令和6年8月に人事院より国家公務員の給与改定についての勧告が行われました。
一見、国家公務員の給与改定は私立の幼稚園・こども園・保育園とは関係がないように思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この人事院勧告は幼保業界の経営に大きく影響を与えます。
本記事では保育事業専門の経営コンサルタントがプロの目線で、国家公務員の人事院勧告の内容を解説しました。また、令和6年度の公定価格への影響、人件費改定分に係る改定率についての予想も行いましたのでどうぞ最後までご覧くださいませ。
この記事を監修した人
関西の税理士法人にて公益法人に対して決算・申告書作成、財務コンサルティングを担当。 2017年、同税理士法人の仙台支店に転勤。 2019年7月に税理士法人を退職後、株式会社いちたすに参画。
得意分野:幼稚園・保育園・認定こども園の経営・財務コンサルティング。 少子化がますます進む東北で、今後数十年、安定して運営していける園づくりの支援を行う。 新規園の設立や代表者の代替わりなどの際は、法人に入り込んで、伴走型の支援を行うこともある。
宮城県中小企業診断協会所属
人事院勧告と幼保業界の関連性
国家公務員はその業務の特殊性から、団体交渉権等の労働基本権が制約されています。
この制約により、労使の交渉で給与を決めることができないため、その代償措置として人事院が国会と内閣に対して給与改定の勧告を行います。
実はこの人事院勧告は公定価格や処遇改善等加算といった幼保業界の経営について大きく関係しています。
詳細は以下ブログ記事にまとめておりますのでご覧くださいませ。
令和6年の人事院勧告・報告の内容解説
本記事では、令和6年の人事院勧告の内容に焦点を当てて解説します。
令和6年 人事院勧告のポイント
令和6年の給与改定は以下とされました。
民間給与の状況を反映して、約30年ぶりとなる高水準のベースアップ
(出典:人事院 令和6年 人事院勧告・報告の概要)
初任給が大幅に引き上げられる等、概ね30歳台後半までの若年層職員を特に重点に置きつつ、全年齢層で全俸給表が引上げ改定されます。
ちなみに令和5年はどうだったかというと「過去5年の平均と比べ、約10倍のベースアップ」でした。
令和5年度の国家公務員の人事院勧告が行われた時点で「令和5年度は何だかすごそう…」と思っていましたが、やはりこども家庭庁が通知した令和5年の人件費改定分に係る改定率は5.2%と令和4年度の1.2%と比べても大幅な引上げでしたね。
さて、令和6年は令和5年を更に上回りそうな「約30年ぶりとなる高水準のベースアップ」とされました。
更に詳しい内容を人事院が発表している資料からポイントを抜粋します。
官民較差:11,183円(2.76%)
- 採用市場での競争力向上のため初任給を大幅に引き上げ(給与制度のアップデートの先行実施)
【総合職(大卒)】230,000円(+14.6%[+29,300円])
【一般職(大卒)】220,000円(+12.1%[+23,800円])
【一般職(高卒)】188,000円(+12.8%[+21,400円]) - 若年層に特に重点を置きつつ、全ての職員を対象に全俸給表を引上げ改定
※おおむね30歳台後半までの職員に重点を置いて改定
行政職俸給表(一)の平均改定率は、1級[係員]11.1%、2級[主任等]7.6%、全体3.0%
※官民較差はいわゆる「ベア」に相当。モデル試算した定期昇給分を加えると、月収で約4.4%の給与改善
(出典:人事院 令和6年 人事院勧告・報告の概要)
「採用市場での競争力向上のため」とはっきりと記載があり、国も採用市場で戦えるように変えていこうとしている姿勢が資料から読み取れます。国家公務員の給与改定の内容が地方公務員の給与改定にも影響を及ぼすため、公立の保育士の初任給が上がることにもつながります。
私立の園でも初任給をあげていかないと、公立園との比較になったときに、採用市場での戦いが厳しくなっていく可能性が高いです。
年間4.50月分 → 4.60月分 期末手当及び勤勉手当の支給月数をともに0.05月分引上げ
(出典:人事院 令和6年 人事院勧告・報告の概要)
期末手当と勤勉手当の支給月数が、それぞれ0.05か月分引き上げるので、年間で0.1か月分の上昇になっています。
民間の同種手当の支給額を踏まえ、月額を11.3%引上げ。新たな気象データに基づき、支給地域を改定
(出典:人事院 令和6年 人事院勧告・報告の概要)
寒冷地手当の引上げは、保育事業の人件費の改定状況分には直接影響はないかと思いますが、公定価格の「冷暖房着加算」の金額に影響があるかもしれませんね。
では、ここからは令和6年の人事院勧告がどれほど引上がるのかを知るため、令和4年から令和6年にかけて国家公務員の人事院勧告の流れを見てみましょう。
給与勧告の実施状況 | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年 |
---|---|---|---|
一般職高卒初任給 (前年増減率) | 154,600円 (-) | 166,600円 (7.76%) | 188,000円 (12.85%) |
一般職大卒初任給 (前年増減率) | 185,200円 (-) | 196,200円 (5.94%) | 220,000円 (12.13%) |
民間給与との較差 | 921円(0.23%) | 3,869円(0.96%) | 11,183円(2.76%) |
行政職(一)職員の 平均年間給与増減率 | 0.8% | 1.6% | 3.4% |
(出典:人事院 令和4年8月 給与勧告の仕組みと本年の勧告のポイント)
(出典:人事院 令和6年8月 本年の給与勧告のポイントと給与勧告の仕組み)
こうして比較してみると令和6年がいかに大幅改定かがわかります。
令和5年の平均改定率は1級の係員で5.2%、令和6年はなんと倍以上の11.1%です。
地域区分の変更?!地域手当の見直しについて
令和6年の人事院勧告では、国家公務員の地域手当も見直しされることになりました。この地域手当は、保育園の人件費改定分について直接影響はありませんが、実は公定価格のある部分に大きく関係しています。
