児童育成協会が企業主導型保育施設に行う監査は全部で3種類あります。
その中でも本記事では、令和2年度より実施開始となった「専門的財務監査」について詳しく解説していきます。
- 【立入調査】保育面を中心とした全般的な指導・調査(原則として年1回)
- 【立入調査】専門的労務監査
- 【立入調査】専門的財務監査
企業主導型保育園の全体像について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
関連記事:【プロが解説】企業主導型 保育園について5分でわかりやすく解説
また、専門的労務監査については、以下の記事にまとめています。
関連記事:【プロが解説5分で分かる】企業主導型保育施設に対する立入調査による指導・監査(専門的労務監査)解説
立入調査による企業主導型保育施設に対する財務監査とは?
専門的財務監査とは
令和3年度7月より実施されることになった「専門的財務監査」ですが、その名の通り企業主導型保育施設における財務面に特化した監査です。
企業主導型保育事業では、助成金の不正受給等が度々問題として取り沙汰されています。
児童育成協会の発表によると、令和元年度に助成金の不正受給を行っていたとして助成を取り消した施設が7施設ありました。また、会計検査院からも病児保育や利用児童関係について指摘がありました。
企業主導型保育事業の財源は「子ども子育て拠出金」という税金です。
その貴重な税金を不正に使用する、ということはあってはなりません。
そのため、助成金に関する不正を防ぐ観点から専門的財務監査が行われることとなりました。
児童育成協会は、通知文書で専門的財務監査の目的を以下の通りとしています。
助成を受けた企業主導型保育事業の実施者に対し、助成金の不正使用や不適切な会計処理等が行われていないかを重点的に確認するために実施する。
(参考URL:令和4年度企業主導型保育施設に対する専門的財務監査の実施について)
原則年1回行われる通常監査(保育面を中心とした指導・監査)にも経理編として財務面の確認がありますが、不正防止の観点から監査の内容が異なります。
内閣府主催の企業主導型保育事業点検・評価委員会の第8回資料に以下のように記載があります。
児童育成協会の職員が、保育施設の運営を行う上で会計処理が適切に行われているかについて、主に基本的な事項や形式的な内容(帳簿書類や決算書類があるか等)を中心に確認を行うもの。
公認会計士・税理士などの専門的な知見を有する者が、保育施設における帳簿書類や決算書類等を確認した上で、会計処理の具体的な手続き内容や助成金の不正使用等が行われていないかについて確認を行うもの。
(出典:内閣府 企業主導型保育事業点検・評価委員会の第8回資料 資料2-1)
つまり、通常監査では確認が難しい財務面について、公認会計士等の専門家が助成金の不正使用を行っていないかを確認する監査となっています。違いをわかりやすく表にまとめました。
通常監査(経理面) | 専門的財務監査 | |
---|---|---|
監査担当者 | 児童育成協会の職員 | 公認会計士や税理士など専門家 |
監査の観点 | 帳簿書類や決算書類の有無など 基本的で形式的な内容 | 会計処理の具体的な手続き内容 助成金が適切に使用されているか |
また、通常監査は保育施設に立ち入り監査が行われますが、この専門的財務監査は、保育施設を運営している本社事業所等に立ち入ることも他の監査とは異なります。
対象事業者について
では、どのような事業者が対象となるのでしょうか。
当初は令和5年度末までに、全ての施設を対象として実施するという方針でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響等により、施設数を絞って実施されることとなりました。
令和4年度・5年度は、2年間で1,000~1,500施設を対象(各年度500施設以上)として実施することが決定しています。具体的な条件としては、以下の通りです。
- 監査実施年度前年の立入調査や完了報告の審査において、助成金の適正な管理・使用の観点で指摘(把握)があった施設を最優先に対象とする。
- なお、運営費が高額な施設は、助成金の不正使用や不適切な会計処理があった場合に被害金額が多額になるなどのリスクがあることから、上記対象施設から実施施設を選定する際には、運営費の助成額(特に3,000万円以上)についても考慮する。
(出典:内閣府 企業主導型保育事業点検・評価委員会の第11回資料)
今後どのように進んでいくのかが気になるところですが、令和6年度以降については、今後の監査状況や実績を考慮し検討されます。
企業主導型保育園の全体像についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【プロが解説】企業主導型 保育園について5分でわかりやすく解説
立入調査の手順
