教育・保育人材の不足が叫ばれる昨今でも「優秀な人材が欲しい」という経営者の本音は、いつの時代も変わらないのではないでしょうか。
本記事は、
- 優秀な保育人材を獲得したいが、保育士の給与について戦略を立てているわけではない
- 自園の職員の給与体系が何年も変わっていないが、何から手をつけてよいかわからない
- 幼稚園・保育園経営者として、職員の給与設定を最適化し経営を安定させたい
というご状況の幼稚園・保育園・こども園の経営者の方が、
保育士の給与の重要性、給与設定の改善策や成功事例について知ることができる記事となっております。
この記事を監修した人

関西の税理士法人にて公益法人に対して決算・申告書作成、財務コンサルティングを担当。 2017年、同税理士法人の仙台支店に転勤。 2019年7月に税理士法人を退職後、株式会社いちたすに参画。
得意分野:幼稚園・保育園・認定こども園の経営・財務コンサルティング。 少子化がますます進む東北で、今後数十年、安定して運営していける園づくりの支援を行う。 新規園の設立や代表者の代替わりなどの際は、法人に入り込んで、伴走型の支援を行うこともある。
宮城県中小企業診断士協会所属
保育業界における保育士の給料の重要性について

「給料をいくらにするか?」については、どの業界の経営者も向き合い続けるテーマだと思います。では幼保業界における保育士の給料の重要性として、どんなことが挙げられるのか解説していきます。
保育士不足が深刻化する現状と、優秀な人材獲得の重要性
深刻化する人材不足が、教育・保育現場に影響を与えていることは、皆様も実感されているのではないでしょうか。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」によれば、保育士の有効求人倍率は依然として高い水準にあります。
例えば、令和6年1月の調査では、保育士の有効求人倍率は3.54倍となっており、全職種平均の有効求人倍率は1.35倍を超えた水準で推移しています。これは保育士1人に対して3.54件以上の求人がある状態を示しています。

幼保業界における優秀な人材と聞くと、皆様はどのような人材を想像されるでしょうか。
例えば、子どもの発達を深く理解し、保護者との信頼関係を築けるコミュニケーション能力、そして子どもたちの成長を真摯に願う姿勢などの要素が挙げられるかと思います。しかし実際のところ、優秀な人材の定義は、園によって異なるのではないでしょうか。
優秀な人材の獲得は、教育・保育の質を向上させるだけでなく、保護者からの信頼を高め、園の存在価値を築く上で必要不可欠です。安定した教育・保育環境は、子どもたちの健やかな成長を支え、長期的な視点からも園の経営安定に繋がります。

優秀な人材の定義は、園によって決める必要がある部分であり、園の個性に繋がるものではないかと考えています。
例えばですが、
・法人や園の規模、運営形態
・教育・保育方針の特色
・保護者や地域社会と築きたい関係性
・教育や保育現場で求める能力
などの要素から、
園が求める人材の人物像が浮かんでくるかもしれません。
園にとって優秀な人材が定義できれば、職員募集につながるだけでなく、「うちの園にはこんな職員がいます!」と、保護者に伝えやすくなりますので、園児募集にも良い効果が表れます。
給与体系が人材獲得に与える影響
「月給20万円」という求人と、「月給25万円、賞与年2回、住宅手当あり」という求人を比較した場合、どちらに優秀な人材からの応募が集まるかは、明白ではないでしょうか。
実際、保育士資格を持つ求職者の多くは、求人情報を比較検討する際、まず給与額を重視する傾向にあります。厚生労働省の「保育を取り巻く状況について」によると、転職理由の1位が「職場の人間関係」、2位が「給料が安い」となっており、求職者が職場を選ぶ理由として、給与額を重視する傾向が想像できるのではないでしょうか。
求職者にとって魅力的な給与体系は、応募者の数を増やすだけでなく、質の高い人材を引き寄せることにも繋がります。
経験豊富なベテランの先生や、専門性の高いスキルを持つ先生は、自身の能力に見合った待遇を求めており、給与水準の高い園に集まります。好条件を提示することで、転職を考えている優秀な先生に、自園の求人に注目してもらうことができます。
逆に、給与水準が低い場合「この給料では生活が厳しい」「自分のスキルが正当に評価されないのでは」と額面だけで判断し、求人ページすら開かない可能性があります。
「同じ時間働くなら、収入の良い仕事を選びたい」と考えるのは、求職者にとって自然なこととも考えられます。
したがって、人材獲得においては、基本給の高さだけでなく、賞与の有無や支給額、通勤手当、住宅手当、一時的なボーナスなどの手当、さらには育児休業制度やリフレッシュ休暇制度といった福利厚生まで含めた総合的な報酬体系を整えることが大切です。
目先の人件費削減にとらわれすぎず、将来への投資として給与体系を戦略的に設計することが、優秀な人材を確保し、教育・保育の質を高めるための重要な鍵となります。

