この記事では、保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業について、詳しく解説しています。
令和3年12月8日に開催された第59回子ども・子育て会議で明らかにされた処遇改善について、ようやく情報が出そろってきました。
令和4年3月中に支給しなければ事業の対象にならないなど、気を付けるべき箇所も見えてきましたので、わかりやすくまとめています。
令和4年2月1日時点ではっきりしてきた箇所についても、
【追記】実際に賃金改善を行う金額は、どの部分になるの?
として、項目を追加しています。
令和4年2月4日付で、新たに更新された
「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業に係るFAQ(ver.2・令和4年2月4日時点版)」
について、新しく項目を追加しました。(令和4年2月10日時点)
お問い合わせをよく頂く項目についても明言されている箇所がありますので、特に重要な箇所を取り上げて説明しています。
【令和4年2月25日追記】
私学助成の幼稚園の理事長先生からお問い合わせを多くいただきましたので、私学助成園向けに新たに教育支援体制整備事業費交付金(幼稚園の教育体制支援事業)を説明した記事を公開しました。
参考記事:【私学助成園賃上げ】幼稚園の教育体制支援事業の全体像・注意点について
【令和4年7月21日追記】
令和4年10月以降も「処遇改善等加算Ⅲ(仮称)」として続くことが決まりました。臨時特例事業と、ほぼ同じ位置付けになる予定です。
参考記事:【速報】月額9000円の賃上げは処遇改善等加算Ⅲ(仮称)として位置付けへ
【令和4年12月19日追記】
臨時特例事業は、処遇改善等加算Ⅲとして公定価格に組み込まれることになりました。
臨時特例事業の実績報告について、すでに報告が終わっている園も多いかと思いますが、FAQでも示されていた通り、賃金台帳の提出を添付資料として求められているかと思います。
これまで処遇改善の確認は、監査の際に合わせて確認を行うケースが多かったのですが、今後は給与台帳の提出が求められるようになるかもしれません。
速報版の記事はこちら:【速報】令和3年度の経済対策(月額9000円の賃上げ)と人事院勧告への対応
本記事を書くうえで参考にした資料:内閣府 子育て支援事業者の方向け情報 保育士・幼稚園教諭等を対象とした処遇改善(令和4年2月~9月)について
賃金規程(給与規程)の改定も必要になりますので、まずは事業の全体像を把握して、自園の方針を決めるところから、動いていきたいですね。
保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業について
岸田首相に変わり、保育・幼児教育、介護、看護といったエッセンシャルワーカーへの賃上げが大きく取り上げられました。
月額9000円の賃上げというキーワードがニュースでも報道されてきましたが、令和3年度内に事業を前倒しで行うということで、経営者・施設長のご支援をする立場としては、タイトなスケジュールに目が行ってしまいますが…、先生方の賃金改善には大きく資するものです。
事業を行うこととなった背景について
事業を行うこととなった背景については、速報版の記事で詳しく説明していますが、一言でまとめると、「未来への投資」ということになります。 処遇改善臨時特例事業は、自動的に事業に付随して行われるものではなく、申請をして(手を挙げて)行うものなので、これからの短時間で対応することが難しいという場合は、見送ることも認められています。
速報版の記事はこちら:【速報】令和3年度の経済対策(月額9000円の賃上げ)と人事院勧告への対応
申請を行うかどうかは、事業者の裁量にゆだねられていますが、コンサルタントの立場からすると、申請をする一択です。法人の負担なしで、先生方・職員の給与を引き上げる大きなチャンスなので、短いスケジュールは何とか乗り越えるしかないです。
