こども家庭庁が、令和5年4月1日時点での保育所等への利用申込者数や待機児童の状況を公表しました。
今後の入園児数の動向にも繋がる保育所等の利用状況を、地域別の特徴を交えながらわかりやすくまとめ、令和6年の利用状況の見込みについても触れています。

中小企業診断士:大窪

こども家庭庁の資料は、文字数も数字も多く、読み解きづらい資料だと思いますが…。
令和5年4月1日時点での状況ではありますが、この数字が今後数年間にわたっての園運営にも影響を与えてきます
弊社では全国からお問い合わせを頂いておりますが、同じ保育園、こども園という施設類型でも、地域によってまったく状況が違うのを肌で感じています。
自分たちの地域では、今後どのようなことが起こるのかを想像しながらお読みいただけると、より参考になるかと思います。

保育所等関連状況取りまとめとは?

保育所等関連状況取りまとめとは?についての説明画像

保育所等関連状況取りまとめは、全国の保育所等の状況を把握することを目的に毎年実施しています。
待機児童の状況保育所等の定員利用状況及び「新子育て安心プラン」に基づく自治体の取組状況を取りまとめています。

毎年8月末頃に公表されており、令和4年までは厚生労働省が公表していました。
令和5年4月1日にこども家庭庁が発足したことにより、令和5年度はこども家庭庁から公表されました。

待機児童の状況

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待機児童とは、保育園等の利用申込者のうち、実際に保育等を利用した人数と「除外4類型」に該当する人数を除いた数のことです。
除外4類型」とは、聞きなれない言葉だと思いますが、以下のように定義されています。

待機児童数の除外4類型
  1. 育児休業中の者
  2. 特定の保育園等のみ希望している者
  3. 地方単独事業を利用している者
  4. 求職活動を休止している者

令和5年4月1日時点の待機児童数

令和5年4月1日時点の待機児童数は2,680人で、令和4年と比べて264人減少しました。率にすると約9%の減少です。
平成27年度に始まったこの調査以来、待機児童数は5年連続で最小となっています。

待機児童数が減少した要因としては、

  • 保育の受け入れ数が増えた
  • 就学前人口が減った
  • 育児休業の長期取得が増えた

などが挙げられます。

中小企業診断士:大窪

待機児童が減っていることは国として良いことではありますが…。
就学前人口が想定以上に減少」しているにも関わらず、「受け皿の拡大」を行っているので、今後の園運営は、ますます厳しくなっていくことが予想されます。

待機児童が多い・増加した自治体

それでは、待機児童が多い・増加した自治体には、どのような特徴があるのでしょうか。

人口増加率が高い自治体ほど、待機児童数が多い傾向があります。
この表は、待機児童の増加数が上位5位にあたる6つの地方自治体についてまとめたものです。

待機児童の増加数
上位5位の6自治体
地方自治体待機児童数
(R5.4)
待機児童数
(R4.4)
待機児童数の
増加数
1滋賀県 守山市82人9人73人
2三重県 津市57人0人57人
3大阪府 守口市33人0人33人
4埼玉県 八潮市25人33人20人
5鹿児島県 奄美市25人52人4人
6沖縄県 那覇市25人52人4人
地方自治体別 待機児童数(増加数上位5位の6自治体)

(出典:こども家庭庁 待機児童数が多い・増加した自治体

待機児童数が急増している上位3自治体では、令和4年において待機児童が解消されていました。
このことから、待機児童が解消された自治体においても、再び保育ニーズが増加する場合があることにも留意が必要であることがわかります。

待機児童解消に向けた課題

一方で、数年にわたり待機児童が生じている地域では

  • 保育士が確保できず利用定員が減少
  • 特定の地域で申込みが集中する保育需要の偏り

などが発生しており、自治体によって対応すべき内容が分かれています。

中小企業診断士:大窪

これまでは、国として待機児童の解消を重点に置いて施策を進めてきました。
しかし待機児童が多く発生している自治体がある一方で、保育所等の定員割れが課題となっている自治体も多くあります。
待機児童数が多い自治体では、一刻も早く待機児童を解消することはもちろんですが、待機児童問題が解消された自治体で運営されている園では、子ども未来戦略方針にあるように量の拡大から質の向上への転換」に対応していく必要があります。

保育所等の利用状況

保育所等の利用状況についての説明画像

この取りまとめでいう「保育所等」は、従来の保育所に加え、平成27年4月に施行した子ども・子育て支援新制度において新たに位置づけられた幼保連携型認定こども園等の特定教育・保育施設と小規模保育事業等の特定地域型保育事業(うち2号・3号認定)を含みます。

都道府県別の定員充足率推移

定員充足率とは、保育等を利用できる枠に対して、実際に児童がどのくらい利用しているかをパーセンテージで表したものです。
例外はありますが、基本的に定員充足率が高いほど、待機児童数が多くなります。
全国の定員充足率は89.1%で、令和4年と比べて0.6%減少しました。

中小企業診断士:大窪

保育所等関連状況取りまとめ資料における定員充足率は、令和5年4月1日時点の数字になるため、年間平均では数字が高くなると考えられます。
自園との比較を行う際は、年間平均と比較するのではなく、令和5年4月1日時点の定員充足率と比較を行う必要があります。

