この記事では、令和3年12月8日に開催された第59回子ども・子育て会議で明らかにされた処遇改善について説明しています。岸田首相が所信表明演説で取り上げた保育士・幼稚園教諭等を対象にした月額9000円の賃上げと令和3年人事院勧告に伴う国家公務員給与改定について、どのように公定価格に反映されるのかをわかりやすく説明しています。
【追記】情報が揃ってきましたので、令和4年1月24日時点の情報を確定版の記事として公開しています。
こちらもご参考頂けると、より掴みやすくなるかと思います。
私学助成の幼稚園の
続報記事:【確定版】保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業の全体像・注意点について
【令和4年2月25日追記】
私学助成の幼稚園の理事長先生からお問い合わせを多くいただきましたので、私学助成園向けに新たに教育支援体制整備事業費交付金(幼稚園の教育体制支援事業)を説明した記事を公開しました。
参考記事:【私学助成園賃上げ】幼稚園の教育体制支援事業の全体像・注意点について
【令和4年7月21日追記】
令和4年10月以降も「処遇改善等加算Ⅲ(仮称)」として続くことが決まりました。臨時特例事業と、ほぼ同じ位置付けになる予定です。
参考記事:【速報】月額9000円の賃上げは処遇改善等加算Ⅲ(仮称)として位置付けへ
保育士・幼稚園教諭等を対象に月額9,000円の賃上げについて、年内(2021年中)には具体的な方針を打ち出す、ということだったので、そわそわしていましたが、やはり事務負担が増えますね…。
経済対策(月額9000円の賃上げ)について
ニュースでも大きく取り上げられ、月額9000円の賃上げというキーワードが独り歩きしている感もありましたが、具体的にどのように実施されるのかを見ていきます。
岸田総理の所信表明演説
岸田文雄内閣総理大臣は、「第二百七回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説」において、以下のように打ち出しています。
幼稚園・保育園・こども園等を運営されている理事長先生・園長先生方は、どのような文脈で「月額9000円の賃上げ」というキーワードが出ているのかを把握しておくべきですので、少し長くなりますが、引用します。
七 新しい資本主義の下での分配
人への分配は、「コスト」ではなく、未来への「投資」です。
令和3年12月6日 第二百七回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説
官と民が、共に役割を果たすことで、成長の果実をしっかりと分配し、消費を喚起することで、次の成長につなげます。
これこそが、持続可能な経済、そして、成長と分配の好循環による新しい資本主義を実現するための要です。
まずは、国が率先して、看護・介護・保育・幼児教育などの分野において、給与の引き上げを行います。
介護、保育、幼児教育の現場で働く方については、来年二月から三%、年間十一万円程度給与を引き上げます。
看護職の方を対象に、まずは、地域で新型コロナ医療対応など、一定の条件を満たす医療機関で勤務する方については、段階的に三%、年間十四万円程度給与を引き上げていきます。
その上で、民間企業の賃上げを支援するための環境整備に全力で取り組みます。
「未来への投資」というキーワードの中で、4つの分野に対して集中的に賃上げを行う。そのなかの2分野が幼児教育と保育です。 幼児教育と保育が未来への投資なのは当たり前じゃないかと、思われるかもしれませんが、嬉しくなりました。
所信表明演説では、月9,000円ではなく、年間110,000円程度という記載ですが、12ヶ月で割ると9,166.66…円になりますので、約9,000円ですね。
このために、令和3年度補正予算案として899億円の税金が投入されることを考えると、幼児教育・保育事業の支援に携わる者として身が引き締まります。
月額9000円の賃上げの全体像
上記で引用した所信表明演説でも挙げられていますが、 令和3年12月8日に開催された第59回子ども・子育て会議の「資料1 経済対策及び令和3年度国家公務員給与改定を踏まえた公定価格等の対応について」により詳しく記載されていますので、説明していきます。
(参考URL:内閣府 子ども子育て会議(第59回))
まずは、全体像をまとめてみます。
- 対象者:保育士・幼稚園教諭・保育教諭等
- 対象施設:保育所・幼稚園・認定こども園等
- 金額:月額9,000円(収入の3%程度)
- 開始時期:令和4年2月から(前倒しで実施)
