企業主導型保育事業は、制度が出来て間もないということもあり、定期的に制度が大きく変わります。本記事では、令和2年度より実施開始となった専門的労務監査について詳しく解説していきます。

児童育成協会が行う企業主導型保育施設に対する監査は3種類あります。

監査の種類
  • 【立入調査】保育面を中心とした全般的な指導・調査(原則として年1回)
  • 【立入調査】専門的労務監査
  • 【立入調査】専門的財務監査
中小企業診断士・大窪

この他に、児童育成協会が行うものとして「午睡抜き打ち調査」「巡回指導」「特別調査」といった調査があります。
巡回指導は概ね2週間前に通知がありますが、午睡調査と特別調査は抜き打ちで行われます。

企業主導型保育園の全体像については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【プロが解説】企業主導型 保育園について5分でわかりやすく解説

なお、専門的財務監査については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【プロ解説】専門的財務監査|企業主導型保育施設に対する立入調査による指導・監査について

立入調査による企業主導型保育施設に対する労務監査とは?

専門的労務監査とは

専門的労務監査の説明画像

令和2年度より、児童育成協会が行う監査に「専門的労務監査」が加わりました。

その名前から、なんとなく想像がつくかと思いますが…
一言でお伝えすると、企業主導型保育施設に勤務する職員の職場環境に重点を置いた監査です。
内閣府が開催している企業主導型保育事業点検・評価委員会の第8回資料で以下のように記載があります。

労務監査の目的

労務監査は、職員の「労務環境」や「処遇改善」に関して重点的に確認することにより、保育施設で働く職員の働きやすい職場環境の醸成を促し、当該施設の「保育の質」の向上を図ることを目的として実施します。

具体的には、

  • 労務監査により、賃金をはじめとする保育士の処遇改善の実効性を確保します。
  • 労務監査により、職場環境改善のための課題を明確にし、設置事業者等と職員が互いに協力して
    より良い職場環境の構築
    を促します。

(出典:内閣府 企業主導型保育事業点検・評価委員会の第8回資料 資料2-2)

以上の通り、専門的労務監査とは、従来実施されてきた保育面を中心とした全般的な監査・指導とは異なり、職員の職場環境と処遇改善に関する監査となります。

対象事業者について

対象事業者についての説明画像

施設を運営する園長先生・理事長先生にとっては、自園も監査の対象となるのか、気になるかと思います。
令和4年度・5年度の方針としては、新型コロナウイルス感染症の流行も考慮し、実施数を絞って調査することが企業主導型保育事業点検・評価委員会の第11回資料に記載がされています。

令和4年度・5年度の対象施設
  • 監査実施年度前年の立入調査で、労務関係の指摘を受けた施設を最優先に対象
  • なお、上記指摘があった施設以外の「処遇改善加算を申請している施設」を追加して選定。

(出典:内閣府 企業主導型保育事業点検・評価委員会の第11回資料

前述したとおり、この労務監査は、職員の処遇改善の実際の効果を確保することを目的としています。
そのため、職員へ確実に処遇改善加算に応じた給与等が支払われているかを確認する観点から対象施設が選定されています。

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令和3年度までは、11都道府県と実施エリアが限定されていましたが、令和4年度からは全国の企業主導型保育施設で上記の条件にあてはまる施設が対象となっています。
令和6年度以降については、未定です。今後の監査状況や監査実績を踏まえて検討されます。

立入調査の手順

立入調査の手順の説明画像

では、立入調査はどのような手順で実施されるのでしょうか。
令和4年度に児童育成協会が通知した文書より、労務監査の実施フローを以下に記載します。

  1. 概ね1か月前

    監査対象となる施設に、委託事業者から概ね1か月前を目途に通知書が届きます。

  2. 監査日14日前まで

    施設は、労務監査実施日の14日前までに、関係書類を委託事業者に提出します。

  3. 監査日当日

    労務監査員(2名以上)が施設を訪問し、聞き取り調査を行い、最後に講評します。

(出典:児童育成協会 指導・監査(専門的労務監査)の実施について(お知らせ)