いちたすでは、処遇改善の配分額の検討など、時間を掛けて考えていきたい部分のご支援も行っておりますので、お気軽にご連絡ください。
処遇改善臨時特例事業の対象施設
速報版の記事では、対象施設を様々な資料から抜き出して記載していましたが、今回公開された資料では、明示されています。
- 保育所
- 幼稚園
- 認定こども園
- 家庭的保育事業
- 小規模保育事業
- 居宅訪問型保育事業
- 事業所内保育事業
- 特例保育を行う施設
- ※公立の施設・事業所も対象
- ※私学助成を受ける幼稚園は文部科学省事業による補助となる
ここは、当初の予定通りで、大きな変更点などはありませんでした。わざわざ公立の施設・事業所も対象と記載があるのは、いわゆる処遇改善等加算については、公立の施設は対象外とされているからです
ちなみに、「放課後児童クラブが対象施設から外されている!?」とお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。
放課後児童クラブについては、「放課後児童支援員等処遇改善臨時特例事業」という別の事業で行われることとなっています。放課後児童クラブでは、補助金額の計算方法が異なりますので、保育所等と一緒に放課後児童クラブを行われている経営者・施設長の方はご注意ください。
また「※私学助成を受ける幼稚園は文部科学省事業による補助となる」とありますが、本ページで取り上げています処遇改善臨時特例事業は施設型給付へ移行した幼稚園が対象のものですので、お気を付けください。
私学助成を受ける幼稚園の場合は、幼稚園の教育体制支援事業という別事業で行われることになります。下記記事で詳しく説明していますので、そちらをご参考下さい。
参考記事:【私学助成園賃上げ】幼稚園の教育体制支援事業の全体像・注意点について
リーフレットがとてもよくまとめられていますので、まずはリーフレットをご確認頂くと、視覚的にもわかりやすいと思います。リーフレットを確認しつつ、FAQを確認すれば確実ですが…、
本記事では、まずは知っておいていただきたいことをまとめています!
参考URL:内閣府 保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業のリーフレット
参考URL:内閣府 保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業に係るFAQ(ver.1・令和4年1月14日時点版)
処遇改善臨時特例事業の補助内容
ここでは、補助内容を見ていきます。
補助金額についても、当初の計画通り、収入を3%程度(月額9000円)を引き上げるための費用を補助、となっています。また、公定価格の減額改定分も上乗せして補助されることとなっていましたが、賃金改善分とは分けて、補助単価が設定されることになりました。
- 収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための費用を補助
(補助額は公定価格上の職員の配置基準を基に算定) - ※施設・事業所での実際の職員配置状況などにより、1人当たりの引上げ額が月額9,000円を下回る場合がある
- ※令和3年人事院勧告に伴う令和4年4月からの公定価格の減額改定分(▲0.9%)も上乗せして補助
速報版の記事で、令和3年人事院勧告に伴う公定価格の減額改定は令和4年4月からになるので、令和3年度中は何も対応をしなくてよい、という内容を書きましたが、令和4年9月までは、減額改定については検討しなくてよい(減額してはいけない)ということになりました。
公定価格の減額改定分について、令和4年4月から対応する必要はなくなりましたが、令和4年10月以降、減額改定分がどのように補助されるかによって、処遇改善等加算Ⅰの様式4別紙1(職員全員の賃金見込みなどを記載する表)の作成が、また複雑になりそうだと思ってしまいますが…。まずは臨時特例事業への対応ですね!
