独立行政法人福祉医療機構(WAM)では、施設整備の建築費等を融資する貸付事業や、退職手当共済制度、保育業界に関する経営情報の公開等、保育業界と関連した事業を数多く行っています。

本記事では、そのような幼児教育・保育業界と関わりの深い福祉医療機構(WAM)について、こども園保育園の経営者の方に向けて、わかりやすくまとめています。

福祉医療機構の概要や役割といった基礎知識から、実施している主な事業の紹介、また保育業界経営に役立つ事業については更に詳しく解説しています。

中小企業診断士:大窪

福祉医療機構と聞くと、名前から社会福祉法人のみ対象とした機構なのかと勘違いされる方もいらっしゃいますが、福祉貸付事業では学校法人(幼稚園から幼保連携型認定こども園への移行等)も貸付の対象です。
幅広いサービス内容をわかりやすくまとめましたので、ぜひご一読ください。

福祉医療機構とは?

福祉医療機構とは?の説明画像

まずは基礎知識として、独立行政法人福祉医療機構の概要と役割について説明します。

福祉医療機構の概要

独立行政法人福祉医療機構は、「福祉の増進と、医療の普及及び向上」を目的として事業を展開しており、福祉医療サービスを提供する民間事業者の活動を支援しています。

福祉医療貸付事業を主要な事業として位置付けており、介護保育障害医療等のサービスを提供する施設の設備・更新を支援しています。
福祉医療機構が行っている主な事業は、以下の通りです。

福祉医療機構の主な事業
  • 福祉貸付事業
  • 医療貸付事業
  • 経営サポート事業
  • 社会福祉振興助成事業(WAM助成)
  • 退職手当共済事業
  • 心身障害者扶養保険事業
  • WAM NET事業

それぞれの事業の詳細は、後ほど説明します。

福祉医療機構(WAM)の役割

福祉医療機構は英語表記にすると、WELFARE AND MEDICAL SERVICE AGENCYとなり、最初の3つの頭文字をとって「WAM(わむ)」と呼ぶこともあります。

では、福祉医療機構の役割とはなんでしょうか。
独立行政法人福祉医療機構が公表している資料には、このようにありました。

福祉医療機構(WAM)は、福祉・医療に関する多様な事業を一体的に実施することにより、地域の福祉・医療の向上を目指して民間活動を支援しています。

2023年度 独立行政法人福祉医療機構ごあんない WAMの役割

もう少し詳しく説明すると、
福祉医療貸付事業等の大規模な福祉医療制度を支える事業と、心身障害者扶養保険事業等の多様な社会課題に応える事業を行うことで、介護、児童福祉、障害者福祉、医療提供体制を支援し、さらには「国民生活の安定」と「社会経済の健全な発展」への貢献に寄与する、という役割があります。

次からは、福祉医療機構が行っている主な事業について解説していきます。

福祉医療機構が主に行っている事業

福祉医療機構が主に行っている事の説明画像

ここまでは、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の概要と役割について説明しました。
ここからは福祉医療機構が行っている主要事業について仮説していきます。

福祉貸付事業

まずは、福祉医療機構のメイン事業である、福祉貸付事業です。
保育施設、介護施設、障害者施設などの社会福祉施設を整備する際に必要となる建築資金等を「長期・固定・低利」で融資しています。
融資の主な対象施設として、児童福祉分野から一部を抜粋いたします。

融資の主な対象施設
  • 保育所
  • 小規模保育事業
  • 幼保連携型認定こども園
  • 放課後児童健全育成事業
  • 障害児通所支援事業 他

以上の主な対象施設のうち幼保連携型認定こども園以外は、法人であれば融資を受けられますが、幼保連携型認定こども園社会福祉法人学校法人日本赤十字社と限られていますので注意が必要です。