委託事業者とありますが、専門的労務監査は、児童育成協会が他の機関に委託して実施できることになっています。
そのため、令和4年度全国社会保険労務士連合会が委託事業者となり、監査を実施しています。

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専門的労務監査につきましては、顧問社労士の先生と準備や対応をすることが多いですが、社労士の先生が保育事業に詳しくないこともあるかと思います。
労務監査に向けての準備に不安がある方は、通知書を受け取った段階で当社(株式会社 いちたす)ご相談ください。

企業主導型保育園の全体像については、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:【プロが解説】企業主導型 保育園について5分でわかりやすく解説

労務監査評価基準の内容

労務監査評価基準の内容の説明画像

それでは、専門的労務監査では、どのような基準で監査を行うのでしょうか。
企業主導型保育事業における労務監査評価基準の調査事項について、以下にまとめました。

労働管理関連規定
  1. 就業規則の作成・届け出
  2. 労働条件関連の定め
  3. 賃金(給与)関連の定め
  4. 処遇改善等加算に関する定め
  5. 育児・介護休業関連の定め
  6. ハラスメントの対応
労務管理体制
  1. 労働時間管理、休憩・休日
  2. 労働時間関連労使協定(36協定など)
  3. 年次有給休暇の付与・管理
  4. 一般健康診断の実施及び安全衛生教育
帳簿等の複製・保管
  1. 労働者名簿
  2. 賃金台帳
  3. 書類の保管
労働保険・社会保険
  1. 労災保険・雇用保険の手続
  2. 健康保険・厚生年金保険の手続
その他
  1. 同一労働同一賃金
  2. 高齢者雇用

(出典:企業主導型保育事業における労務監査評価基準(変更部分明記版)

前述のとおり、職員の労働環境に重点を置いた監査であるため、それに沿った内容となっています。
それぞれの事項に対する詳しい調査内容については、児童育成協会発出の労務監査評価基準からご確認ください。

企業主導型保育園の全体像について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
関連記事:【プロが解説】企業主導型 保育園について5分でわかりやすく解説

立入調査による企業主導型保育施設に対する労務監査の事例紹介

令和3年度監査結果

令和3年度監査結果の説明画像

さて、既に監査を受けた施設では、どのような監査結果だったのでしょうか。
令和3年度は、11都道府県(北海道・神奈川県・東京都・愛知県・大阪府・兵庫県・広島県・岡山県・山口県・福岡県・熊本県)に所在する施設の500施設が労務監査の対象となりました。
児童育成協会が公表している結果を以下に抜粋します。

実施施設数文書指導施設数口頭指導施設数
令和3年度500施設429施設(85.8%)452施設(90.4%)
令和2年度27施設23施設(85.1%)26施設(96.2%)
専門的労務監査の実施結果

※令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により緊急事態宣言の発令対象地域は対象外となったため、実施施設数が少なくなっています。

労務監査の実施施設で約9割が口頭指導を受けている結果となっています。
では、指導を受けた内容はどういった事項だったのか、指摘件数が多い順に並べました。

令和3年度の主な文書指摘事項
  1. 給与規程の支給項目と実際の支給項目(手当)が一致していない
  2. 給与規程等根拠規定に基づき支給されていない
  3. 割増賃金について不適切な運用がされている
  4. 職務手当等の手当の一部を処遇改善加算とする場合の内訳が不明確である
  5. 年次有給休暇について、年5日以上の取得ができていない
  6. キャリアパスが定められていない
  7. 処遇改善加算の支給について労働者が認知していない
  8. 1か月単位の変形労働時間制を導入しているが、シフト表が1か月の総枠を超えている
  9. 処遇改善等加算Ⅱの支給について、配分に誤りがあるなどルールに則っていない
  10. 法定労働時間を超過している労働者がいるが、時間外手当が支払われていない

(出典:令和3年度企業主導型保育事業における指導・監査の実施状況について

主な文書指摘事項のうち、処遇改善等加算に関する項目について、指摘件数が多くなっています。
前述したとおり、この専門的労務監査は、職員へ確実に処遇改善を支払っているかを確認する目的があります。
そのため、処遇改善等加算の取扱いについては万全に準備しておくことが重要です。

