弊社では、幼稚園や保育所の経営者の方から、「園児募集をどのようにしていくか」といったブランディングに関するお話しや「今後の園運営をどのようにしていくか」というマネジメントに関するお話もいただきますが、その中でもまだまだお問い合わせを頂くことが多いのが「認定こども園移行に伴う園舎建て替え」です。

園舎を建築してから、40年、50年経つ園舎では、建て替えが必要になります。
幼稚園や保育園から認定こども園に移行するタイミングで園舎の建替えを検討されることが多いのですが、「建替え予算はいくらになるのか」は事業計画を立てるうえでも非常に気になるところです。
例えば、現在の園舎を建設した当時から、建設費はどのくらい高くなっていると思われますでしょうか?

建築費の金額については、なかなか他園の理事長先生に聞くことも出来ないものだと思いますので、具体的なことがわからないまま進めているケースも多いです。

そんなときにとても参考になるのが、福祉医療機構が公表している情報です。
最新の情報は2023年6月28日に公表された2022年度の福祉・医療施設の建設費の状況です。福祉医療機構の貸付先データを基に、経年比較や地域ごとの視点で建設費の動向が取りまとめられています。

本記事では、園舎建築を伴うこども園移行をお考えの経営者の方へ、最新の建設費の動向認定こども園移行への影響について、わかりやすく解説していきます。

認定こども園への移行についてさらに詳しく解説した記事も、合わせてご覧くださいませ。
【2024年最新版】認定こども園移行をお考えの経営者が知っておくべき3つのポイント
【2024年最新版】こども園について経営者が知るべき3つのポイント

福祉医療機構とは?

福祉医療機構とは?の説明画像

福祉医療機構とは、福祉の増進と医療の普及向上を目的として平成15年10月1日に設立された、独立行政法人です。国の施策に連携した事業を展開しており、社会福祉施設等の設備・整備資金の融資事業福祉・医療施設の経営に役立つ情報を公開する経営サポート事業などを展開しています。

福祉医療機構については、こちらの記事で詳しく解説しています。

保育所および認定こども園の建設費の動向

保育所および認定こども園の建設費の動向の説明画像

保育所および認定こども園の建設費の動向について結論から書きますと、
保育所および認定こども園の平米単価は、全国平均および首都圏ともに2010年度以降で最高額を記録しています。

それでは具体的な動向について、詳しく見ていきましょう。

建築工事費には設計監理費を含む(土地造成費、既存建物解体費、仮移転費等は含まない)

中小企業診断士:大窪

本レポートでの建築工事費には、設計監理費は含まれていますが、土地造成費、既存建物解体費、仮移転費等は含まれていませんので、注意が必要です。

平米単価の推移

最初に、平米単価の推移を見ていきましょう。
2022年度の全国の保育所および認定こども園の平米単価は402千円で、2021年度から26千円高くなっています(前年比 約6.9%)
首都圏の平米単価は456千円で、2021年度から19千円高くなっています(前年比 約4.3%)

平米単価の推移についての説明画像1
(出典:保育所および認定こども園の平米単価の推移
中小企業診断士:大窪

2013年度から10年間の平米単価を比較すると、全国平均では1.51倍首都圏は1.54倍と、平米単価はともに1.5 倍以上も上昇しています。

地域ブロック別の平米単価の推移

次に、地域ブロック別に平米単価の傾向を見ていきましょう。
2022年度の地域ブロック別の平米単価は、首都圏が456千円近畿が418千円となっており、2つの地域ブロックで全国平均を上回っています。

平米単価の推移についての説明画像2
(出典:保育所および認定こども園の平米単価 地域ブロック別

2022年度の地域ブロック別の平米単価がわかったところで、次は時系列で平米単価の推移を地域ブロックごとに見ていきましょう。
下図に、2016年度から2022年度までの平米単価の推移を、地域ブロック別にまとめました。

平米単価の推移についての説明画像3
(算出元:福祉・医療施設の建設費について 2017~2023年公表分

特に、どの地域の平米単価が上がっているか下表で見ていきましょう。
各地域ブロックにおける平米単価の増加割合を見ると、近畿、中国・北陸、東北、北海道の地域ブロックの平米単価が高く、1.3倍を超えています

地域ブロック
(平米単価の増加割合が大きい順)
平米単価
(2016年度、北海道のみ2017年度)
平米単価
(2022年度)
増加割合
(2016→2022)
近畿297418約1.40倍
中部・北陸278384約1.38
東北273372約1.36倍
北海道300401約1.34倍
首都圏354456約1.29倍
九州・沖縄291347約1.19倍
中国・四国313369約1.18倍
関東・甲信333387約1.16倍
地域ブロック別 平米単価の増加割合 上位順(単位:千円)