中小企業診断士:大窪

福祉貸付事業については、保育業界の経営者の方はより詳しく知りたい部分かと思いますので、本記事の後半部分で詳しく解説しています。

医療貸付事業

続いては、医療貸付事業について解説します。
こちらの事業では、病院や診療所、介護老人保健施設や介護医療院などの医療施設を整備する際の建築資金を融資しています。

建築資金の他にも、感染症対策を伴う整備事業や耐震化整備などへの対応、制度改正などによる突発的な資金不足に対応するための運転資金等、多様な融資メニューがあります。

融資の対象となるのは、個人、医療法人、一般社団法人又は一般財団法人、社会福祉法人、学校法人などです。

(出典:独立行政法人 福祉医療機構ホームページ

経営サポート事業

経営サポート事業の説明画像

福祉医療機構(WAM)は、貸付事業の他にも経営サポート事業を行っています。
主なサービス内容は以下のとおりです。

経営サポート事業のサービス
  • リサーチレポート
  • コンサルティング
  • 経営セミナー
  • 経営動向調査
  • 経営分析参考指標 他

上記のサービスの中でも、経営分析参考指標レポートデータについては、保育業界の経営者の方もお役立ていただける内容です。
詳細は以下で解説しておりますので、読み進めていただければと思います。

社会福祉振興助成事業(WAM助成)

国の政策と連動し、制度の狭間にある社会課題に取り組むNPOやボランティア団体などの民間福祉活動を助成する事業です。

対象者はNPO法人、社会福祉法人、医療法人、公益法人などです。

過去には、「子育て困難家庭やこどもへの配慮・対策等を強化する事業」として、不登校の子どもや保護者が地域の居場所となるような取組を行うモデル事業への助成実績があります。
令和3年度は、助成件数132件、約6億円の助成実績があり、社会福祉の振興に寄与しています。

(出典:独立行政法人 福祉医療機構ホームページ WAM助成

退職手当共済事業

当ブログをご覧いただいている幼児教育・保育業界の経営者の皆さまは、こちらの事業に馴染み深い方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

退職手当共済制度は、福祉施設などにお勤めの職員のための退職手当金制度であり、法律に基づき全国規模で実施されています。
令和4年4月現在で約89万人の方が加入しており、令和4年度実績では約8万2千人の退職者に約1,236億円支給しています。

この社会福施設等職員に係る退職手当金の財源は、「共済契約者(経営者)」が負担する掛金と、「」・「都道府県」の補助金によってまかなわれています。

退職金について当ブログの後半で詳しく解説しております。

(出典:立行政法人 福祉医療機構ホームページ 退職手当共済事業

その他事業(心身障害者扶養保険事業・WAM NET事業)

これまでご紹介した事業の他にも、独立行政法人 福祉医療機構では、心身障害者扶養保険事業やWAM NET事業を実施しています。

心身障害者扶養保険事業は、地方公共団体が実施する「障害者扶養共済制度(しょうがい共催)」の共済責任をWAMが一元的に保険する事業です。
令和3年度末時点で、加入者数は約5万8千人、年金支給額は約142億円の実績があります。

また、WAM NET(ワム ネット)事業は、福祉及び保険医療に関する制度や施策などを関係者や一般の方に向けて幅広く提供する総合情報提供サイトを運用しています。
全国の保育施設等の情報を掲載している「ここdeサーチ」もWAM NET事業に含まれています。
WAM NET事業については、後ほど詳しく説明いたします。

(出典:独立行政法人 福祉医療機構ホームページ 心身障害者扶養保険事業
(出典:独立行政法人 福祉医療機構ホームページ WAM NET事業

保育業界経営の為になる福祉医療機構の経営サポート事業

保育業界経営の為になる福祉医療機構の経営サポート事業の説明画像

ここからは、保育業界の経営に役立つ福祉医療機構の経営サポート事業について解説します。

経営分析参考指標について

福祉医療機構は、厚生労働省・こども家庭庁所管の独立行政法人であるため、多くの経営情報を持っています。その中でも、毎年まとめている「経営分析参考指標」が経営の参考となります。

この経営分析参考指標は、以下の5つの視点で分析しているのが特徴です。
保育所・認定こども園の指標とあわせて記載します。

福祉医療機構の経営分析参考指標の5つの指標
  • 機能性(利用率、児童1人1月当たりサービス活動収益 他)
  • 費用の適正性(人件費率、経費率 他)
  • 生産性(従事者1人当たりサービス活動収益、労働生産性 他)
  • 安定性
  • 収益性(サービス活動収益対サービス活動増減差額比率 他)

1部3,300円で有料頒布されていますが、ダイジェスト版は福祉医療機構のホームページから無料で閲覧することが可能です。

中小企業診断士:大窪

このような指標を活用し、同業種比較を行うことで自園の経営を見直すことができます。
令和3年度の保育所の概要を見ると、赤字施設の割合が前年対比で5.2%増えていたのには驚きました…。処遇改善等加算Ⅱの取得率は94.8%でした。このように、資料から様々なことを読み取ることができます。