すぐ隣町が人気のある観光地で人件費が高騰していると、高い賃金を求めて保育士が隣町に流れてしまうという話も伺ったことがあります。
高い賃金を求めて一時的に離れたとしても、最終的には地元の園に戻って働きたいと考えることも、十分にありえます。

当社(株式会社 いちたす)の話になりますが…、
当社では、ライフステージが変わっても働きやすい職場になっていけるよう、フレックスタイムや短時間正社員などの制度を充実させてきました。
ただ、それを前面に押し出してしまうと、求人の応募者からの質問が福利厚生面の話ばかりになり、もっと大事な業務の内容の質問や、いちたすの理念に共感してくれる方からの応募が減ってしまった時期がありました。
「給与を高くしないと、なかなか求人につながらない」というお話をすると「給与だけを見て応募する人が増えても困る」というお話になることもあります。
しかし、現在の状況では、給与を上げないと、そもそも求職者の選択肢に入ることも出来なくなりつつあるので、給与を上げつつ、法人の理念や目指す教育・保育の形を外部に打ち出していくということが必要になります。
保育士給与の現状と課題

保育士の給料の重要性について整理できたところで、ここからは保育士の給与についての現状と課題についても触れていきたいと思います。
全国平均と比較した保育士の給与水準(手取り、月給、年収)
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和6年)における(職種)第14表を元に、保育士の月給や年収を換算したものを表にまとめました。
ここでいう「月給・年給」「月収・年収」の意味合いは、下記のように想定しています。
- 月給・年給:基本給と固定手当(役職手当など)を合わせた月額の支給額。この年額が年給。
- 月収・年収:月給に加え、賞与やその他特別手当を含めた月額の支給額。この年額が年収。
下の表のとおり、保育士の平均月収は約33.2万円です。この平均月収は、賞与や特別手当を含む平均年収を12ヶ月で割り、月当たりに換算した金額となります。
ここから社会保険料や税金が引かれた手取り額は、一般的に月収の75~85%程度となり、平均的な手取り額は約24.9万円~28.2万円と推測されます。
一方、全職種の平均は平均年収は約489万円で、依然として保育士の平均年収の約398万円は、全職種の平均を下回っていることがわかります。
職種 | 平均年収 (年給+賞与とその他特別手当) | 平均月収 (平均年収÷12ヶ月) |
---|---|---|
保育士 | 398.5 | 33.2 |
幼稚園教員,保育教諭 | 407 | 33.9 |
全職種の平均 | 489.1 | 40.7 |
次に保育士の年収の内訳についても見ていきましょう。
上の表の平均年収には賞与やその他特別手当が含まれていましたが、その内訳を下の表にまとめました。
まず、保育士の基本給と手当は月額約27万円となっています。これらの手当の金額は、園の規定や個人の状況によって変動します。賞与については、年2回支給されることが多いですが、支給額は園の業績や個人の評価によって異なります。
保育士の給与の他に、幼稚園教員、保育教諭、全職種の平均もまとめておりますので、ご参考になれば幸いです。
職種 | 月給 (基本給と手当) | 年給 (月給×12ヶ月) | 賞与とその他特別手当 | 平均年収 (年給+賞与とその他特別手当) |
---|---|---|---|---|
保育士 | 27 | 324.3 | 74.1 | 398.5 |
幼稚園教員,保育教諭 | 27.1 | 326.2 | 80.8 | 407 |
全職種の平均 | 33.4 | 401.2 | 87.8 | 489.1 |

幼保業界内や近隣園の給与水準は何となく知っていたが、他業種の給与水準には注目していなかった、という方もいらっしゃるかもしれません。
園の価値を高めていくには、教育・保育の現場以外の業務を担う人材の活用も重要です。例えば、経理を強化し予算管理や財務分析を内製化するための人材や、ホームページやSNSなど保護者や地域と計画的な連携を担う人材などです。
そのような人材を確保していくためには、直接雇用か外部委託に関わらず、適切な報酬設定が必要です。他業種の給与水準を知っておくことは、報酬の相場感を養うことにも繋がります。

また当社(株式会社 いちたす)の話になってしまいますが…、
いちたすでは、「明るい未来は子どもから」という理念で、幼稚園や保育園、こども園向けに経営コンサルティングや財務支援を行っています。
お客様には幼保業界のお客様しかいないので、もともと親和性が高いのだとは思いますが、幼稚園教諭・保育士・保育教諭といった園の現場で働くことが出来る資格を持たれている方からの応募もあります。
同じような形で、保育士等の資格を持たれている方でも、転職の際には他業種を検討される方も多いと考えられますので、他業種の状況を押さえておくのもとても大事になってきています。
公私立、地域、職種による給与差
こども家庭庁の「令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報>」によると、保育士の給与水準は、公立・私立、地域や職種によって差が見られます。
では、どのような差が見られるのか、複数の観点から分析していきましょう。
公立と私立の給与差
一般的に、公立保育所の保育士の給与は、私立保育所と比較してやや高い傾向にあります。
下の表は、公立保育所と私立保育所における職種別職員1人当たり給与月額をまとめたものです。

