令和5年6月13日に岸田総理によるこども未来戦略方針の支援策内容の記者会見が行われ、「こども誰でも通園制度」が日本中で注目されています。
本記事では「こども誰でも通園制度」について
をもとにわかりやすく解説し、現在の進行状況をまとめています。
これまで入園対象外であった乳児・幼児の保護者にとってはうれしい制度ですが、保育現場で働かれている方々は来年度からの本格実施には驚いた方も多かったのではないでしょうか?
来年度からの制度本格化にむけて対応が急がれます。後半では、今年度からこども誰でも通園制度を検証的に行っている仙台市と福岡市の事業モデルについてもご紹介いたします。
「こども誰でも通園制度」は急に出てきた話のようにも感じますが、以前より、無園児(就学まで保育園・幼稚園・こども園等と接点がない児童)については取り沙汰されていました。
国として、本格的に対策を打っていくなかの一環として、制度化されていく流れになっています。
【令和5年11月7日追記】
こども家庭庁にて、令和5年9月より事業実施の在り方について検討会が開催されています。検討会の内容について、令和5年11月7日現在の最新情報を記事の後半部分に追記いたしました。
こども誰でも通園制度のポイント
令和5年6月1日、政府は、保護者の就労時間を問わず保育園を利用できる「こども誰でも通園制度」の創設を発表しました。ここでは、「こども誰でも通園制度」についてわかりやすく解説します。
こども誰でも通園制度とは?
「こども誰でも通園制度」とは、親が働いていなくても時間単位等で保育園を利用できる新たな通園制度です。政府は下記のように発表しています。
全ての子育て家庭を対象とした保育の拡充~「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設~
「こども未来戦略方針」~ 次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて ~令和5年6月 13 日
0~2歳児の約6割を占める未就園児を含め、子育て家庭の多くが「孤立した育児」の中で不安や悩みを抱えており、支援の強化を求める意見がある。全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備するとともに、全ての子育て家庭に対して、多様な働き方やライフスタイルにかかわらない形での支援を強化するため、現行の幼児教育・保育給付に加え、月一定時間までの利用可能枠の中で、就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付(「こども誰でも通園制度(仮称)」)を創設する。
本制度は、育児疲れを感じながら不安や悩みを抱えている子育て家庭が多くあり、そういった家庭の支援強化を求める意見に応える形で創設の検討が開始されました。また、待機児童が解消されつつある今、園児数が減少している保育所等の経営を助ける側面もあります。
令和5年度より、各市町村で来年度からの本格実施に向けて31自治体50施設でモデル事業として検証的な運用がスタートしています。
また令和5年9月より、検討会が立ち上がる予定です。
対象施設
令和5年8月現在、「こども誰でも通園制度」の詳細はまだ決定されていません。
令和5年度より実施されているモデル事業を踏まえて、これから検討が開始される段階です。
ここでは、モデル事業である「空き定員等を活用して未就園児の定期的な預かりモデル事業」で示されている対象施設をご紹介します。
定員の空きのある保育所等
(認定こども園、地域子育て支援拠点も含む)
定員の空きのある保育所等が対象施設であるため、幼稚園は対象外です。
定員割れしている保育園やこども園にとって、その空き枠を利用して就労要件に関わらず、お子様をお預かりできるのは経営面ではプラスの影響です。
国が重要視をしているのは「0~2歳児の約6割を占める未就園児」(0~2歳児で保育園やこども園に通っていない児童)と読み取れるため、幼稚園では、この事業を行うことはできません。
幼稚園の経営を考えると、満三歳になるまでの未就園児が先に保育園やこども園と接点を持つことにより、園児獲得競争に遅れを取ってしまう可能性もあります…。
本格実施はいつから?
