一般に公開されている人事評価制度の内容は、営業職や事務職に向けて作成されており、保育士の人事評価では参考にできない、というお悩みの経営者様もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事は、人事評価制度の導入を考えている保育園・幼稚園・認定こども園の経営者の方に向けた保育士の人事評価制度の構築と運用ガイドです。

保育士の人事評価シート記入例や、とある園の成功事例についても記載しておりますので、人事評価制度について関心のある方はぜひ最後までご覧くださいませ。

この記事を監修した人

中小企業診断士:大窪 浩太

関西の税理士法人にて公益法人に対して決算・申告書作成、財務コンサルティングを担当。 2017年、同税理士法人の仙台支店に転勤。 2019年7月に税理士法人を退職後、株式会社いちたすに参画。
得意分野:幼稚園・保育園・認定こども園の経営・財務コンサルティング。 少子化がますます進む東北で、今後数十年、安定して運営していける園づくりの支援を行う。 新規園の設立や代表者の代替わりなどの際は、法人に入り込んで、伴走型の支援を行うこともある。
宮城県中小企業診断協会所属

保育士の人事評価制度の重要性

保育士の人事評価制度の重要性についての説明画像

まずは、保育士の人事評価制度の重要性について解説します。

保育士の人事評価制度導入の必要性

保育園や幼稚園では、毎年一律で昇給額が決まっていたり、賞与の金額も「基本給の〇か月分」と職員全員が同じ基準で決まっていることが多いのではないでしょうか。

ただ、それでは保育士のモチベーション向上につながらなかったり、法人全体の育成にも良くない影響を及ぼすことがあるため幼保施設でも人事評価制度の導入が注目されています。

ここでは、保育士の人事評価制度導入の必要性について3つのポイントを詳しく解説していきます。

人事評価制度導入の必要性3つのポイント
  • 保育士の能力開発と組織力の強化
  • 保育士のモチベーション向上
  • 公正で透明性の高い人事管理の実現

以下より詳細を説明します。

保育士の能力開発と組織力の強化

「評価」と聞くとネガティブな印象を持つ園長先生や理事長先生又は職員の方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、人事評価制度を正しく運用することは、保育士の能力開発組織力の強化につながります。

評価項目を設定する際は、法人として又は園として職員に求める行動資質能力言語化します。
その言語化された評価項目を見て職員は、自分にとって必要なスキルを自覚することができます。

また定期的に評価されることで、自分自身の日々の業務を振り返るきっかけとなり、自分に足りていない能力に気づき自己研鑽に励むこともできます。そのため、人事評価制度を運用することで職員の育成、マネジメントの強化が図れます。

保育士のモチベーション向上と人事評価の関係

これまでの幼保施設では、経験年数によって給与が傾斜設定されていることが多くありました。
ただ経験年数で給与を決めてしまうと個人の能力によって変わるものではなくなってしまうため、経験年数が浅い職員が法人に貢献していた場合でも、給与や賞与に反映されないことになります。

経験年数だけが考慮され、日々の業務は頑張っても頑張らなくても給料は同じ額となれば、誰しもモチベーションは下がってしまうのではないでしょうか。
人事評価制度を導入することで、保育士等の職員一人一人の仕事ぶりを評価給与に反映することができます。

職員は自分の業務の成果が評価や給料といった目に見える形で表れるため、「もっと頑張ろう」「次はこの項目にチャレンジしよう」とモチベーションが上がり、育成や定着の効果があります。

いちたす:松嶋

人事評価と報酬を連動させる場合、毎月の給与に反映する方法賞与に反映する方法と2通りあります。定期昇給の額は一律で、評価分を+αで昇給させたり、賞与にのみ反映させたりすることもできます。

注意事項

処遇改善等加算を取得している施設では、園全体としての賃金水準を下げることはできません。人事評価等の客観的な基準を用いて、評価が低かった職員の減額分を評価が高かった職員へ配分し、園全体でみた際に賃金水準を維持するという方法は可能ですが、自治体によって認められない場合もございますのでご注意くださいませ。

公正で透明性の高い人事管理の実現

幼保事業は公益性の高い事業であるため、公正な給与設定が必要な他、納得感のない給与設定の場合は保育士が不満を持ち退職してしまうデメリットもあります。
また処遇改善等加算制度では、恣意的な配分は禁止されており、実績報告の際に自治体から客観的な配分基準の根拠を求められる場合もあります。