処遇改善臨時特例事業の補助要件
それでは実際に、 処遇改善臨時特例事業を行う上での補助要件はどのようになるのか、ここで見ていきます。
- 補助額の全額を賃金改善に充てること
- 賃金改善について最低でも改善額全体の3分の2以上を基本給または決まって毎月支払われる手当により行うこと
- ※令和3年人事院勧告に伴う令和4年4月からの公定価格の減額改定(▲0.9%)を反映しない賃金水準に基づいて賃金改善を行う必要がある
- 賃金改善の計画書・実績報告書を市町村に提出すること
「補助額の全額を賃金改善に充てること」「賃金改善の計画書・実績報告書を市町村に提出すること」については、事業の趣旨から言っても、違和感なく受け入れられるかと思います。
「 改善額全体の3分の2以上を基本給または決まって毎月支払われる手当により行う」というのも、月額9000円の賃上げとアナウンスしてきた手前、全額を一時金で支給することを認めるのは難しかったのかなと理解できます。
わかりにくいのは、先ほどから出てくる公定価格の減額改定(▲0.9%)というキーワードです。
補助金額はどのように計算されるのか
保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業では、パーセント(%)が2回出てきます。
ひとつは収入を3%程度引き上げ。これがいわゆる月額9000円の賃上げ部分です。もうひとつが公定価格の減額改定分(▲0.9%)です。
令和3年人事院勧告に伴う影響については、令和4年4月からの公定価格に反映されることとなっていました。(速報版で詳しく説明しているのでご参考下さい)
速報版の記事はこちら:【速報】令和3年度の経済対策(月額9000円の賃上げ)と人事院勧告への対応
- 令和4年4月からの公定価格に反映される(令和3年度は対応の必要なし)
- 令和3年人事院勧告に伴う公定価格の減額分は、臨時特例事業で対応する補助を出す
それでは、補助金額はどのように計算されるのでしょうか。
処遇改善臨時特例事業の補助金額の計算方法
補助金額の計算式は、以下のようになります。
- 補助基準額(月額) × 令和3年度年齢別平均利用児童数(見込み)× 事業実施月数
※事業実施月数は、令和4年2月からの賃金改善部分、令和4年4月からの国家公務員給与改定対応部分ごとの実施月数によること
まず大前提として、 保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業は年度を跨ぐ、賃金改善の補助としては珍しい補助事業になっています。申請様式なども既に決められていますが、令和3年度と令和4年度をまとめて申請する様式になっています。ここをまず理解しておかないと、全体的によくわからなくなってきます…。
という前提を踏まえたうえで、真ん中の平均利用児童数は分かりやすいかと思います。令和3年12月までは実績の園児数で、令和4年の1月~3月は見込みの園児数で計算することになりますが、令和4年2月から始まることを考えると、納得です。
わかりにくいのが、補助基準額です。補助基準額は二つに分かれています。
- 賃金改善部分
- 国家公務員給与改定対応部分
令和4年2月から令和4年9月までの8か月しか行われない事業なのに、補助基準額が二つに分かれているのは、上記に書いたように年度を跨いでいることが原因です。
賃金改善部分が収入を3%程度引き上げる補助です。
国家公務員給与改定対応部分については、公定価格の減額改定(▲0.9%) を補填するための補助になりますが、令和3年人事院勧告に伴う減額は令和4年度から反映されることになりますので、令和4年4月からの補助になります。
これを計算式にまとめると以下のようになります。
- 令和3年度
賃金改善部分 × 令和3年度年齢別平均利用児童数 × 2か月(令和4年2月・3月) - 令和4年度
(賃金改善部分+国家公務員給与改定対応部分) × 令和3年度年齢別平均利用児童数 × 6か月(令和4年4月~9月)
余計にわかりにくくなっていないか心配ですが…。
市町村によっては、補助金額(特別交付金)を市町村で計算して園に教えて下さるところもあります。ただ、令和4年10月以降にも関わる話なので、計算式については把握しておきたいですね。
処遇改善臨時特例事業の補助金額
先ほども記載しましたが、リーフレットの補助内容の中に以下のような記述があります。
- 収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための費用を補助
(補助額は公定価格上の職員の配置基準を基に算定) - ※施設・事業所での実際の職員配置状況などにより、1人当たりの引上げ額が月額9,000円を下回る場合がある
補助額は公定価格上の職員の配置基準を基に算定と明示されていますので、利用児童数だけで決められているのには驚きました。
月額9000円と打ち出されていたので、単純に9,000円×常勤の職員数(有資格者)で計算するのだろうと想定していました。
FAQ3-9「賃金改善額の算定方法等」では、以下のように説明されています。