- 実施方法:公定価格とは別の補助金により実施
月額9000円の賃上げの 対象者、対象施設、金額
それでは、具体的に見ていきます。
まずは対象者について。対象者は保育士・幼稚園教諭・保育教諭等となっています。
保育士・幼稚園教諭・保育教諭については、今回のメインの対象者なので、悩まれることはないかと思いますが、それでは、同じ園で働いている事務の方はどうなるのか。資格を持っていないけど、保育を支えてくれている保育補助者は? 給食の調理員は? という疑問は当然出てくるかと思います。
こちらについては「参考資料2 令和3年度補正予算(案)における子ども・子育て支援新制度に関する主な施策等について」で補足されています。
(参考URL:内閣府 子ども子育て会議(第59回))
- 保育士・幼稚園教諭・保育教諭等を対象に、(以下略)
- 保育所・幼稚園・認定こども園等において、他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める方針
「保育士等処遇改善臨時特例交付金」という新しい交付金が出来ましたが、こちらが今回取り上げています経済対策(月額9000円の賃上げ)の名称です。
事業概要にこのように記載されていますので、基本的には、処遇改善に充てさえすれば、園で働いている方に対しては、充てることが出来ると考えています。そもそも今回の処遇改善は、キャリアアップや長く働ける仕組みづくりが目的ではなく、ストレートに賃上げが目的なので、交付金として園が受け取った金額は、そのまま全額を先生方にお渡しする方式になるのではないでしょうか。
それでは、次に対象施設を見ていきます。
「対象者が働いている施設が対象施設だろう」というのはその通りなのですが、こちらも「保育所・幼稚園・認定こども園等」 とあるように、等が付いています。どこまでが、この等に入るのかはまだ不明確ですが、現時点でわかっているのは、下記の通りです。
- 保育所・幼稚園・認定こども園
- 放課後児童クラブ
- 社会的養護関係施設
同じ公定価格で動いている小規模保育事業所も、対象になると考えていますが、国の方針として、認可外保育園を認可保育園に移行させたい、という意向がありますので、認可外保育園は対象施設から外れるのでは…、と予想しています。
そうなると、認可外扱いの企業主導型保育施設はどうなるんだ、となりますので、今後の動きに注目です。
【2022年1月4日追記】
企業主導型保育施設についても、対象となる事が発表されました。
参考URL:企業主導型保育事業ポータル 【事前案内】企業主導型保育事業における処遇改善について
おそらくはポータルサイト上での申請になると考えられますので、保育園等と複数施設を運営されている法人については、施設類型ごとに申請方法が異なる可能性があります。
続いて金額です。
金額については、もちろん 月額9000円の賃上げがありますが、この9000円という金額、コロナの給付金のような対象者全員に一律〇〇円ということではないようです。
上記の対象者の項目では「柔軟な運用を認める方針」とありましたが、金額の項目では
- 収入を3%程度(月額9,000円)引き上げる
- ※実際の引上げにおいては、職員の配置状況や経験年数に応じた配分など柔軟な運用を可能とする
となっているので、勤続10年の先生と新卒の先生で、賃上げ額を同じで考えるような、いわゆるベースアップということではないようです。
「柔軟な運用が可能」と聞くと、自由度が増すメリットに目が行きがちですが、9000円の賃上げというキーワードが広まっている現在の状況では、実際の配分額を検討する段階では、9000円を下回る先生も出てくると思いますので、先生方への個別の説明が必要になる可能性が高いです。
株式会社 いちたすでは、職員間の配分バランスの検討や説明資料作成のご支援も行っております。
月額9000円の賃上げの開始時期、実施方法
ここまでは、対象となる園や対象となる方など、実際に働く先生方が気になる箇所でしたが、園を運営される理事長先生、園長先生にとっては、こちらのほうが気になる事項かもしれません。
幼児教育・保育事業のご支援を専業としている私たち(株式会社 いちたす)にとっても、本当に気になる箇所はこちらです…。
まず開始時期について。
- 令和4年2月から(前倒しで実施)
- 具体的な事業スキームについては、今後、各市町村等や関係団体と調整する予定
「月額9000円の賃上げを今年度中(令和3年度中)に行う」と初めに聞いたときは、4月から遡って適用されるのでは、と事務負担の大きさと期末までの時間の少なさを想像して震えました…。(先生方にとっては良いことなのですが…)