人事評価制度を導入することで、公正で透明性の高い人事管理の実現を行うことができます。
そのため自治体から客観的な配分根拠を求められた場合も、人事評価の結果を提出することができますし、公正な評価基準が実現できれば保育士も評価に納得できるので、不満を持ちにくいというメリットがあげられます。

効果的な人事評価制度の設計ポイント

効果的な人事評価制度の設計ポイントについての説明画像

ここからは効果的な人事評価制度の設計ポイントについて解説します。

評価項目の明確化

人事評価制度を導入する際、評価項目について迷われている方も多いのではないでしょうか。
営業や事務の職種であれば一般的な評価項目が使用できますが、保育施設では保育士の職務内容に基づいた評価項目の設定を行う必要があります。

法人の経営方針や保育理念に沿った評価項目を設定することが一番望ましいですが、客観的な評価基準と指標の策定を「保育所における自己評価ガイドライン」を参考にして行う方法もあります。

「保育所における自己評価ガイドライン」は2009年3月に厚生労働省によって作成され、2020年3月に改訂版が公表されました。本ガイドラインでは、保育所保育指針に基づき、保育の質の向上のため保育内容や保育の実施運営の状況保育士等の個人または保育所の組織評価することを示しています。
(出典:厚生労働省 2020年(令和2)年3月 保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版

「いちたす保育園」という架空の保育園をもとに人事評価シートの一部を作成しました。

保育士の人事評価シート記入例の説明画像
人事評価シート 保育士 記入例
いちたす:松嶋

評価項目は、誰が評価しても同じ結果になる、「定量的」な項目にすることをおすすめします。しかし、全ての項目を定量的に表すことは難しいかもしれません。本シートでは、定量的な項目と定性的な項目を織り交ぜて作成しておりますが、例えば「保育理念の理解」をテスト形式にし、80点以上獲得する等の基準を設けることで定量的な項目とすることもできます。

また、評価項目は1回設定したら終わり、ではありません。運用してみて実態とそぐわない場合は手直しが必要です。評価項目の定期的な見直しと改善を図りましょう。

評価方法の選択

評価項目が明確になったら、評価方法を決定します。
ここでは代表的な評価方法を3つご紹介します。

上司評価

上司が部下を評価する一般的な評価制度です。
二次評価といって、一次評価の上司とさらにその上の上司が2回評価する制度もあります。
評価の客観性を高めたい場合は二次評価の導入をおすすめします。

自己評価

その名の通り自分で自分を評価します。
自己を振り返り評価した後、上司が評価を行い、その結果についてフィードバックを行う方法もあります。
前述の「保育所における自己評価ガイドライン」をより活用するために厚生労働省がハンドブックも作成しています。

360度評価

人事評価は上司から部下へ評価を行うことが一般的ですが、360度評価は部下も上司を評価したり、自己評価に加えて同僚も評価に加わります。
評価に複数の人物が関わることになるため、実施の負担が大きいというデメリットがありますが、多方面からフィードバックを受けられるという大きなメリットがあります。

いちたす:松嶋

評価方法の客観性と公平性確保のため、360度評価上司評価自己評価などを組み合わせた評価方法の導入を検討してはいかがでしょうか。また、法人によって合う合わない評価方法もあるため、評価項目と同じく評価方法の定期的な見直しと改善も重要です。

制度運用の徹底

評価項目と評価方法を策定したものの「なかなか定着しなかった…」という法人の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
制度運用の徹底を図るためのポイントをご紹介します。

人事評価制度の定着に向けたポイント
  • 定期的な評価面談の実施
  • 評価結果のフィードバックと指導
  • 評価結果に基づいたキャリアプランの策定
  • 職員とのコミュニケーションと情報共有の徹底

評価面談やフィードバックがなければ、被評価者は評価結果を知る機会がなくせっかくの成長するチャンスを逃してしまいます。人事評価は給与を決めるためだけのものではありません。モチベーション向上、能力開発といった人事評価のメリットを最大限享受するためにも制度運用の徹底化を図りましょう。

いちたす:松嶋

人事評価制度は、定期的な見直しと改善(PDCA)が必須なため、最初から完璧な制度は出来ないことが多いです。また、これまで一律に定期昇給されていた職員の方にとっては、人事評価制度が給与に反映するとなると抵抗を感じる可能性もあります。そういった場合は、まずは評価のみを行い、評価項目や方法が確立してから給与に反映するといった長期的なスパンでの導入が必要になることも多いです。

