形で使われていない実態も明らかになりました。

同法人では、運営する保育施設における職員の配置基準を満たしていないにも関わらず、実際には勤務していない職員を書類に記載水増し申請を行っており、

  • 企業主導型保育事業の助成において約4,700万円の助成金の過払い
  • 札幌市が行う認可保育所の助成において約2,600万円の助成金の過払い

など、児童育成協会や自治体から助成金の過払い分の返還を求められており、認可の取り消し刑事告訴も検討されている状況です。

この問題を受け、幼児教育・保育業界の経営を専門にする弊社では、水増し申請が行われてしまう背景として

  • 申請内容の一部は、事業者のモラルに委ねられてしまう側面があるのではないか
  • 自治体のチェック体制の強化や、申請の抜け道をなくすルール設定が必要なのではないか

という見解をお伝えしました。

一方で、園でできることもあります。
例えば、

  • 園内での業務フローチェック体制の見直しをする
  • 園の理念の強化保育内容の充実により「保護者から求められる園」であることに注力して園児数を確保財務基盤を安定させる

などが挙げられます。
不正受給により収入を増やすのではなく、園が果たすべき役割を全うする形で収入を確保すべきだと弊社は考えています。

不正受給は、最終的に大損する

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不正受給が判明すると、社会的制裁を受け地域住民だけでなく世間からも白い目を向けられることになります。得をしようと不正受給をしたところで、最終的には大損をすることになりますので、自発的に不正受給をしようとするのは絶対に止めましょう。

一方で、不正受給をしている意図を持たずにやっていたことが、実は不正受給にあたる行為だと判明する場合もあります。その場合でも「自治体が許可したから不正受給にならない」という理屈は通らず、不正は不正として処理されるのが現実です。

不正受給を考えてしまう背景に園児減少・保育士不足による収入減があるのであれば、園の理念の強化保育内容の充実により「保護者から求められる園」「保育士が働きやすい園」へと転換し、園児数を確保財務基盤を安定させることが、何よりも大切です。

不正受給を未然防止する3つのチェックポイント

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不正受給という扱いを受けた園のすべてが、意図的に不正受給を行ったとは限りません。
悪意なく、意図せず、結果として不正な申請をして審査が通ったとしても、
最終的には自治体が行った監査により、申請要件を満たさないことが年度を終えた後に判明し、不正受給と呼ばれる状態に陥ってしまうこともあり得ます。

「うっかり」「知らなかった」では済ませられない、不正受給を未然に防ぐ3つのチェックポイントをお伝えします。

申請要件を満たしているか

申請要件を満たしているかは慎重に確認しましょう。
本当は申請要件を満たしていない場合でも、加算項目の申請をしたとすると、書類上は申請要件を満たしているように見えてしまい、自治体が審査を通してしまうこともゼロとは言い切れません。

自治体にもよりますが、施設型給付費や委託費、企業主導型保育事業の運営費の申請について、毎月の申請は園の自己申告に合わせて支給し、後日の加算申請や、年度末に近づいたころの精算で厳しくチェックを入れるという自治体もあります。

弊社にお問い合わせを頂くなかで「年度末に大幅な返還額があったが、おかしいのではないか」というお問い合わせを頂くことがありますが、よくよく調べてみると、「年度の途中に加算を多く取得するように申請してしまっていた」ということがあります。

1年間を通しての金額が正しく計算されていれば、不正受給ではありませんが、年度末で大きな額の追加の入金・返還額が出ると、安定した園運営にも支障を来しますので、毎月の申請から、正しく行えるようにしておくのが重要です。

申請金額を高くしていないか

申請要件は満たしていても、受給金額が高くなるように申請することで不正受給に繋がることもあります。
例えば、2つの基準で申請金額を比べ、どちらか低い方の金額で申請を行う補助金があったとします。その場合、高い金額で受給したいがために、実態とかけ離れた申請をしてしまうことも考えられます。
(経費の実費相当額しか補助対象経費にならない場合に、経費を多く計上する等)

不正受給のニュースの中でよく出てくるもののひとつに「退職した保育士を退職していないことにして水増し請求をする」というものがあります。
自治体側も、保育士の先生がいつ入職していつ退職したかまでは毎月把握していないことが多いので、すでに退職した保育士を在職していることにすると、その分申請金額が高くなることになります。

上記の方法は、書類を意図的に改ざんしているので犯罪になり論外ですが、水増し請求ほど悪質ではなかったとしても、「これくらいならバレないだろう…」ということは、絶対に行わないことが大事です。

受給期間が実態よりも長くなっていないか

申請要件や金額に問題がなかったとしても、受給期間が実態よりも長いことで不正受給と呼ばれる状態になりえることにも注意が必要です。
年度途中で要件を満たさなくなった、あるいは特定の月だけ要件を満たさない月があったなど、月ごとに要件を満たしているか園で把握していく必要があります。

保育園やこども園では、0歳児が毎月入園することもあると思います。
0歳児の配置基準は、0歳児3人に対して保育士を1人配置する必要があるため、0歳児が3人入園すれば、必要な保育士が1人、増えることになります。

珍しいケースではありますが、配置基準ギリギリで園を回している場合では、0歳児が増えるペースと、先生の新規採用の時期がずれてしまうと、ひと月だけ、加算が外れてその月の収入が大幅に減額になる、ということもあります。
毎月、必要な有資格者数は何名で、このままの入園ペースでも配置基準や加算用件を満たしているのかをチェックすることは非常に重要です。

ここまで不正受給を防ぐ3つのチェックポイントをお伝えしましたが、何気ないところから不正受給が発生しうることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

まとめ

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HBC北海道放送様より幼児教育・保育業界の専門家として取材をお受けする中で、お伝えしきれなかった「補助金・助成金の不正受給を起こさないためにできること」をまとめていきましたが、いかがでしたしょうか。

保育園の経営者の中には、書類作成をご自身で行っていない、自治体とのやり取りは事務職員に任せている、という方も多く、補助金・助成金の不正受給に気づく機会が少ないのが現状かと存じます。

本記事が、不正受給を起こさないための業務フローや園内でのチェック体制の見直しを検討されるきっかけになれば幸いです。

不正受給が起きる原因に「園児減少による収入減」があると冒頭で触れましたが、待機児童が解消し、定員割れをしている園も増えてきています。どうしてもこのままでは園運営が出来ないという園では、地域の保育需要が満たされたと考え役割を終えていく(閉園する)という判断も、経営者には必要かもしれませんが…

その判断を下す前に、まずは園の理念の強化保育内容の充実により「保護者から求められる園」へと転換することに注力し、園児数を確保財務基盤を安定させることが、何よりも重要です。