各種レポートデータ

続いては、各種レポートデータです。
福祉・医療施設の経営に役立つ情報をレポートにて公表しています。

令和4年度は、保育所・認定こども園の経営状況介護人材に関するアンケート調査等、約20本のリサーチが公表されました。

令和5年度は、保育事業に関連するレポートデータとして、福祉・医療施設の建築費の状況が取りまとめられています。
こちらについては、別記事で解説しておりますので、ぜひご覧くださいませ。

関連記事:【2023年最新版】保育所・認定こども園の建設費の動向|こども園移行をお考えの経営者の方へ

福祉医療機構の融資について

福祉医療機構の融資についての説明画像

ここまでは、独立行政法人福祉医療機構(WAM)が行う主な事業の概要について説明しました。
ここからは保育業界に関する事業についてより詳しく解説していきます。

福祉医療機構が行う融資について、以下の資金の融資を受けることができます。

福祉貸付事業の資金の種類
  • 建築資金(新築、改築、拡張、改造・修理、購入などに必要な資金)
  • 設備備品整備資金(機械器具、備品などの整備資金)
  • 土地取得金

保育所等を新たに建設する場合だけでなく、園舎の建て替えの際にも融資を受けることが可能です。

融資限度額は以下の方法で計算します。

福祉貸付事業の融資限度額の計算方法

どちらか低い額が融資限度額となります。

  1. (基準事業費-法的・制度的補助金)× 融資率
  2. 担保評価額 × 70%

基準事業費とは、例えば貸付金の種類が建築資金であれば、福祉医療機構が定めた「定員1人あたりの基準単価」に利用人数を掛けて算出します。
ちなみに、令和5年度定員1人あたりの基準単価は、保育所本体350万円です。

法的・制度的補助金は、保育所等整備交付金就学前教育・保育施設設備交付金)等が該当します。
融資率は、保育所であれば80%です。

気になる金利ですが、令和5年9月現在で借入期間20年でも1.200%と、一般の銀行で借りるよりも低金利で借入ができます。

(出典:独立行政法人 福祉医療機構ホームページ 福祉貸付事業

福祉医療機構 退職金について

福祉医療機構 退職金についての説明画像

続いては、退職手当共済制度について解説します。

この退職手当共済制度は、社会福祉法人が経営する社会福祉施設等に従事する職員が退職した際に受け取れる退職手当金制度であり、法律に基づき全国規模で実施されています。

退職手当金の財源は、「共済契約者(経営者)」が負担する掛金と、「」・「都道府県」の補助金によってまかなわれています。

令和5年度の職員1人あたりの単位掛金額44,500円です。

普通退職の場合の退職手当金支給額の例を表にしました。

勤務期間退職時本俸
(月額)
退職手当金支給額
(普通退職の場合)
5年間20万円49万5,900円
10年間22万円114万8,400円
15年間26万円269万7,000円
20年間28万円572万4600円
退職手当金支給額の例(出典:独立行政法人 福祉医療機構

普通退職の場合、20年勤務をした方だと600万円近くが支給されます。

中小企業診断士:大窪

退職手当共済制度を活用すると、法律に基づいて退職手当金を受け取ることができるため、職員の処遇向上となります。
一般企業では、退職金制度がない法人も多くありますので、退職手当共済制度に加入していれば採用活動の際に有利に働く場合もあります。職員の定着にもつながるため、まだ活用されていない社会福祉法人の方は、活用を検討してみてはいかがでしょうか。

WAM NET事業について

WAM NET事業についての説明画像

WAM NET事業について解説します。
WAM NETでは、総合情報提供サイトにて、福祉・保健・医療に関する制度や施策をわかりやすく提供しています。

行政の情報や、イベント・セミナー情報等も掲載されいているのですが、保育事業について大きく関わる情報は以下の2つです。

保育事業に関連する主なWAM NETの掲載情報
  • 社会福祉法人の財務諸表等電子公開システム
  • ここdeサーチ(子ども・子育て支援情報公表システム)