本補助金の補助基準額の設定にあたっては、簡素化の観点から基本分単価及び処遇改善等加算Ⅰが算定されている加算の平均的な加算取得率を用いて算定しています。
<賃金改善部分>※地域区分に関わらず同額
・公定価格上の算定対象職員数(常勤換算)× 9,000円 × (1+社会保険料率(事業主負担分))
職員数 × 9,000円というところはその通りだったのですが、加算については平均的な取得率を用いて計算されています。
公定価格上の算定対象職員数を掛けて補助基準額を出すことになっていますが、実際の補助金額の算定では、見込み園児数が利用されています。そうなると以下のような、大きな課題が出てきます。
処遇改善臨時特例事業の補助金額の大きな課題
- 配置基準ぎりぎりの人数で、加算も取れていない園では職員一人当たりの金額が大きくなる
- 配置基準を満たし、加算もすべて取り、有資格者を手厚く配置している園では、職員一人当たりの金額が小さくなる
本記事を書く前に、いくつかの園で補助金額の試算のご支援を行ったのですが、職員一人当たりの金額が誤差とは言えない範囲で差が生じていたので、なぜかと不思議に思っていました。
定員区分で補助単価が決められているので、その影響かと考えていましたが、実際はもっとシンプルな話で、補助金額ではなく、1人当たりの人数を計算するための職員の人数が異なっていることが原因でした。
園児のために職員を手厚く先生を配置している園では、先生方1人当たりの補助額が少なくなり、職員配置ぎりぎりで回している園のほうが、先生方1人当たりの補助額が大きくなることに、何とも言えない気持ちになります…。
複数施設を運営している法人では特に悩まれるかと思いますが、ここは先生方に説明をして、納得していただく必要がありますね。
処遇改善臨時特例事業の補助金額の3つの配分方法
大きな課題があることは見てきましたが、月額9000円という言葉が広まっている以上、配分の際には、先生方にしっかりと説明をする必要があります。
国としても、事業者向けのリーフレットとはいえ、月額9000円を下回る場合があると注意喚起をしてくれています。
- 収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための費用を補助
(補助額は公定価格上の職員の配置基準を基に算定) - ※施設・事業所での実際の職員配置状況などにより、1人当たりの引上げ額が月額9,000円を下回る場合がある
先生方への配分方法については、全員一律の固定での配分、といった配分方法は定められていません。
処遇改善等加算Ⅰと同じく、
「ただし、特定の職員に合理的な理由なく偏って賃金改善を行うといった、恣意的な賃金改善が行われないように留意する必要があります」
という注意書きがFAQ3-3にありますが、自由に決めることが出来ます。
いちたすでは、配分方法について大きく3つの方法があると考えています。
- 職員に対して、補助金額を均等に按分して配分する
- 職員の年収に比例して、配分する(主任が大きく、新人が小さくなるように配分)
- 職員の年収に反比例して、配分する(主任が小さく、新人が大きくなるように配分)
どの配分方法にも一長一短がありますが、先生方が、この処遇改善についてどのように受け止めているかによっても園にとって一番良い配分方法は変わってきますので、まずは大きい方針を決めることが必要になります。
処遇改善臨時特例事業の注意点
ここでは、 保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業を行う上での注意点をまとめています。
処遇改善臨時特例事業の対象はどこまで含まれるの?
事業の名前が保育士・幼稚園教諭等とありますが、基本的には園で働く方はすべて対象になります。非常勤職員、派遣職員も対象に含まれます。
ただし、以下の方は外れますのでご注意ください。
- 法人役員を兼務する施設長
- 延長保育・預かり保育などの通常の教育・保育以外のみに従事している職員
延長保育・預かり保育などに専任としている職員には、配分することは出来ません。
延長保育・預かり保育の専任の方に対しては、公定価格とは別の補助事業で人件費が賄われていますので、今後は公定価格で対応することを考えると仕方のないことだと思います。
もうひとつの法人役員を兼務する施設長が外されるということについては、「なぜ?」と思われるかもしれませんが、処遇改善等加算Ⅰが出来た当初のことを思い出すと納得できます。
処遇改善等加算Ⅰが出来た当初は、園全体での配分額の確認が中心で、具体的に誰にいくらを配分したのかについては厳しい縛りや所轄庁からの確認はほとんど行われていませんでした。
なので、一部の園では(本当に、ごくごく一部です)、理事長・園長や経営者一族が処遇改善等加算Ⅰをすべて受け取り、先生方には処遇改善の配分が回っていなかった、ということがありました。そうした無茶苦茶なことを防ぐために、対象外にされているのだと思います。
ただし、「国家公務員給与改定対応部分」については、給与水準を維持するための補助という扱いのため、 法人役員を兼務する施設長にも支給することが可能です。
処遇改善臨時特例事業では、どのように支給すれば良いの?