令和5年3月に、異次元の少子化対策の一つとして発表された「こども誰でも通園制度」ですが、本格実施はいつからでしょうか。
令和5年6月に、岸田総理が「令和6年度から制度の本格実施を見据える」と発表しました。
歯止めが利かない少子化に、スピード感を持って対応するためです。
また、その後に公表された「こども未来戦略方針」でも、以下のように明記されています。
速やかに全国的な制度とすべく、本年度中に未就園児のモデル事業を更に拡充させ、2024年度(令和6年度)からは制度の本格実施を見据えた形で実施する。
「こども未来戦略方針」~ 次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて ~令和5年6月 13 日
本格実施は、令和6年度からと決定していますが、具体的な制度設計はまだ行われていません。
そのため、モデル事業についてしっかりと把握しておくことが重要です。
以下からは、本制度のモデル事業である「空き定員等を活用した未就園児の定期的な預かりモデル事業」について解説していきます。
空き定員等を活用した未就園児の定期的な預かりモデル事業の実施状況
ここからは、「こども誰でも通園制度」のモデル事業である「空き定員等を活用した未就園児の定期的な預かりモデル事業」について、基礎知識と実施状況について解説します。
こちらについてより深く知りたい方はこちらの記事も併せてお読みいただくと、この制度導入の背景もご理解いただけるかと思います。
お勧め記事:【速報!】異次元の少子化対策の試案5つのポイント|75年ぶりの保育士配置基準改善も
お勧め記事:【速報!】第64回子ども・子育て会議のポイントを3分でわかりやすく解説
空き定員等を活用した未就園児の定期的な預かりモデル事業とは?
ここでは、本施策の目的や内容等の基礎知識について解説します。
こども家庭庁が公表した「令和5年度 予算案」では、以下のように目的について記載されています。
定員に空きのある保育所等において、未就園児を定期的に預かり、利用促進の方法、利用認定の方法、要支援家庭等の確認方法や、保護者に対する関わり方などを具体的に検討し、保育所の多機能化に向けた効果を検証することを目的としている。
これまで保育園は、主に保護者が就労している児童を預かりの対象としてきました。
しかし、「こども誰でも通園制度」では、就労要件を問わず未就園児を預かることや要支援家庭への関わり等を行うことで、保育園としての機能を拡げる目的があります。
具体的な施策の内容は、以下の通りです。
- 施策の内容
- 定期的な預かり
- 未就園児に対して、継続して週1~2日程度の定期的な預かりの実施。
- 対象児童を養育する家庭に対する利用促進。
- 支援計画の作成、保護者に対する定期的な面談等による継続的な支援。
- 要支援児童等の不適切な養育の疑いを確認した場合、関係機関に情報共有。
- 要支援家庭等対応強化加算
❶に加え、要支援児童等の預かりを行う場合には、関係機関との連携の下、情報共有や定期的な打ち合わせに基づいた支援計画(※)の作成、関係機関との協働対処による相談支援。
(※)改正後の児童福祉法に基づくサポートプランと連携することを想定。
- 定期的な預かり
- 実施主体
市町村(市町村が認めた者への委託可)※実施自治体は、公募により選定。 - 補助単価
年間延べ利用児童数 | 一か所あたり |
---|---|
300人未満 | 5,981千円 |
300人以上900人未満 | 6,326千円 |
900人以上 | 6,542千円 |
※要支援家庭等対応強化加算は、1か所あたり 742千円。
(出典:令和5年度における子ども・子育て支援新制度に関する予算案の状況について)
先日、こども家庭庁の課長のお話を聞く機会がありました。そこで仰っていたのは、一般的な「一時預かり」と「こども誰でも通園制度」の明確な違いです。
「一時預かり」は利用者と預かる園の間に自治体が入ることなく、2者間で完結します。一方、「こども誰でも通園制度」は通園給付であるため、行政が「誰が、どこの園を、どれくらいの頻度で利用しているか」を把握することができます。要支援家庭等への関わりを関係機関が連携できる、この点が「一時預かり」との違いです。