では、立入調査はどのような手順で実施されるのでしょうか。
令和4年度に児童育成協会が通知した文書より、財務監査の実施フローを以下に記載します。
- 概ね1か月前
監査対象となる施設に、概ね1か月前を目途に通知書が届きます。
- 監査日当日
労務監査員(2名以上)が施設を訪問し、聞き取り調査を行い、最後に講評します。
- 監査後
児童育成協会と委託事業者が指摘事項精査後、立入調査結果通知書が通知されます。
- 立入調査結果通知書到着後1か月
改善指導があった場合、改善報告書を1か月以内に提出します。
(出典:児童育成協会 指導・監査(専門的財務監査)の実施について(お知らせ))
必要に応じて事業実施者の本社や支社、運営委託先にも立ち入り調査の可能性があり、その場合は積極的に協力することを求められています。
財務監査評価基準の内容
それでは、専門的財務監査では、どのような基準で監査を行うのでしょうか。
前述の企業主導型保育事業点検・評価委員会の第8回資料では「①管理組織、②適正な会計処理、③透明性の確保された契約の3つの観点を踏まえて財務監査基準を策定する」となっています。
また、令和4年度に児童育成協会より発出の通知文では「5項目について確認を行う」と明記されています。
その項目について、以下にまとめました。
- 管理組織
- 複数担当者によるチェックなど、内部牽制体制が確立され適正に機能していること。
- 適正な会計処理
- 法人または保育施設の経理規程に基づいた事務手続きが行われていること。
- 経費の支出は、合理的な根拠及び適正な証憑書類に基づくとともに、施設運営に必要かつ適正な使途に対するものとなっていること。
- 積立資産の運用を行う場合は、その要件を満たしていること。
- 透明性の確保された契約
- 工事、委託、物品購入等の契約手続きは、複数業者からの見積合わせ、市場価格調査等により、その合理的な理由を明らかにした上で契約が適正に行われていること。
(参考URL:令和4年度企業主導型保育施設に対する専門的財務監査の実施について)
(参考URL:内閣府 企業主導型保育事業点検・評価委員会の第8回資料 資料2-1)
令和4年度における財務監査評価基準の調査事項については、以下の通りです。
より詳しい内容については、児童育成協会より発出の財務監査評価基準をご確認ください。
- 経理区分
- 会計一般
- 会計責任者の任命
- 予算
- 帳簿の整備
- 契約
- 発注
- 収入
- 助成金(整備費・運営費等)の収入
- その他の収入
- 寄付金収入
- 支出
- 整備費
- 運営費
- 親族、役員や関係会社等との取引
- 本社費等
- 積立資産
- 決算
(出典:専門的財務監査評価基準)
立入調査による企業主導型保育施設に対する財務監査の実例紹介
令和3年度監査結果
さて、既に監査を受けた施設では、どのような監査結果だったのでしょうか。
令和3年度は、令和2年度の立入調査で経理面について指摘があり、かつ3千万円以上の助成を受けている500施設が財務監査の対象となりました。
児童育成協会が公表している結果を以下に抜粋します。
実施施設数 | 文書指導施設数 | 口頭指導施設数 | |
---|---|---|---|
令和3年度 | 500施設 | 448施設(89.6%) | 406施設(81.2%) |
財務監査の実施施設のうち約9割が文書指導を受けている結果となっています。
では、指導を受けた内容はどういった事項だったのか、文書指摘事項の上位10件です。
- 運営費完了報告の収支決算書に助成対象外の支出が計上されている
- 預金の管理(現金実査等)が適切でない
- 経費支出の計上額が不明確または誤っている
- 決算書(賃借対照表や損益計算書)の作成が不適正である
- 発注業務に関する規程または規定が定められていない
- 親族、役員や関係会社との取引の適正性が確認できない
- 保育事業に係る経理規程が設定されていない、または内容に不備がある
- 契約業務に関する規程または規定の内容に不備がある
- 人件費の計上額が明確でない、または誤っている
- 会計責任者および出納職員の任命、設定に不備がある
(出典:令和3年度企業主導型保育事業における指導・監査の実施状況について)
助成金の不適切な支出が確認された場合は、助成金の返還と、不正の事実が判明した場合には助成決定の取消し措置が講じられます。
経理についての知識や助成金の運用ルールを知らなかったが為に「助成金の返還」となってしまえば経営面で大きな打撃となります。
財務面については、専門的な知識がないと難しいところもありますので、専門家のアドバイスを受けながら運営することをおすすめします。
立入調査による企業主導型保育施設に対する財務監査で頂くご質問(faq)
ここでは、企業主導型保育施設に対する財務監査についてよく頂く質問にお答えいたします。
- Q専門的財務監査では、会計事務所・税理士の立ち会いは必要でしょうか?