保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業では、令和4年2月から実際に賃金改善を行うことを補助要件としています。
支給方法については、以下のように決められています。
- 本事業による賃金改善が賃上げ効果の継続に資するよう、最低でも賃金改善の合計額の3分の2以上は、基本給又は決まって毎月支払われる手当の引き上げにより改善を図ること。
- ただし、給与規程の改定に時間を要する等、やむを得ない場合は、令和4年2月分、3月分については、この限りではない。
- 令和4年2・3月分については、一時金により支給することも、3月にまとめて支給することも可能
- 事業終了後に補助額に残額が発生してしまった場合には、当該残額については返還
令和4年2月から、毎月の給与の際に支給する、となると、さすがに間に合わないので、令和4年2・3月分については、一時金・まとめて支給することも認められています。ただし、令和4年2月・3月分を令和4年4月以降に支払うことは認められていませんのでご注意ください。
申請書の提出が令和3年度中(早い市町村では2月上旬)ですので、職員の入退職は反映しきれない部分もあると思いますが、事業終了(令和4年9月)までの間に、退職された先生の分も反映させることが出来れば、大丈夫なのだと思いますが、続報が待たれます。
処遇改善臨時特例事業の補助金額は、全額支給するの?
保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業の補助金額の計算式は、上記で見てきました。
それでは、その計算された補助金額は全額支給することになるのでしょうか?
- 本事業による補助額は、職員の賃金改善及び当該賃金改善に伴い増加する法定福利費等の事業主負担分に全額充てること
補助金額には、実際に支給する賃金改額だけではなく、それに伴って増加する法定福利費等の事業主負担分も含まれています。
…この考え方、すでに処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱを受けられている方にとっては、なじみ深い考え方ですが、私学助成の幼稚園ではあまり使わない考え方だと思います。
分かりやすく単純化すると、法定福利費の賃金における割合が20%の場合、10万円給与を増額したとすると、法人負担として2万円の法定福利費が発生することになります。
しかし、今回の処遇改善臨時特例事業では、事業主負担はありません。10万円の補助を受け取って、10万円を満額支給すると、法定福利費2万円分は、事業主負担ということになってしまいます。
そうならないように、法定福利費20%分も加味して、支給額を決めることになります。今回の例の場合では、10万円補助を受け取った場合、支給額は83,334円で法定福利費は16,666円、と考える事になります。
処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参考下さい。
参考記事:【プロが解説】処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱとは?全体像と手当の実態
法定福利費等の事業主負担分については、令和2年度の実績を基に算定する計算式が決められています。
【2月1日追記】実際に賃金改善を行う金額は、どの部分になるの?
本記事は、令和4年1月24日時点の内容を基に記載していますが、令和4年2月1日時点で新たにわかってきたことがありましたので、追記として記載します。
補助額の全額とは、どの部分を指すのか
上で引用しました補助要件につきまして、以下のような記載があります。
- 補助額の全額を賃金改善に充てること
この文章をそのまま受け取ると以下のようになるのではないでしょうか。
園長
補助金として入金された金額をすべて賃金改善に充てないといけないんだな…
ですが、この補助額が曲者で、おさらいになってしまいますが、補助額は二つに分かれています。
- 賃金改善部分
- 国家公務員給与改定対応部分
賃金改善部分が収入を3%程度引き上げる補助で、国家公務員給与改定対応部分については、公定価格の減額改定(▲0.9%) を補填するための補助でしたよね。
それでは、全額を賃金改善に充てないといけない部分はどこになるのでしょう。
申請する補助額の総額でしょうか?