地域ブロックによって建設費の上昇幅が大きく異なるため、認定こども園を建設する地域に則した建替え予算を検討していく必要があります。

中小企業診断士:大窪

お客様から園舎建築のご相談を頂くこともありますが、場合によっては設計士さんと打ち合わせをする段階からご支援をさせていただくことがあります。
その際に、設計事務所から出てきた設計図を見て「これくらいの建築総額になるかな…」と予想するのですが、最近は予想していた金額よりも数千万円単位(下手すると億単位)でずれることがあります。
とても早いスピードで、園舎の建築単価が上がっていると感じます。

定員1人当たり延床面積の推移

次に、定員1人当たりの延床面積について見ていきましょう。

2022年度の全国の1人当たり延床面積は8.5平米で、2021年度から0.1平米低下しました。(前年比 約マイナス1.2%
一方、首都圏の1人当たり延床面積は8.2平米で、2021年度から0.2平米上昇しました。(前年比 約2.5%

定員1人当たり延床面積の推移についての説明画像
(出典:保育所および認定こども園の定員1人当たり延床面積の推移

平米単価が上昇し続けている近年の傾向に対して、近年の延床面積は8平米台で横ばいになっています。
教育・保育サービスの質を確保しながら建設費高騰とのバランスを取るには、現状の延床面積が限界値であることが予想できます。

定員1人当たり建設費の推移

最後に、定員1人当たりの建設費を見ていきましょう。

2022年度の1人当たり建設費は、全国平均で3,283千円で、2021年度から93千円上昇しました。(前年比 約2.9%
首都圏平均は3,557千円で、2021年度から207千円上昇しました。(前年比 約6.5%

定員1人当たり建設費の推移についての説明画像
(出典:保育所および認定こども園の定員1人当たり建設費の推移

全国平均と首都圏ともに、定員1人当たり建設費も上昇しています。
定員1人当たり延床面積が横ばいで推移しているのに対し、建設費は高騰しているためです。

認定こども園に移行するタイミングで建て替えを検討する場合は、以上のような建設費高騰の傾向を加味して建設計画を立てる必要があります。

認定こども園に移行した幼稚園の園舎建築の事例

認定こども園に移行した幼稚園の園舎建築の事例の説明画像

建築費の高騰により、認定こども園への移行時の園舎建替え費用が高くなることが予想されます。
では、実際にどのくらい建替え費用は増えるのでしょうか?
認定こども園に必要な設備や費用、スケジュールも確認しながら、認定こども園に移行する際の園舎建築をイメージできるよう、記載しています。

認定こども園への移行についての記事は、こちらで詳しく解説しています。
オススメ記事:【2023年最新版】認定こども園移行をお考えの経営者が知っておくべき3つのポイント
【2023年最新版】こども園について経営者が知るべき3つのポイント

では、必要な設備や費用、スケジュールを詳しく見ていきましょう。

事例① 認定こども園に必要な設備

認定こども園の設備は、国や各省庁、各市町村が定める認定こども園の認定基準に基づき建設する必要があります。
以下に認定こども園の認定に必要な法律、省令、条例をまとめました。

認定こども園の基準を満たす設備として、必須とされる設備だけでなく、備えるよう努めなければならない設備も定められています。以下の2つの表をご参照ください。

備えなければならない設備補足
職員室 (保健室との兼用可)保健室との兼用可
乳児室(1.65㎡/人)
又はほふく室(3.3㎡/人)
満2歳未満の保育を必要とする子どもを入園させる場合に必要
保育室(1.98㎡/人)遊戯室と兼用可
満3歳以上児分の保育室数については学級数を下ってはならない
遊戯室保育室と兼用可
保健室職員室と兼用可
調理室
便所
飲料水用設備、手洗い用設備
及び足洗い用設備
飲料水用設備は、手洗い用設備及び足洗い用設備と区別して設置
認定こども園に備えなければならない設備
備えるよう努める設備
放送聴取設備
映写設備
水遊び場
園児清浄用設備
図書室
会議室
認定こども園に備えるよう努める設備

(出典:大分県 認定こども園 認可・認定等事務の手引き

中小企業診断士:大窪

ここでは、大分県の条例が良くまとまっていましたので参考に取り上げていますが、各地方自治体によって異なる基準がある場合もありますので、園舎建築の際には、園舎を運営する行政の方と打ち合わせをしながら進めていくことが重要になります。
幼稚園から認定こども園に移行すると、調理室など今までになかった設備を備える必要が出てきます。既存施設の建設費用の感覚のまま検討しないよう、注意が必要です。