人事評価制度導入の成功事例

人事評価制度導入の成功事例についての説明画像

「実際に人事評価制度を導入している園の具体的な内容と方法が知りたい!」という方へ、人事評価制度導入の成功事例をお伝えします。

具体的な人事評価制度の内容と導入効果

東京都にある、とある認定こども園A園では、2020年から人事評価制度を導入しました。
具体的な内容を理事長先生にインタビュー形式でお伺いしました。

いちたす:松嶋

なぜ人事評価制度を導入しようと思ったのですか。

理事長

人事評価制度を導入する前は、給与も賞与も年功序列で決めていました。ただ経験年数が高い低いに関わらず、法人の理念を体現している職員もいれば、そうでない職員もいました。保育事業はヒトが主体のサービスです。より理念を追求した保育を行える人材を育てようと人事評価制度の導入に踏み切りました。

いちたす:松嶋

具体的にはどのような評価制度ですか。

理事長

評価項目は、保育所における自己評価ガイドラインを参考にしつつ、児童福祉法保育所保育指針全国保育士会倫理綱領、法人理念を中心に設定しました。評価方法は年2回自己評価を行ったあと主任が評価を行い、その結果をもって2者で面談を行います。面談ではお互いの評価についてすり合わせを行いフィードバックの機会とします。最終的に園長が2次評価者として評価を行います。

いちたす:松嶋

人事評価制度を導入することで、どんな効果がありましたか。

理事長

まずは法人の保育理念が職員に深く浸透しました。評価制度を導入した翌年に賞与に連動させたため、職員が評価項目の内容をより真剣に意識するようになりました。そうすると日頃から法人の理念を意識した保育計画を策定したり、行動に表れるようになりました。「これをしたら評価があがる」と明確なため、職員のモチベーションも向上しています。

認定こども園A園では、人事評価制度を導入することで園全体に法人理念が浸透したり、職員のモチベーションが向上したりと良い効果が表れています。
成功事例から学べるポイントを以下で解説します。

成功事例から学べるポイント

認定こども園A園が人事評価制度の導入で成功したポイントは大きく2つです。

認定こども園A園の成功ポイント
  • 導入時に職員に対して人事評価制度の導入目的についての丁寧な説明
  • PDCAサイクルの実施

一つ目は、職員への丁寧な説明です。
これまで年功序列制だった給与体系が一変するということは、職員に大きな影響を与えます。評価によっては、賞与が上がる職員もいれば、下がる職員もいるということです。なぜ人事評価制度を導入する必要があるのか人事評価制度が法人が考えている未来とどう関係するのか言葉を尽くして説明する必要があります。説明が不足していると不信感を煽ってしまう可能性もあります。

二つ目はPDCAサイクルの実施です。
A園では1回目の人事評価のあと職員との面談時に、評価の納得感はあるか、どのような評価項目があったらよいかの聞き取りを行いました。はじめはA・B・C評価にしていましたが、職員がパッと見て評価を把握しやすいように、また賞与算定時に計算しやすいことから数値評価に変更しました。法人にあった評価項目と評価方法をPDCAサイクルを回して見つけています。

いちたす:松嶋

認定こども園A園の成功事例はいかがでしたでしょうか。理事長先生、園長先生一人で人事評価制度の構築を行うことは、とても骨の折れる作業になります。お一人で悩まず、困ったことがございましたらぜひ弊社の無料相談をご利用くださいませ。

人事評価制度導入の注意点

人事評価制度導入の注意点についての説明画像

ここでは人事評価制度導入にあたっての注意点を解説します。

制度導入の目的と目標の明確化

人事評価制度の導入において、どのような評価項目にするのか、評価方法は法人にとって何が最適か等、検討事項はかなり多いです。
選択肢も多いため迷いが発生する場合もありますが大切なことは、なぜ人事評価制度を導入しようと思ったのかそもそもの目的と目標です。

例えば「公正で透明性の高い人事管理」を一番の目的とした場合、評価を行うのは1人だけではなく2人で行う二次評価制度を導入した方が公正性を高められます。

迷いが生じた際の柱となるように、人事評価制度の制度導入の目的と目標の明確化を行いましょう。

職員の意見を取り入れた制度設計

管理職層だけで人事評価制度の設計を行うと、現場の実態とかけ離れた内容となり制度の運用自体が上手くいかない可能性もあります。

人事評価制度を導入するにあたり、職員には人事評価制度の導入意図を丁寧に説明し、必要であればアンケートをとる等して職員の意見を収集しましょう。
職員は「もっと面談の機会がほしい」「こんな評価項目があったらもっと頑張れるのに」といった思いを抱えているかもしれません。