それとも、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げる賃金改善部分だけでよいのでしょうか?
賃上げ(処遇改善)を行う必要があるのは、賃金改善部分のみ
このように確認していくと、賃金改善部分のことを指しているのだとはっきりします。しかし、実際に申請書類を作成していると、訳が分からなくなってくるのではないでしょうか。
国家公務員給与改定対応部分については、令和4年4月から公定価格が減額改定してしまうので、その補填のためのものでした。なので、令和3年人事院勧告に対応して、自法人の給与表などを減額改定していない場合は、すでに先生方に支払っている部分になります。ですので、追加で支払う必要はありません。
令和4年2月から前倒しで事業を行い、令和4年10月以降どのようになるのかが不透明なため、とてもわかりにくくなっています。
市町村のご担当者によって、仰ることが異なるケースがまだまだ目立ちますが、当社のお客様のところにも、訂正の連絡が入り始めていますので、もうそろそろ落ち着いてくるのだと思います…。
賃金改善計画書(別紙様式1) の考え方、作成する際の注意点
法人として、先生方に支払いが必要な部分は賃金改善部分ということを見てきましたが、とはいっても、文字だけではわかりづらいかと思います。
ここでは、実際の申請書を利用して、確認していきます。下の画像は、申請する際に利用する保育士・幼稚園教諭等 処遇改善臨時特例事業 賃金改善計画書(別紙様式1)の上半分です。
すでに作成された方は、赤色の枠で囲っている⑨と⑩の箇所に違和感を感じられたのではないでしょうか。
- ⑨ 調整後補助見込額合計(賃金改善部分)
- ⑩ 補助見込額合計
なぜ、わざわざ合計額を二つに分けているのか。それは、ぞれぞれの合計には別の目的があるからです。
- ⑨ 調整後補助見込額合計(賃金改善部分)= 法人から先生方へ支払う賃金改善のための金額
- ⑩ 補助見込額合計 = 申請する(市町村から入金される)補助金額
というそれぞれ別の目的があるからです。
計画書(別紙様式1)の成り立ち(構造)から読み解いていくと、申請する際に気を付けるべき場所がわかってきます。
上記画像は、別紙様式1の下半分の箇所ですが、以下のようになっていれば、条件を満たしていることになっています。
- 1-⑨ 調整後補助見込額合計(賃金改善部分) ≦ 2-⑦ 賃金改善額合計
実際に法人として支払う金額はいくらになるのかを勘違いしてしまうと、法人負担が大きくなってしまいます。 国家公務員給与改定対応部分は、今回の賃上げには含めなくても良い部分ですのでお気を付けください。
【2月10日追記】「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業に係るFAQ(ver.2・令和4年2月4日時点版)」
「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業に係るFAQ」が「ver.2・令和4年2月4日時点版」として 更新されました。以前のFAQでは触れられていなかった箇所、制度上おそらくはこうだろう、という推測で判断していた部分が明言された箇所、など重要な箇所をピックアップして説明します。
施設長以外の職員が法人役員を兼務している場合は対象
FAQ 番号1-10で取り上げられています。
本記事でも、法人役員を兼務されている施設長(園長先生)は対象外、と書いておりましたが、下記のようなお問い合わせを頂くことがありました。
法人役員を兼務している職員には、今回の処遇改善を行えないと聞きましたが、本当ですか?