- A
会計事務所とご契約されていたり、顧問税理士がいらっしゃれば、立ち会っていただいた方が安心ですが…
立ち会いが難しければ、事前の必要資料の確認をしっかり行っていただくことをおすすめします。また、当日電話の繋がる時間を確認しておくと、監査で指摘された内容の相談をすぐに行うことが出来ますので、心強いかと思います。
- Q専門的財務監査実施の通知が届きました。株式会社いちたすでは、どの様な支援を行っているのでしょうか?
- A
当社では専門的財務監査に関して以下のようなお手伝いを行っています。
専門的財務監査に関する支援メニュー- 模擬監査…
監査で指摘されそうな項目の事前洗い出し。 - 助成金の支出内容確認…
対象外経費が計上されていないか、助成金を正しく運用できているかの確認。 - 処遇改善等加算…
申請支援や配分額の検討、またポータルサイトへの報告申請支援。 - 税理士の紹介…
企業主導型保育施設の税務について、当社が提携している保育事業に詳しい税理士をご紹介。
- 模擬監査…
- Qいちたすでは、ポータルサイト上の実績報告書の支援を行っていますか?
- A
弊社では、ポータルサイトからの月次申請・実績報告申請支援を行っております。
企業主導型保育事業は、月次報告や実績報告、加算事業に対する考え方などの資料が修正・更新されることがよくあります。対応が遅れてしまうと不正受給にもつながりかねない大事なところですので、お気軽にお問い合わせください。
企業主導型保育園経営でお困りの方はいちたすへご相談を
企業主導型保育園を運営するうえで、お困りのことがありましたら株式会社 いちたすへお気軽にお問合せください。
いちたすについて
株式会社 いちたすでは、企業主導型保育園の経営者の皆様に対して、経営・運営・財務に関するコンサルティングを専業で行っています。
会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、企業主導型保育園のバックオフィス業務、書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。
「会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない」というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、
- 助成金(運営費助成金)の加算が適正に申請されているか
- 処遇改善をどのように取り入れていけばよいか
などのお悩みに対してご支援・コンサルティングを行う顧問(相談)契約もあります。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも可能です。
料金プラン
株式会社 いちたすでは、定期的な顧問契約から、スポット(単発)での委託費の確認、申請書類の確認なども行っております。
たとえば相談契約、コンサルティング契約ですと
で引き受けております。
「複数施設を運営しているが本部で契約したい」「打ち合わせは2か月に1回でよい」など、オーダーメイドでご契約内容を作成いたしますので、お気軽にご連絡ください。
依頼の流れ
お問合せフォームかinfo@ichitasu.co.jp宛にメールをお送りください。
詳しい内容をお伺いいたします。
その後は、
- 当社の担当者が園にお伺いする
- 当社事務所(仙台市一番町)にお越しいただく
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といった形で、具体的にどのようなご支援が出来るのかを打ち合わせいたします。
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など、ご要望に合わせてご提案いたします。
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