都道府県別で見ると、定員充足率の上位2県が神奈川県、兵庫県となっており、下位2県は長野県、山梨県となっています。

定員充足率
上位5府県
都道府県定員充足率
(R5)
1神奈川県96.1%
2兵庫県95.2%
3大阪府94.9%
4鹿児島県93.1%
5熊本県92.7%
都道府県別 定員充足率 上位5府県(R5)
定員充足率
下位5県
都道府県定員充足率
(R5)
1長野県76.5%
2山梨県77.7%
3岐阜県80.4%
4高知県81.4%
5愛知県81.7%
都道府県別 定員充足率 下位5県(R5)

さらに、都道府県別の定員充足率の上位5府県は、令和2年から変動がありません。

R2~R5
定員充足率
上位5府県
R2.4R3.4R4.4R5.4
兵庫県兵庫県兵庫県神奈川県
鹿児島県鹿児島県神奈川県兵庫県
神奈川県神奈川県大阪府大阪府
熊本県大阪府鹿児島県鹿児島県
大阪府熊本県熊本県熊本県
都道府県別 定員充足率 上位5県の推移(R2~R5)

(出典:こども家庭庁 都道府県別保育所等利用状況(令和5年4月1日)

中小企業診断士:大窪

全国規模で見ると定員充足率は減少していますが、地域によっては保育需要の高い状態が数年にわたり続いています。

定員充足率の傾向を地方別に見ていきます。
沖縄地方、九州地方、関西地方、関東地方の定員充足率が高く90%を超えています。
一方で、中部地方の定員充足率は低く、81.7%となっています。

地方定員充足率
(R5)
沖縄地方91.8%
九州地方91.5%
関西地方90.6%
関東地方90.3%
北海道地方89.5%
中国地方87.4%
東北地方86.9%
四国地方84.3%
中部地方81.7%
地方別 定員充足率(R5)

(算出元:こども家庭庁 都道府県別保育所等利用状況(令和5年4月1日)

申込者数の状況

令和5年4月1日時点の申込者数は280万4,678人で、令和4年と比べて7,979人減少しました。率にすると約0.3%の減少です。
保育等の申込者数は、令和3年4月時点から減少し続けています。
都道府県別で見ると、青森県や秋田県の減少率が高い傾向となっています。

(R4~R5)
申込者数の減少率
上位5県
都道府県申込者数
(R4)
申込者数
(R5)
減少率
(R4→R5)
1青森県30,70429,194-4.9%
2秋田県21,43920,503-4.4%
3長崎県36,21635,123-3.0%
4新潟県58,31356,598-2.9%
5島根県21,09820,484-2.9%
都道府県別 申込者数の減少率 上位5県(R4~R5)

(出典:こども家庭庁 都道府県別保育所等利用状況(令和5年4月1日)厚生労働省 都道府県別保育所等利用状況(令和4年4月1日)

申込者の年齢によっても傾向が出ています。
0歳児の申込者数が大幅に減少していますが、1・2歳児は増加しています。

1・2歳児保育利用率と女性の就業率は正の相関関係がみられるため、今後の女性就業率が保育の申込者数に影響を与えていくものと思われます。

保育等の申込者数の減少には少子化も関わっていますが、詳しくはこちらの記事解説しています。

今後の利用状況の見込み

こども家庭庁では、以下の事象から令和6年の申込者数は増加すると予想し、引き続き「新子育て安心プラン」に基づき待機児童解消のための取組を進めていく方針を取っています。

今後の見込み
  • 女性就業率(25~44歳)の上昇傾向
  • 共働き世帯割合の増加
  • 被用者保険の適用拡大に伴う働き方の変容
  • 新型コロナウイルス感染症流行からの利用控えの解消

(出典:こども家庭庁 令和5年4月の待機児童数調査のポイント

しかし、令和4年公表の同調査では、令和5年の申込者は増加すると見込んでいたものの、実際には減少しました。

これまでは女性就業率に伴って申込者数も増加していましたが、令和5年は女性就業率が令和4年より増加したにも関わらず申込者数は減少しました
これは申込者数だけではなく、利用児童数も令和4年より減少しており、同じ傾向が見られます。

以上を踏まえると、令和6年の申込者、利用児童数は増えない可能性も十分に考えられそうです。

中小企業診断士:大窪

申込者数だけではなく、利用児童数も令和4年と比べて減少していることから、令和6年の利用児童数も増えない可能性も考えられます。
園としては、利用児童数が減っていくという前提で、今後の運営を検討していくことが重要になります。

まとめ

まとめについての説明画像

最後に、本記事をまとめていきます。
こども家庭庁が、令和5年4月1日時点での保育所等への利用申込者数や待機児童の状況を公表しました。

保育所等状況取りまとめのポイント(令和5年4月1日現在)
  • 待機児童数:2,680人(対前年 264人減少 △約9%
  • 定員充足率:89.1%(前年比 △0.6%
  • 利用申込者数280万4,678人対前年 7,979人減少 △0.3%

数年にわたり保育所等利用状況の減少傾向が続いていることを踏まえ、理事長先生や園長先生は、保護者から選ばれる保育・幼児教育施設であり続ける経営・施設づくりに力を入れていくことが重要になってきます。

中小企業診断士:大窪

こども家庭庁が公表した資料では、今後の取組方針の一つに「保育所等の多機能化を進める」ことを挙げています。その一つが、令和6年から本格実施が検討されている「こども誰でも通園制度」です。
就労を問わず未就園児を預かることで、地域で子育て支援を実施するための拠点としての役割を保育所等が担っていくことが求められています。
この「保育所等の多機能化」は人材の確保経営等の課題も含めて、今後保育業界にとって大きなキーワードとなっていくと感じています。

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