(Ver.1の)FAQでは、法人役員を兼務する施設長は対象外、としか書かれていません。法人役員を兼務する職員については触れられていませんが、役員の中に評議員が含まれていることを考えると、職員は対象になると思いますよ。
このようにお答えしてきました。
複数回お問い合わせをいただきましたので、拡大解釈をされた方が一定数いらっしゃったのだと思いますが、Ver.2のFAQで、施設長以外の職員が法人役員を兼務している場合は対象と明確になりました。
給与を翌月払いとしている場合、2月分とはいつを指すか
FAQ 番号2-5で取り上げられています。
ここについては考えていなかったのですが、「確かに」という内容でした。
処遇改善臨時特例事業は令和4年2月から9月の期間で行われますが、給与を翌月払い(例えば、末締めの翌月10日払い)にしている場合、2月分とはいつのことを指すのかということが明確になりました。
学校法人会計基準・社会福祉法人会計基準・企業会計原則などから考えると、末締めの翌月10日払いの場合、2月分とは3月10日に支払ったものを指します。3月分は4月10日に支払いますが、決算では未払金計上されているかと思います。
しかし、給与台帳という視点で考えると、支払日ベースで見ることになりますので、2月分とは2月10日支払分を指すケースが多いです。
ここにしっかりと線引きがされました。
給与を翌月払いとしている施設・事業所であって、公定価格における各年度の処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱの賃金改善計画書・賃金改善実績報告書においても4月分から翌年3月分の賃金を記入している施設・事業所においては、令和4年3月に支払う2月分の給与から10月に支払う9月分の給与について本事業による処遇改善を行うことになります。
FAQの問では「給与を翌月払いとしている施設ですが、この場合でも令和4年2月に支払う1月分の給与から本事業による処遇改善を行わなければならないのでしょうか」という質問なのですが、支払日ではなく、賃金の算定期間をベースに、処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱで申請している期間に合わせることになります。
ですのでFAQの質問だけに回答すると「令和4年2月に支払う1月分の給与では処遇改善を行わなくてよい」となります。
利用定員の変更や施設類型の変更がある場合はどうなるか
FAQ 番号3-2から3-6で取り上げられています。
年度を跨いでいる事業だからこそ、起こりうる事態も、しっかりとフォローされています。
結論だけを書いてしまうと、とても柔軟な対応が示されています。
まずは利用定員見直しの場合を見てみます。
定員変更後の期間について、定員変更後の本事業の実施期間における年齢別利用児童数(平均)を推計して用いることも差し支えありません。
基本通り、令和3年度の年齢別利用児童数(平均)により算定してもよいし、利用定員変更後から令和4年9月までの間の年齢別利用児童数(平均)を推計しても、どちらでもよい、という扱いになっています。
次に保育所から認定こども園に移行するといったような施設類型変更の場合です。
施設・事業所類型の変更後の期間については、当該変更後の本事業の実施期間における年齢別利用児童数(平均)を推計して用いて補助基準額を算定することとなります。
施設類型が変更になると、補助基準額の単価も変わってきますので、とても納得できる算定方法です。
(保育所からこども園に移行した場合、1号認定の園児の推計をどのように出すかはとても悩ましいですが…)
今回(Ver.2)の改定で、細かい箇所までしっかりと押さえられていましたので、今後FAQが更新されるのかはわかりませんが、FAQの更新がある都度、本記事では追いかけていきます!
処遇改善臨時特例事業でよく頂くご質問
ここでは、 保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業について、よく頂くご質問に回答していきます。
- Q配分方法について、3つの配分方法があると書かれていましたが、うちの園にあった方法はどれなのでしょうか?
- A
いちたすとして、この方法が絶対におすすめです! という方法はないのですが、園の方針によって、良い方法は自ずと決まってきます。
先生方が「自分たちは月に9000円給与が上がるんだ」という意識になっている園にとっては、納得感を重視して均等に配分したほうがよいかもしれません。
もともと役職によって給与に差があって当然という組織文化の園でしたら、役職によって金額に差が生じている方が自然です。
なかなか新卒の先生が集まらない、という園でしたら、新人の方に多く配分することで、将来的に新卒の給与アップにつなげることも良い方法です。
ご自身の園に合った方法を見つけられると良いですね。
- Q収入を3%程度(月額9000円)引き上げる、ということが言われていますが、実際に先生方へ支払う金額を3%上げる必要はあるのでしょうか?