人事評価制度を上手く活用し、保育士の定着モチベーションアップを図るためにも職員の意見を取り入れた制度設計を行いましょう。

制度導入後の定期的な運用と改善

人事評価制度は導入までの工程が多いですが、本番は導入後です。
初めて人事評価制度を導入した場合、評価する側も評価される側も慣れていないため、評価項目が実態に即していないことや、評価に納得できないこともあります。

そのため、いきなり給与や賞与に紐づけるのではなく、最初は評価のみを行い、評価項目や方法の適正性を見極める方法もあります。評価を何回かくり返し、評価項目の改善評価方法の見直しができたら本格的に制度を導入します。

最初から完璧なものを作ろうとせず、評価制度を試す中で職員からも情報を収集し、人事評価制度のメリットを最大限享受できるような制度にしていきたいですね。

保育士の人事評価でよく頂くご質問

保育士の人事評価でよく頂くご質問についての説明画像

保育士の人事評価についてよく頂くご質問にお答えいたします。

Q
人事評価の項目を何にすれば良いのですか?
A

営業や事務の職種で使用する評価項目は、保育士の人事評価にそのまま当てはめて使うことは難しいですよね。法人の経営方針や保育理念に沿った評価項目を設定することが一番望ましいですが、客観的な評価基準と指標の策定を「保育所における自己評価ガイドライン」を参考にして行う方法もあります。本記事の前半では、見本の評価シートも掲載しておりますのでご参考になりましたら幸いです。

Q
給与は下げられないのではないですか?
A

仰るとおり、処遇改善等加算制度を導入している園では、起点賃金水準を維持するというルールがあるため、園全体の給与水準を下げることができません。しかし人事評価等の客観的な基準を用いて、評価が低かった職員の減額分を評価が高かった職員へ配分し、園全体で見ると賃金水準を維持するという方法は可能ですが、自治体によって認められない場合もございますのでご注意くださいませ。

Q
そもそも人事評価を入れた方が良いですか?
A

人事評価制度を導入することで、保育士の能力開発モチベーション向上に役立ちます。これまで年功序列の賃金体系で職員間で不満が募っている、経験年数が浅くても頑張っている職員に還元したい、法人全体の育成を強化したいという法人の方は、人事評価制度の導入が課題解決の糸口になるかもしれません。

保育園・幼稚園・こども園経営のご相談なら幼児教育・保育専門コンサルティング会社いちたすへ

いちたす事務所画像

保育園・こども園・幼稚園を経営するうえで、お困りのことがありましたら株式会社 いちたすへお気軽にお問合せください。
今後どのように運営していけばよいか、給付費(委託費)や補助金はしっかりと取れているのかといった経営・財務に関するご相談から、保育士・職員に外部研修を行ってほしい等の人材育成に関するご相談まで、幅広くご支援しています。

いちたすについて

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株式会社 いちたすでは、保育園・こども園・幼稚園の経営者の皆様に対して、経営・運営・財務に関するコンサルティングを専業で行っています。

会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、保育所のバックオフィス業務書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。

「会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない」というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、

  • 委託費の加算の取りこぼしがないか、第三者に確認してもらいたい。
  • 認定こども園への移行を考えているが、何から手を付ければよいかわからない
  • 処遇改善をどのように取り入れていけばよいか、他園がどのように行っているかを知りたい。

などのお悩みに対してご支援・コンサルティングを行う顧問(相談)契約もあります。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも可能です。

料金プラン

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株式会社 いちたすでは、定期的な顧問契約から、スポット(単発)での委託費の確認、申請書類の確認なども行っております。

たとえば相談契約、コンサルティング契約ですと

保育園の顧問(相談)契約の場合(1施設)

月額22,000円~
(税込)
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月額55,000円~
(税込)

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「複数施設を運営しているが本部で契約したい」「打ち合わせは2か月に1回でよい」など、オーダーメイドでご契約内容を作成いたしますので、お気軽にご連絡ください。

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その後は、

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  • Zoomなどを利用してオンラインで打ち合わせをする

といった形で、具体的にどのようなご支援が出来るのかを打ち合わせいたします。

園によって状況は様々ですが、

など、ご要望に合わせてご提案いたします。
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