また、企業主導型保育事業専門的労務監査基準第6 その他には以下のように記載があります。

専門的労務監査基準 第6 その他

専門的労務監査は、従前に実施した保育面を中心とした全般的な指導・監査等の内容及び結果などを踏まえ、当該施設の問題点その他必要とする事項について事前に検討を行い、専門的労務監査の効果的な実効に期すものとする。

(出典:企業主導型保育事業専門的労務監査基準

令和4・5年度の対象事業者は、前年度の立入調査で労務関係の指摘を受けた施設が最優先となっていることからも、従来実施されている保育面を中心とした全般的な指導・監査で指摘を受けないよう、準備しておくことも必要です。

中小企業診断士・大窪

職員の働きやすい職場環境を構築することは、保育の質の向上につながります。
「労務監査の通知が来たから…」ではなく、日頃からより良い職場環境を作り上げていくことが大切です。

立入調査による企業主導型保育施設に対する労務監査で頂くご質問(faq)

FAQに関する説明画像

企業主導型保育施設に対する労務監査についてよく頂く質問にお答えいたします。

Q
専門的労務監査実施の通知が届きました。株式会社いちたすでは、どの様な支援を行っているのでしょうか?
A

当社では専門的労務監査に関して以下のようなお手伝いを行っています。

専門的労務監査に関する支援メニュー
  • 模擬監査
    監査で指摘されそうな項目の事前洗い出し。
  • キャリアパス制度の構築
    ライフステージにあわせたキャリアプランの策定支援。
  • 処遇改善等加算
    申請支援や配分額の検討、またポータルサイトへの報告申請支援。
  • 社会保険労務士の紹介
    就業規則や給与規程の改訂が必要な場合は、当社が提携している保育事業に詳しい社労士をご紹介。
Q
専門的労務監査では、社労士の立ち合いは必要でしょうか?
A

顧問社労士がいらっしゃれば、立ち会っていただいた方が安心ですが…
立ち合いが難しければ、事前の必要資料の確認をしっかり行っていただくことをおすすめします。また、当日電話の繋がる時間を確認しておくと、監査で指摘された内容の相談をすぐに行うことが出来ますので、心強いかと思います。

Q
処遇改善等加算Ⅱの支給について、ルールが難しく、どのように職員へ配分したらよいのかわかりません…。
A

処遇改善等加算Ⅱは役職や支給する金額などのルールが複雑なため、多くの方が頭を悩ませていらっしゃいます。
当社では、制度に則り、どの職員、役職者にいくら配分出来るのかもしくは、するべきなのか、支給額までご相談いただけます。

企業主導型保育園経営でお困りの方はいちたすへご相談を

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企業主導型保育園を運営するうえで、お困りのことがありましたら株式会社 いちたすへお気軽にお問合せください。

いちたすについて

株式会社 いちたすでは、企業主導型保育園はもちろん、保育園・こども園・幼稚園の経営者の皆様に対して、経営・運営・財務に関するコンサルティングを専業で行っています。

会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、企業主導型保育園のバックオフィス業務書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。

「会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない」というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、

  • 助成金(運営費助成金)の加算が適正に申請されているか
  • 処遇改善をどのように取り入れていけばよい

などのお悩みに対してご支援・コンサルティングを行う顧問(相談)契約もあります。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも可能です。

料金プラン

株式会社 いちたすでは、定期的な顧問契約から、スポット(単発)での委託費の確認、申請書類の確認なども行っております。

たとえば相談契約、コンサルティング契約ですと

保育園の顧問(相談)契約の場合(1施設)

月額22,000円~
(税込)
保育園のコンサルティング契約(月1回1時間の打ち合わせあり)の場合(1施設)

月額55,000円~
(税込)

で引き受けております。

「複数施設を運営しているが本部で契約したい」「打ち合わせは2か月に1回でよい」など、オーダーメイドでご契約内容を作成いたしますので、お気軽にご連絡ください。

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その後は、

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園によって状況は様々ですが、

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