ここからは、実際にモデル事業を実施している仙台市と福岡市の事例を紹介します。
仙台市の場合
仙台市では、泉区を除く4区、5施設がモデル事業施設になっています。各施設1~5人程度の募集であり、利用可能時間は7時半から18時や9時から17時の施設もあり、施設により異なりますが預けられる時間帯の幅が広いのが印象的です。
利用対象者
- 小学校就学前であって、現在保育所などに通っていないこと
- 1日あたりの利用希望時間が8時間程度であること(あくまで目安)
- 本年度末までの利用希望であること
預かり頻度および期間
- 預かり頻度:週1~2日
- 預かり期間:令和5年8月1日(火)~令和6年度3月30日(土)
利用料
- 1日あたり3歳未満児1000円、3歳以上児500円
- 食費については、事業を実施する実施施設において定めた金額を実費負担
- 生活保護世帯および市民税非課税世帯は利用料が無料
利用開始までの流れ
- 利用希望の実施施設に利用申込書を提出(預かり希望曜日を最大2つまで記載できます)
- 各施設において利用者抽選を実施
- 当選者と実施施設で利用に関する面談
- 利用開始
(出典:仙台市保育所の空き定員等を利用した未就園児の定期的な預かりモデル事業 事業案内)
仙台市は委託金額についても丁寧な説明がなされています。仙台市の場合、最終的な委託金額は提案額からモデル事業利用料を差し引いた額と契約期間中の延べ利用人数により算出される委託上限額を比較して低い方の金額になります。
例:6,000千円の提案のもと、委託契約を締結したが、年間延べ利用料が300人未満だった場合、国基準額である5,981千円が最終的な委託契約額となります。(差し引くべき利用料をないものと想定した場合)
(出典:仙台市保育所の空き定員等を活用した未就園児の定期的な預かりモデル事業の受託事業者を募集します)
仙台市ではモデル事業に応募する際、モデル事業実施枠を提案することになっています。
この枠の設定は任意で設定することができますが、一度受け入れ枠として提案すると、年度末まで空けておく必要があります。そのため、年度途中の入園児がいることも加味して、どれくらい枠数を開放するのか、しっかりと検討しておく必要がありました。
福岡市の場合
市内3施設がモデル事業施設であり、各施設一日あたり10~13人の定員となっています。利用可能時間は8:30~16:30、9:00~17:00の施設もあり施設により異なりますが、利用可能時間の幅は限られているようです。
利用対象者
- 福岡市内に居住する生後3か月から小学校就学前の児童
※保育所、認定こども園、幼稚園、企業主導型保育施設などを利用していないこと
※原則、事業実施期間を通じて週1~2回決まった曜日に預けたい方
預かり頻度および期間
- 預かり頻度:週1~2日
- 預かり期間:令和5年8月1日(火)~令和6年度3月30日(土)
利用料
- 1回当たり1000円(昼食代・雑費も含まれる)
- 生活保護世帯および市民税非課税世帯は利用料が無料
優先利用
下記のいずれかの該当者は優先的に利用調整を行う
- ひとり親家庭
- 障がい児童
- 生活保護世帯
- 保護者に疾病・障がいがある場合
- 利用希望児童の兄弟姉妹に障がいがある場合
- 利用希望児童の兄弟姉妹がすでに本体保育所を利用している場合
- 兄弟姉妹が同時に利用希望の場合
(出典:福岡市未就園児の定期的な預かりモデル事業)
仙台市と福岡市の違いについては、利用料や優先利用の明記などがあります。施設数、募集人数は異なりますが、トータルでみると仙台市、福岡市ともに30人程度のモデル事業を想定しているようです。
こども誰でも通園制度のモデル事業に共通することは、週1~2回の8時間程度の長期的な期間での利用を前提とした保育所等に通所していない未就園児が対象という点です。このモデル事業をとおして、本事業の課題や今後の施設のあり方について検討していきます。
どちらの市町村でも、1回(1日)利用する際の利用料を設定していますが、定期的に週2回利用しようとすると、年齢によって違いはありますが、4,000円から10,000円ほど利用料が掛かる可能性があります。
