本記事では、令和6年2月に閣議決定された「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」に盛り込まれた「新たな継続的な見える化制度」について、「子ども・子育て支援制度における継続的な見える化に関する専門化会議」の報告書の内容をもとに、ポイントを解説しました。
「新たな継続的な見える化制度」は、保育・幼児教育分野における費用の透明性の向上を目的に、保育事業者に都道府県知事へ経営情報等の報告を求めます。
報告内容や施設・事業者ごとに公表される内容について、本記事でまとめました。
現場の事務負担が過大にならなよう制度設計が検討されていますが、新たに報告が増えるということは、多かれ少なかれ事務作業は増えることが予想されます。
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この記事を監修した人

関西の税理士法人にて公益法人に対して決算・申告書作成、財務コンサルティングを担当。 2017年、同税理士法人の仙台支店に転勤。 2019年7月に税理士法人を退職後、株式会社いちたすに参画。
得意分野:幼稚園・保育園・認定こども園の経営・財務コンサルティング。 少子化がますます進む東北で、今後数十年、安定して運営していける園づくりの支援を行う。 新規園の設立や代表者の代替わりなどの際は、法人に入り込んで、伴走型の支援を行うこともある。
宮城県中小企業診断協会所属
新たな継続的な経営情報の見える化の制度とは?

令和5年12月公表の「こども家庭審議会子ども・子育て支援等分科会における議論の整理について」において子ども・子育て支援法の制度改正について以下の通り示されました。
- 事業者(特定教育・保育提供者)に、施設(教育・保育施設)ごとに、毎事業年度の経営情報等(収益・費用、職員給与状況等を想定)を都道府県知事に報告することを求める。
- 都道府県知事には、事業者から報告された経営情報等の分析結果等(施設類型・経営主体類型等の属性に応じたグルーピングによって集計・分析した結果、施設単位の人件費比率・モデル賃金等を想定)を公表することを求める。
また、上記の内容は「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」に盛り込まれ、令和6年2月に閣議決定されました。
つまり、保育事業者は毎年、施設ごとに経営情報を都道府県知事に報告することが求められるようになりました。
制度改正の経緯

では、なぜ保育事業者に経営情報の報告を求める制度改正に至ったのでしょうか。
ここでは制度改正に至るまでの経緯を説明します。
はじまりは、公的価格の在り方の抜本的見直しについて検討する公的価格評価検討委員会でした。
- 令和4年12月:公的価格評価検討委員会(第7回)
費用の使途の見える化にあたり、保育・幼児教育分野については医療や介護などの他の分野と同様の取組について検討を進め、必要な措置を講じるべきであると見解が示されました。
- 令和5年1月~:子ども・子育て支援制度における継続的な見える化に関する有識者会議(計6回)
保育・幼児教育分野において、費用の使途の見える化を通じた透明性の向上を図ることを目的に令和5年1月から8月にかけて開催されました。
- 令和5年11月~:子ども・子育て支援制度における継続的な見える化に関する専門化会議(計5回)
有識者会議で示された基本的な方向性を踏まえつつ、主に「集計・分析の方法」について更に踏み込んだ検討・議論が行われました。

公定価格の財源は国民の税金です。
この税金が効率的に使用されているのか、処遇改善は一部の事業者だけでなく現場のスタッフに広く行き渡っているのか、費用の使い道について見える化を行う必要があるという考えから財務書類の公表、経営情報のデータベース化の実施について検討が始まりました。
令和5年1月から行われた有識者会議の報告書では、継続的な見える化の主な目的について以下のように記載されています。
幼児教育・保育に従事する保育士等の処遇改善や配置改善等の検証を踏まえた、公定価格の改善を図ること。
上記の会議の内容を踏まえて、法律改正案が示されました。
新たな継続的な見える化の制度の重要ポイント

上述したように、有識者会議を経て専門家会議の中で一定の結論が出され、報告書として取りまとめられました。本報告書に公表の在り方について詳細が記載されているため、ポイントを以下にまとめます。
施行期日・報告期限
新たな制度の施行期日は令和7年4月1日です。
そのため、令和6年4月1日以降に始まる事業年度が報告対象となります。
報告期限は事業年度終了後5月以内です。
例えば、事業年度が令和6年4月1日~令和7年3月31日の場合、令和7年8月31日までに報告する必要があります。

報告期限の設定に際して、各種事業報告・財務書類等の作成のための繁忙期に考慮し、余裕を持った期間設定として毎事業年度の終了後5月以内とされました。
(出典:子ども・子育て支援制度における継続的な見える化に係る経営情報等の収集、集計・分析及び公表等の方法について)
報告する経営情報等
保育事業者が報告する経営情報は、主に以下の三つです。
- 人員配置
- 職員給与
- 収支の状況
詳細は次の通りです。
情報項目 | ①人員配置 基準上の配置と実際の配置、 職員の属性情報 等 | ②職員給与 賃金水準、処遇改善状況 職員の属性情報 等 | ③収支の状況 収入・支出の科目別の金額 人件費関連科目の内訳 等 |
報告内容 | 給付・監査等で通常把握されている情報 | 処遇改善等加算の実績報告書を活用 | 各法人の会計基準に従って作成する決算書類の様式を活用 |