それは地域区分です。
公定価格は物価が高い地域に所在する施設に配慮し、8つの地域区分に応じて単価が高く設定されています。この地域区分は、国家公務員の地域手当の支給割合の地域区分と連動しているのです。
結論から申し上げますと、2024年9月時点では公定価格の地域区分がどのように変更になるのか、公表されておりません。そのため、ここでは国家公務員の地域手当がどのように見直されるのか、をお伝えいたします。
地域手当の見直しのポイントを抜粋します。
- 支給地域の単位の広域化
都道府県を基本とする。中核的な市(都道府県庁所在地及び人口20万人以上の市)については当該地域の民間賃金を反映 - 級地区分をシンプルに
20%、16%、12%、8%。4%の5級地に再編。民間賃金が高い東京都特別区については引き続き20%に設定 - 支給割合の変動に伴い激変緩和に配慮
現行からの支給割合の引下げは4ポイント以内に抑制
支給割合の引下げは段階的に実施(1年1ポイントずつ。引上げもこれに合わせて段階的に実施) - 現在10年ごととしている級地区分の見直し期間を短縮
見直し後の支給地域及び支給割合の一覧を抜粋し記載いたします。
例えば、弊社の事務所がある宮城県仙台市の支給割合は現行は6%ですが、見直し後は8%となります。一方、同じ県内の宮城県多賀城市は現行は10%のところ、見直し後は2%下がって8%となります。
激変緩和措置がとられるため、令和7年に9%、令和8年に8%と1年に1ポイントずつ引下げが行われます。
仙台市や静岡市のように引上げられる都市もあれば、神戸市は12%から8%、広島市は10%から8%へと引下げが行われる都市もあります。
引下げに該当する市町村の方は公定価格にどのような影響があるのかご不安な方も多いかと存じますが、2024年9月時点では公定価格の地域区分がどのように変更になるのか、公表されておりません。公定価格の反映について情報が届き次第、当ブログでお知らせいたします。
令和6年度の人件費改定分に係る改定率の予想
令和6年9月時点では、まだ子ども家庭庁から人件費改定分に係る改定率は発表されておりませんので、令和6年の人事院勧告がどのように公定価格に反映されるかはまだ分かりません。
しかし前述のとおり、令和6年は国家公務員の人事院勧告が大幅に増額改定されたため、人件費改定分に係る改定率も令和5年度と同水準かそれ以上に上がることが予想されます。
令和5年度は人件費改定分に係る改定率は5.2%と発表され、これまでにない大きな改定だったため、人件費改定分の算式が2種類示されたり、「0.9」の調整率を用いたりと、例年とは異なる対応がとられました。また全日本私立幼稚園連合会が都道府県団体長に向けて人件費改定分の情報伝達を行うよう要望書が出される等、現場がかなり混乱した様子もありました。
これを踏まえ、令和6年は改定率の検討や改定分の算式が見直される可能性もあります。
新しい情報が発信され次第、当ブログでお知らせいたします。
国家公務員の人事院勧告が大幅に引き上げられ、個人的には、令和6年の改定率は令和5年の5.2%の倍近くになってもおかしくはないのでは、と感じています。
ただ、令和5年度は人勧分の算定式に調整率が設定されたため、令和6年度も算定式で金額自体の調整を図る可能性もありそうですね。改定率は例年、12月頃に発表されることが多いです。
まとめ
令和6年8月に人事院より国家公務員の給与改定についての勧告が行われました。
令和6年は民間給与の状況を反映して、約30年ぶりとなる高水準のベースアップとなりました。
国家公務員の人事院勧告は、公定価格に反映され、また改定分は保育士等の職員に支給する必要があります。
人件費改定率5.2%となった令和5年に引き続き、令和6年も大きな改定率になることも予想されます。
令和6年9月時点では、まだこども家庭庁より改定率の通知はございません。
新しい情報が届き次第、当ブログで発信してまいります。
人事院勧告について、人事院勧告に伴う対応について詳細をお知りになりたい方は以下記事をご覧くださいませ。
弊社でも処遇改善等加算取得のご支援を行っておりますが、「人事院勧告分を職員にどのように支給するとよいのか」というお悩みが多く寄せられています。
人勧分を一時金で職員へお支払いしている法人様も多い中、令和5年、6年の大幅改定や、また採用市場を考えると一時金で払い続けることが最善の方法ではないかもしれません。ご相談は無料ですのでまずはお気軽にお問い合わせくださいませ。
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今後どのように運営していけばよいか、給付費(委託費)や補助金はしっかりと取れているのかといった経営・財務に関するご相談から、保育士・職員に外部研修を行ってほしい等の人材育成に関するご相談まで、幅広くご支援しています。
いちたすについて
株式会社 いちたすでは、保育園・こども園・幼稚園の経営者の皆様に対して、経営・運営・財務に関するコンサルティングを専業で行っています。
会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、保育所のバックオフィス業務、書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。
「会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない」というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、
- 委託費の加算の取りこぼしがないか、第三者に確認してもらいたい。
- 認定こども園への移行を考えているが、何から手を付ければよいかわからない。
- 処遇改善をどのように取り入れていけばよいか、他園がどのように行っているかを知りたい。
などのお悩みに対してご支援・コンサルティングを行う顧問(相談)契約もあります。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも可能です。
料金プラン
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