開始時期は、令和4年2月からです。前倒しで実施とあるのは、本来であれば令和4年4月から行うものを2か月前倒しして実施ということです。ですので、令和3年度に対応が必要な事項を考えると、
- 令和4年2月分の賃上げ(処遇改善)
- 令和4年3月分の賃上げ(処遇改善)
- 令和4年2月・3月分の申請
- 令和4年2月・3月分の実績報告
という事務作業が、これまでの事務作業に加わると想定されます。
令和4年2月まで、年末年始を挟んで1ヶ月、ということを考えると、「これから準備をしていけば、間に合うか?」という印象を受けますが 「具体的な事業スキームについては、今後、各市町村等や関係団体と調整する予定」とありますので、大きな方針が示されただけで、まだ何も決まっていないのかもしれません…。
これから3月までの時期は、卒園関係の行事や新年度の準備、新しい職員の受け入れ態勢を整えたりで本当に忙しい時期かと思います。
株式会社 いちたすでは、園での事務負担を最小限に抑えられるようにご支援しておりますので、お気軽にご連絡ください。
続いて、実施方法です。具体的な事業スキームをこれから詰めていく段階なので、ほとんどわからない状況ですが、現時点(令和3年12月25日時点)でわかっていることを記載します。
- 公定価格とは別の補助金により実施
- 今回の補正予算による措置は、令和4年9月までの措置
- 令和4年10月以降は、処遇改善の効果を継続させるための公定価格の見直しを行う方向で、令和4年度予算編成過程で検討
- 公定価格の対象でない私学助成を受ける幼稚園の教諭等についても、同様の引き上げを行う園への支援を別途行う
令和4年2月から令和4年9月までは公定価格とは別の補助金で実施され、令和4年10月以降は公定価格に組み込まれる形で運用されていくことになります。
公定価格に組み込まれる、ということになってしまうと、新制度に移行していない私学助成の幼稚園が取り残されることになってしまいますが、そこもしっかりとフォローされています。
令和3年度 人事院勧告に伴う国家公務員給与改定への対応について
ここまでは、経済対策の一環としての月額9000円の賃上げを取り上げていましたが、ここからは毎年行われる人事院勧告に伴う国家公務員給与改定がどのように公定価格に反映されるのかを見ていきます。
令和3年 人事院勧告に伴う国家公務員給与改定
人事院勧告に伴う国家公務員給与改定、毎年悩まされているかと思います。4月当初からの遡及適用があると4月まで遡って金額を算定して精算書を作成したり、処遇改善等加算Ⅰの実績報告の際に「人件費の改定状況」がわからなくなったりで、ご質問を頂く率トップクラスの項目でもあります。
令和2年度の際の対応について、ブログに書いていますので、よろしければご参考下さい。
参考記事:初めてのマイナス改定!令和2年度国家公民給与改定に伴う公定価格の人件費改定について 第55回 子ども・子育て会議について(番外編)
令和2年度の際は、初めてのマイナス改定でしたが、令和3年度もマイナス改定です。
まずは、国家公務員の給与がどのように改定されるのかを見ていきます。
- 月例給は据え置き
- 期末手当の引下げ(▲0.15月分)
令和2年度 国家公務員給与改定における対応の振り返り
令和3年度の国家公務員給与改定は月例給は据え置き、期末手当の引き下げがマイナス0.15月分というものでした。ここでいったん、令和2年度はどのような対応が必要だったのかを振り返ります。
令和2年の人事院勧告に伴う国家公務員給与改定は、
- 月例給は据え置き
- 期末手当の引下げ(▲0.05月分)
でしたので、令和3年のほうが引き下げ率は高くなっています。
常勤の保育士、幼稚園教諭等に係る年額人件費はマイナス0.3%程度で、園としての対応は
単価表に係る改正告示の公布日の翌月分の公定価格から適用(4月に遡及して適用しない)
→改定後の月の公定価格で年間の減額相当額の全額を減額
【例】令和3年2月分の公定価格から減額を適用する場合は、令和3年2月分及び3月分の公定価格から それぞれ6か月分を減額
というものが示されていました。
(実際は、令和3年2月、3月で調整が間に合った市町村は少なく、4月、5月に精算が入りました)
令和3年度 国家公務員給与改定に伴いどのような対応が必要か
それでは、令和3年度はどのような対応が必要なのでしょうか。
令和3年度の国家公務員給与改定は月例給は据え置き、期末手当の引き下げがマイナス0.15月分というもので、これを公定価格に反映させると、年額人件費が3万円(0.9%)の減額改定になります。