事例② 園舎の建替えに必要な費用

園舎の建て替え費用を試算してみます。ここでは1号と2号・3号の園児の合計定員が100名の認定こども園を建設する場合を想定します。
定員1人当たり建設費から、全国平均首都圏平均それぞれの建替え費用を試算すると、次のような結果になりました。

園舎建て替え費用の試算
  • 全国平均を基にした試算結果
    • 3,283(千円)× 100(人) = 328,300(千円)
  • 首都圏平均を基にした試算結果
    • 3,557(千円)× 100(人) = 355,700(千円)

2016年度と2022年度の建て替え費用を比較した下の表からも、建設費が高騰していることがよくわかります。

算出するエリア建替え費
(2016年度)
建替え費
(2022年度)
増加率
(2016→2022)
全国270,600328,300約17.6%
首都圏288,200355,700約19.0%
定員1人当たりの建設費を基にした全国と首都圏の平均建設費の試算(単位:千円)
中小企業診断士:大窪

とても感覚的ですが、園児数が100名規模の認定こども園では、もっと建設費が掛かるように感じます…。上記の園児一人当たりの建設費には、土地造成費や既存園舎の解体費、仮移転費等は含まれていませんので、注意が必要です。

幼稚園から認定こども園に移行した園では、移行のタイミングで丸ごと園舎を建て替えるケースが多いです。
そのため、建築計画では建替え以外の費用が発生することを見込んでおいた方がよいでしょう。

事例③ 認定こども園の開園までのスケジュール

幼稚園を建替えて認定こども園を開園する場合、どのくらいの期間が必要か見ていきます。

まず施設が所在する市町村に相談し一定程度の協議をした上で、都道府県に相談する流れで進めていくのが基本的な流れです。
仙台市が公開しているスケジュールによると、実際に施設の整備が始まるのは、認可見込み施設として決定を受けてからになります。

  1. 開所1年半前:市町村と事前協議を開始
  2. 開所13か月前:設備計画に関わる資金の審査を受ける
  3. 開所12か月前:認可見込み施設として決定を受けて施設整備を開始
  4. 開所1か月前:現地調査を受ける

(出典:仙台市 令和6年4月開設の施設にかかる協議スケジュール

以上を踏まえると、幼稚園から認定こども園への移行期間は、最短で1年半となる可能性が高いことがわかります。
また、建替え後の認定こども園が所在する市町村が政令指定都市ではない場合、市町村だけでなく都道府県との協議も必要になります。その場合は、更に余裕をもったスケジュールで計画していくことが必須となります。

中小企業診断士:大窪

幼稚園から認定こども園に移行する場合、実際には2~3年前から協議が始まっています。例えば令和5年に協議を始めるなら、開園は令和8年4月1日です。
仙台市が示しているスケジュールは、タイトなスケジュールだと認識しておいた方がよいでしょう。
政令市であれば市とのやり取りで協議が完結しますが、そうでない場合は市町村と都道府県の両方と調整していくため、かなり時間がかかります…。

まとめ

まとめの説明画像

2022年度の建設費の動向と、認定こども園移行への影響についてまとめていきます。

建設費動向と認定こども園移行への影響
  • 福祉医療機構が公表した2022年度の福祉・医療施設の建設費の状況によると、
    保育所および認定こども園の平米単価は、全国平均および首都圏ともに2010年度以降で最高額記録
    • 全国の平米単価:402千円対前年 26千円増加 前年比 約6.9%
    • 首都圏の平米単価:456千円(対前年 19千円増加 前年比 約4.3%
  • 平米単価が高騰しているのに対し、近年の延床面積は8平米台で横ばい
  • 建替え費の増加率(2016年度→2022年度)
    • 全国の平米単価:約17.6%
    • 首都圏の平米単価:約19.0%

認定こども園の移行には、園舎建替えの費用を検討する以外にも、検討すべきことがたくさんあります。
具体的な検討がないまま認定こども園へ移行すると、

  • 施設が所在する地域の園児数、利用定員次第では、収入が減少してしまう
  • 有資格者の人数が足りず、施設型給付費が減算される

などが発生する可能性があります。
「何となく」「役所から勧められたから」などの理由で認定こども園へ移行するのではなく、ご自身の経営される幼稚園・保育園の状況を踏まえた決断が何より大切です。

こども園移行のご相談ならいちたすへ

いちたす無料相談受付中

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移行前の検討の段階から、移行するために必要な提出書類の解説移行後の運営方法まで、幅広くご支援しています。

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株式会社 いちたすでは、保育園・こども園・幼稚園の経営者の皆様に対して、経営・運営・財務に関するコンサルティングを専業で行っています。

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