また、財務情報については、学校法人会計や社会福祉法人会計、企業会計等、法人により採用する会計基準が異なります。また同じ会計基準を採用していたとしても、事業者ごとに使用している勘定科目が異なる場合もあり一律の把握は難しいと言われています。
とは言え、処遇改善や公定価格の改善が本制度の主な目的であることを踏まえ、中でも人件費や人件費率の状況についてはより正確な集計を行うよう求められています。
具体的には収入に係る勘定科目や人件費や事務費の内訳項目について、新たな継続的な見える化制度で用いる様式において、明示的に設定される予定です。
個別の事業者単位での公表
保育事業者が都道府県知事に報告した経営情報等は、個別の施設・事業者単位で公表されることになっています。
「子ども・子育て支援制度における継続的な見える化に関する有識者会議」の報告書では、情報公表の充実を通じた波及的な効果として次の通り整理されています。
- 保護者や子育て家庭にとって、施設・事業者の比較・検証を可能とし、自身のニーズに適した子育て支援の選択を支援
- 保育士等の求職者にとって、施設・事業者の比較・検証を可能とし、職場の選択やキャリアの検討を支援
- 施設・事業者にとって、業界全体や同じようなカテゴリーの平均的な経営指標を参考とすることで、自ら行う経営分析・改善等を促進
- 研究者による学術研究や政策提言、民間の支援団体等による第三者的見地に基づく幼児教育・保育に資する施策の企画・立案・検証の活性化
保護者や保育士等の求職者が最適な選択ができるように、個別の施設・事業者単位で情報が公開されることが示されています。
個別の施設・事業者単位での公表が考えられる事項は以下の通りです。
- モデル給与
定量的な給与情報は秘匿性が高いため、実績ベースではなくモデル化した給与額として公表。
基本給、手当、賞与等や月収と年収の目安を明示。 - 人件費比率
詳細な財務諸表の情報は施設・事業者単位での公表は求めないため、金額ではなく比率を公表。 - 職員配置状況
公定価格基準上の配置と実際の配置の比率を明示。
また職員配置に係る加算措置や地方単独補助の有無等を付記。
以下の画像はモデル給与の公表イメージです。

特に人件費において、前述したように採用する会計基準や施設において会計処理方法が異なる場合があります。例えば、派遣職員費一つとっても、社会福祉法人会計では人件費、学校法人会計では教育研究経費、企業会計においては業務委託費あるいは支払手数料で処理されることが多いです。
そのため、新たな継続的な見える化制度では「狭義の人件費」と「広義の人件費」と区別して記載されます。
狭義の人件費 (必須記載) | 会計上の人件費、派遣職員経費、法定福利費の合計。 |
広義の人件費 (任意記載) | 上記の他、福利厚生費、研修研究費、職員採用経費、その他「広義の人件費」と 判断するものの合計。 |
保育事業者にとって事務負担が大きくならないよう、情報収集・公表の在り方が検討されています。
グルーピングした集計・分析結果の公表
保育事業者から収集した経営情報等を属性等でグルーピングし集計・分析した結果が公表されます。
グルーピングの集計・分析結果は、幼児教育・保育の全体像を俯瞰し、公定価格の改善をはじめとする政策検討に活用されます。

考えられるグルーピングの視点は次の通りです。
- 施設類型
- 法人形態
- 地域
- 規模(施設定員、収入金額、法人の経営規模 等)
また主に以下の事項について公表が想定されています。
- 職員1人当たりの平均給与/年
- 給与総額に占める職種間の配分割合
- 基準上の配置と実際の配置の比率
- 配置人員の構成比(職種別、属性別等)
- 総収入に占める主要な支出区分の割合(人件費、収支差額等)
(出典:こども家庭庁 報告書の概要)
施設・事業者の属性に応じてグルーピングすることで、公平で公正な比較・検証されることが期待できます。
まとめ
本記事では、令和6年2月に閣議決定された「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」に盛り込まれた「新たな継続的な見える化制度」について、「子ども・子育て支援制度における継続的な見える化に関する専門化会議」の報告書の内容をもとに、作成いたしました。
「新たな継続的な見える化制度」は、保育・幼児教育分野における費用の透明性の向上を目的に、保育事業者が都道府県知事に経営情報等を報告を求め、その情報をもとに都道府県知事が集計・分析を行い結果を公表する、という制度です。収集・分析された情報は、政策検討や保護者・保育士等の選択を支援する為に公表されます。
施行期日は令和7年4月とされており、今後こども家庭庁において報告様式、公表様式及びマニュアル等が策定されます。新たな情報が公開され次第、当ブログで発信していきます。

現場の事務負担が過大にならなよう制度設計が検討されていますが、新たに報告が増えるということで、事務作業が増えることが見込まれます。これを機に、経営者の時間を確保したいという方は弊社でご支援できることがないか、お話を聞かせていただけますと幸いです。お気軽にお問い合わせくださいませ。