社会福祉法人の財務諸表等電子公開システムでは、全国の社会福祉法人の関する情報(現況報告書、計算書類及び社会福祉充実計画)を公表しています。

社会福祉法人の財務書状等電子公開システムの説明画像
社会福祉法人の財務諸表等電子公開システムページ

「法人名」「事業所名」「住所」「サービス」「法人番号」などの様々な検索条件から社会福祉法人を検索することができます。

ここdeサーチ(子ども・子育て支援情報公表システム)では、全国の認定こども園、保育所、幼稚園の情報が掲載されています。情報公開の目的は、施設の情報を積極的に公開することが幼児教育・保育の質の向上につながること、広域利用を検討している利用者の利便性に考慮し全国の施設情報が閲覧できることです。

ここdeサーチの説明画像
ここdeサーチ

場所や施設の種類から検索することができ、病児保育や一時預かりを行っている施設の検索も行えます。

中小企業診断士:大窪

入園に向けて施設を探している保護者の方が、ここdeサーチを利用することも多いに考えられます。ここdeサーチに限らず、自施設の情報をWEB上で公開することで、園児獲得につながるため、積極的に公表していきましょう。

福祉医療機構についてよくあるご質問

福祉医療機構についてよくあるご質問の説明画像

ここからは、独立行政法人福祉医療機構について、よくある質問にお答えいたします。

Q
福祉医療機構の退職金は遅いと聞きましたが本当でしょうか?実際に入金されるのはいつになりますか?
A

福祉医療機構へ書類が到着してから3か月を目安に支給されます。また、4~8月にかけては混みあうため、遅くなってしまうようです(3月末退職者からの請求が多いため)。

(出典:社会福祉施設職員等退職手当共済制度 よくある質問集

Q
福祉医療機構への融資相談はどこですればいいのでしょうか?
A

福祉医療機構への融資相談窓口は、施設の場所等によって異なります。まずは、電話での相談を受け付けています。

施設が東日本の場合施設が西日本の場合NPO法人の場合
福祉医療貸付部 福祉審査課
融資相談係
大阪支店 福祉審査課
融資相談係
NPOリソースセンター
NPO支援課
融資の相談窓口(出典:R5福祉貸付事業 融資のごあんない P,3
Q
福祉医療機構に提出する事業報告書について教えてください。
A

事業報告書は、福祉貸付・医療貸付の融資を受けた方が、金銭消費貸借契約証書の特約条項に基づき、返済が終わるまでの期間、経営状況について報告を行うために毎年度提出の必要があります。提出依頼が送付されたら、「事業報告書等電子報告システム」を通して提出します。

(出典:経営サポート事業 事業報告のご案内

Q
福祉医療機構が作成している経営分析参考指標とはどのような物でしょうか?
A

上述した福祉貸付・医療貸付の融資を受けた方が提出している事業報告書等のデータをもとに作成されています。「機能性」「費用の適正性」「生産性」「安定性」「収益性」の5つの視点で分析しているのが特徴です。
WAMのホームページから、ダイジェスト版を確認することができます。

保育園・こども園・幼稚園経営でお悩みなら東北・宮城の幼児教育・保育業界専門の経営コンサルティングいちたすへ

いちたす事務所画像

本記事では、福祉医療機構(WAM)について詳しく説明してきましたが、保育園を運営するうえでお困りのことがありましたら、株式会社 いちたすへお気軽にお問合せください。

いちたすについて

株式会社 いちたすでは、保育園の経営者の皆様に対して、運営・財務・経営に関するコンサルティングを専業で行っています。

会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、保育所のバックオフィス業務書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。

会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない、というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、委託費の加算の取りこぼしがないか処遇改善をどのように取り入れていけばよいかなどを確認する相談契約もございます。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも出来ます。

料金プラン

株式会社 いちたすでは、定期的な顧問契約から、スポット(単発)での委託費の確認申請書類の確認なども行っております。

たとえば顧問(相談)契約、コンサルティング契約は

保育園の顧問(相談)契約の場合(1園)

月額22,000円
(税込)
保育園のコンサルティング契約の場合(相談契約含む)(1園)

月額55,000円~
(税込)

で承っております。

依頼の流れ

お問合せフォームかinfo@ichitasu.co.jp宛にメールをお送りください。
詳しい内容をお伺いいたします。

その後は、

その後の流れ
  • 当社の担当者が園にお伺いする
  • 当社事務所(仙台市一番町)にお越しいただく
  • Zoomなどを利用してオンラインで打ち合わせをする

といった形で、具体的にどのようなご支援が出来るのかを打ち合わせいたします。

園によって状況は様々ですが、

など、ご要望に合わせてご提案いたします。
お気軽にお問い合わせください。