生活保護世帯および住民税非課税世帯は利用料が無料にはなりますが、それは保育園やこども園に通う際にも似たような制度がありますので、あえて新しい制度をつくるのは「どのような子育て家庭に利用してもらいたいからなのか」ということは今後も注視していく必要があります。
【令和5年11月7日追記】事業実施の在り方に関する検討会について
こども家庭庁が令和5年9月21日に「こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業実施の在り方に関する検討会」の第1回を開催いたしました。ここでは、10月に開催された第2回検討会の内容を記載しています。
こども誰でも通園制度(仮称)の制度の概要について
令和5年11月現在、検討している制度の概要をまとめます。検討中の内容ですので、検討会が進む中で変更されることもございます、ご留意ください。
給付制度の立て付け | 現行の「子どものための教育・保育給付」とは別の新たな「〇〇給付」を 子ども・子育て支援法に設ける。※給付の名称は精査中 |
利用対象者の認定 | 対象者の市町村による認定。 対象者は0歳6か月~2歳児の未就園児のいるすべての家庭を対象。 |
契約の仕組み | 利用者と事業実施者との直接契約。 (市町村による調整は行わない) |
公定価格の仕組み | 「子どものための教育・保育給付」の公定価格とは別に、新たに「〇〇給付」 の運営費に係る補助をする給付を設ける。 利用者負担分は、事業者において徴収する。 |
利用可能枠 | 令和6年度の試行的事業では、補助基準上一人当たり「月10時間」を上限。 |
職員配置 | 一時預かり事業の配置基準と同様。 |
利用可能枠が一人当たり「月10時間」は少ない印象を受けました。実際に検討会の中でも「月当たりの利用時間はより長く設定すべきではないか」という意見が上がっています。
「月10時間」の利用イメージは、1日中利用して月1回、午前約2時間利用するとして毎週利用を想定しています。本制度の制度化、全国的な実施を見据えて、都市部を含めた全国の自治体において提供体制等を確保することを考え補助基準上の上限を設定しているとのことです。検討会を経て、変更されるのかされないのか、今後の注目ポイントです。
施設・事業類型毎の事業実施のイメージ
令和5年11月現在は、利用方法・実施方法について多様な実践のかたちが考えられています。
利用方法については、以下の2パターンがあります。
- 利用する園、月、曜日や時間を固定する定期利用
- 利用する園、月、曜日や時間を固定しない自由利用
実施方法については、以下の3パターンが想定されています。
- 保育所等の定員に依存せず、専用スペースも設けない一般型(在園児と合同)
- 保育所等の定員に依存せず、在園児とは別の専用スペースを設ける一般型(専用室独立実施型)
- 保育所等の定員の範囲内で受入れ、基本的に在園児と合同の余裕活用型
これらのパターンを組み合わせて以下の6通りが検討されています。
モデル事業である「空き定員等を活用して未就園児の定期的な預かりモデル事業」が公表された当初は、余裕活用型のみの実施方法かと思っていましたが、6通りの方法が検討されています。
こども誰でも通園制度に係るシステムの構築について
国が基盤を整備し、自治体・施設・利用者が本制度に係るシステムを利用する形態が考えられています。
具体的には、①予約管理、②データ管理、③請求書発行の3つの機能を実現できるシステムの構築が検討されています。
自治体・施設・利用者が一元管理できるシステムの導入により、行政が認定申請の有無や利用の程度を把握することが可能となり、連携が容易にできることを想定しています。
こども誰でも通園制度(仮称)に係る検討会は今後も開催予定です。最新情報を当記事で発信していきます。
まとめ
保育園を必要としていても、条件に当てはまらないために入園を断念する家庭が多くあり、この制度導入は子育て家庭の悩みを大きく解消するでしょう。制度が導入されることにより、助けられる子育て家庭が多くあることも事実です。
しかし、保育士不足や過酷な労働環境など、改善すべき問題はまだまだたくさんあります。この制度が導入されることにより、保育現場で働く方々の働き方についても今後の動きに注目です。
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