- A
保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業の目的は「教育・保育の現場で働く方々の収入の引き上げ」であり、収入を3%程度引き上げるための補助ということになっていますが、実際に支給をする際には、3%という数字は気にしなくても良い数字です。算定された補助金額を全額支給すれば補助要件を満たしたことになります。
- Q給与規程はいつまでに改定すればいいのでしょうか?
給与規程を改定するとなると、理事会の承認を得る必要がありますので、時間が掛かってしまいます。 - A
事業自体は令和4年2月から始まりますが、令和4年2月・3月は一時金での支払いも認められています。ただ、令和4年4月からは認められていないことを考えると、令和4年3月中には改定をして、令和4年4月からの給与支払いに備えることになります。
事業終了時には、「FAQ5-2 市町村実務」で賃金規程や賃金台帳等の添付を求める、となっていますので、賃金台帳上もわかるように、手当を分けておくことをお勧めしています。
まとめ
令和4年1月24日時点では、市町村から園に連絡が届き始めている状況だと思いますが、市町村側でも議会の議決が必要になりますので、なかなか情報が出てこなかったり、連絡が来てから提出期限までの期間が短ったりということが起きてくると思います。
申請様式は公開されていますので、早めに準備していけると良いですね。
最後にまとめです。
- 補助金額を計算する。
- 配分方法の方針を検討する。
上記二点が現時点で明確になっていれば、あとは申請書類を作成するタイミングで個別の配分額を詰めていくだけ、というところまでは進むことが出来ます。
株式会社 いちたすでは、 保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業 について、下記の様なご支援を行っています。
- 職員への配分額、賃金バランスの検討
- 保育士等処遇改善臨時特例事業の申請支援
- 保育士等処遇改善臨時特例事業の実績報告支援
ただし、職員への配分額や賃金バランスを検討する際は下記の情報・資料の共有もお願いしています。
- 園としての今後の将来像や理念
- 令和3年度処遇改善等加算申請書
- 今後の採用計画
上記の内容も影響してきますので、直前でのご依頼ではお引き受けできない場合もあります。
職員一人当たり月額9000円程度という、職員の処遇にとっては大きな補助金になります。
お早目のご対応をお勧めします。
本記事は令和4年1月24日時点の情報を基に執筆しています。
(令和4年2月1日、令和4年2月10日、令和4年2月25日、令和4年7月21日、令和4年12月19日に一部追記をしました)
いちたすについて
株式会社 いちたすでは、幼稚園・保育園・こども園の経営者の皆様に対して、運営・財務・経営に関するコンサルティングを行っています。
- 処遇改善という制度の説明や考え方の研修
- 園に導入する際の導入支援
- 所轄庁に提出する申請書類の作成支援
- 所轄庁に提出する実績報告書の作成支援
- 就業規則や給与規程の改訂支援(社会保険労務士と連携)
- 組織図の作成支援(責任と権限の明確化)
会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、保育所のバックオフィス業務、書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。
会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない、というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、委託費(施設型給付費)の加算の取りこぼしがないか、処遇改善をどのように取り入れていけばよいかなどを確認する相談契約もございます。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも出来ます。
料金プラン
株式会社 いちたすでは、定期的な顧問契約から、スポット(単発)での委託費の確認、申請書類の確認なども行っております。
たとえば、職員15名の園の場合
で引き受けております。
また、相談契約、コンサルティング契約ですと
で引き受けております。
その他、オプションにはなりますが、処遇改善等加算Ⅰの配分方法の検討、園内でのキャリアパスの明確化の支援、処遇改善等加算Ⅰの期末一時金としてどの程度支給すればよいのかの試算なども承っております。
依頼の流れ
お問合せフォームかinfo@ichitasu.co.jp宛にメールをお送りください。
詳しい内容をお伺いいたします。
その後は、
- 当社の担当者が園にお伺いする
- 当社事務所(仙台市一番町)にお越しいただく
- Zoomなどを利用してオンラインで打ち合わせをする
といった形で、具体的にどのようなご支援が出来るのかを打ち合わせいたします。
園によって状況は様々ですが、
など、ご要望に合わせてご提案いたします。
お気軽にお問い合わせください。