令和2年度での対応を振り返りましたが、「改定があった」と聞くと、「また4月から遡って計算しなければならないのか…」と考えてしまうかと思いますが、結論から書くと令和3年度は対応の必要はありません。
なぜかと言うと、国家公務員の期末手当の引き下げ額については、令和4年6月期の期末手当において調整することになっているからです。ですので、
令和4年6月期の期末手当において調整することとされたことを踏まえ、令和4年4月分の公定価格から反映する見込み。
となり、令和3年度中は遡及適用に伴う精算は発生しなくなりそうです。また、
ただし、経済対策に基づく、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げる措置を実施するため、国家公務員給与の改定に伴う公定価格の減額に対応するための補助を、令和3年度補正予算案において、上記の経済対策に基づく処遇改善と併せて措置。
ということなので、マイナス改定分の補助が付くことになりそうです。
まとめ
令和3年12月25日時点では、まだまだ分からない項目が多いですが、年度末まで時間がなく、また、園行事が多くなり、事務作業に集中する時間を取りにくい時期に入っていくことになりますので、現時点でわかっている情報をまとめました。
最後に一言でまとめると
「保育士等処遇改善臨時特例交付金 (月額9000円の賃上げ)については、現在わかっている情報から対策を立てる」
「令和3年度 人事院勧告に伴う国家公務員給与改定については、令和3年度中は、対応する必要はない」
上記二点にまとめました。
株式会社 いちたすでは、下記の様な支援を行う事が可能です。
- 保育士等処遇改善臨時特例交付金の申請支援
- 保育士等処遇改善臨時特例交付金の実績報告支援
- 職員への配分額、賃金バランスの検討
ただし、職員への配分額や賃金バランスを検討する際は下記の点をご注意下さい。
- 園としての今後の将来像や理念
- 事業形態
- 処遇改善Ⅱをどのように支給しているか
- 今後の採用計画
上記の内容も影響してきますので、直前でのご依頼ではお引き受けできない場合もあります。
職員一人当たり月額9000円という、園全体では大きな補助金になります。
お早目のご対応をお勧めいたします。
園としての今後の将来や理念が職員の給与にどう関係するのか?
そういった声も聞こえてきますが、当初記載した通り「 令和3年度補正予算案として899億円の税金が投入される」ことを踏まえ、目先の事だけを重視してはいけない事業だという認識のためです。
本記事は令和3年12月25日時点の情報を基に執筆しています。
保育園・こども園・幼稚園経営でお悩みなら東北・宮城の幼児教育・保育業界専門の経営コンサルティングいちたすへ
いちたすについて
株式会社 いちたすでは、保育園の経営者の皆様に対して、運営・財務・経営に関するコンサルティングを専業で行っています。
会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、保育所のバックオフィス業務、書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。
会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない、というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、委託費(施設型給付費)の加算の取りこぼしがないか、処遇改善をどのように取り入れていけばよいかなどを確認する相談契約もございます。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも出来ます。
料金プラン
株式会社 いちたすでは、定期的な顧問契約から、スポット(単発)での委託費の確認、申請書類の確認なども行っております。
たとえば顧問(相談)契約、コンサルティング契約は
で承っております。
依頼の流れ
お問合せフォームかinfo@ichitasu.co.jp宛にメールをお送りください。
詳しい内容をお伺いいたします。
その後は、
- 当社の担当者が園にお伺いする
- 当社事務所(仙台市一番町)にお越しいただく
- Zoomなどを利用してオンラインで打ち合わせをする
といった形で、具体的にどのようなご支援が出来るのかを打ち合わせいたします。
園によって状況は様々ですが、
など、ご要望に合わせてご提案いたします。
お気軽にお問い合わせください。