例えば、公立保育所の常勤保育士の1人当たり給与月額は約36.5万円となっています。一方、私立保育所の常勤保育士の1人当たり給与月額は約34.8万円となっています。
このことから、公立保育所の常勤保育士の方が、私立保育所の常勤保育士よりも給与月額が約1.7万円高いことがわかります。
公立保育所の常勤保育士の方が高い背景には、公立保育所の保育士の賃金が地方公務員の給与体系に準拠していることが主な理由として挙げられます。一方、私立保育所の保育士の賃金は、運営法人の財政的な状況や経営方針によって給与水準が異なります。

人事院勧告の解説記事のなかでも触れているのですが…
国家公務員の給与は「採用市場での競争力向上のため初任給を大幅に引き上げ」られました。
公立の保育園でも、様々な方法で保育士確保に動いていますので、公立と民間では違うから、民間は給与が低くても仕方がない…と考えて手を打たないと、ますます採用が難しくなっていく可能性が高いです。
参考記事:【速報】令和6年 人事院勧告について保育業界のプロが解説|保育園・認定こども園・幼稚園向け
地域による給与差
保育士の給与は地域によっても差が見られます。
保育士の給与における地域差を見るために、ここでは地域区分ごとの傾向をみていきます。
「地域区分」とは、物価や人件費などの費用を地域相場に応じて差をつける区分です。施設型給付を受ける施設は、国が定める公定価格によって算定された給付費を受け取っています。そのため、園の運営費は、地域区分に応じた単価で算定されています。
地域区分は、物価が高い首都圏や都市部などでは「20/100地域」に近づき、物価が高くない地方などでは「その他地域」に近づく傾向があります。
では、地域区分によって、どのくらい給与差があるのか見ていきましょう。
下の表は、令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査において、私立保育所1,038施設の職種別職員一人当たり給与月額の状況を、地域区分ごとにまとめたものです。
地域区分 | 集計対象人数 (単位:人) | 平均勤続年数 (単位:年) | 私立保育所の常勤保育士における一人当たり給与月額(賞与込み) (単位:円) |
---|---|---|---|
20/100地域 | 1,748 | 7.9 | 317,377 |
16/100地域 | 3,422 | 9.1 | 319,941 |
15/100地域 | 1,933 | 9.9 | 326,300 |
12/100地域 | 1,313 | 8.6 | 316,477 |
10/100地域 | 2,841 | 9.3 | 316,308 |
6/100地域 | 3,355 | 9.8 | 297,971 |
3/100地域 | 4,038 | 9.4 | 303,019 |
その他地域 | 10,070 | 10.6 | 283,075 |
第29表 Ⅱ職種別職員一人当たり給与月額の状況,私立・公立保育所,地域区分別
上の表を見ると、一部例外もありますが、物価が高い首都圏や都市部などでは「20/100地域」に近づくほど、一人当たりの給与月額が高くなっている傾向が読み取れます。
地域区分の給与月額の最も高い地域区分と、最も低い地域区分を比べると、約3.4万円の給与月額の差があることがわかります。この差は、年額で約41.1万円の給与差となります。
次に、平均勤続年数にも注目してみましょう。
上の表では「その他地域」に近づくほど、平均勤続年数が高いことが読み取れます。勤続年数が長くなると定期昇給などにより給与が上昇していく傾向を踏まえると、もし勤続年数を揃えて地域区分ごとの給与を比べることがあれば、上の表よりも大きな給与差になる可能性も考えられます。
このことから、地域による給与差を意識した給与体系にしておくことの重要性がお分かりいただけるのではないでしょうか。

地域による給与差が存在していることが、具体的な数字からお伝えできてしましたら幸いです。
補足ですが、給付費の算定元となる公定価格の単価を見ると、「20/100地域」が最も単価が高く、「その他地域」が最も低い単価となっています。
このことから、地域による給与差はありつつも、施設によって職員の給与が異なるということも、想像できるかと存じます。

「保育の給与、園長(施設長)の給与の相場はどのくらいですか」
というお話を頂くことが多いのですが、地域によって給与水準は大きく異なっているので、一概にお答えできないことが多いです…。
上記のような全国的な平均は公開されていますが、あくまで平均のため同じ地域区分のなかでも、年収で50万円、100万円異なる、ということもあり得ます。
年収400万円が保育士の年収として高いか低いか、については、地域や求められているポジションによっても異なります。平均の数字を参考にしつつも、園の置かれている状況や、どういった方に来て欲しいのかを明確にしてから、自法人の給与を考えていくことが重要になります。
弊社ではブランディング支援の一環として、園で求めている人物像の策定からその方に来てもらえるような求人票の作成までご支援をしています。
なかなか法人内での検討が難しい部分でもあるかと思いますので、お気軽にお問い合わせください。
職種による給与差
園内での職種によっても給与には明確な差があります。一般的に、園長が最も高く、次いで主任保育士、そして一般保育士の順に給与水準が低くなります。
下の表は、公立保育所と私立保育所における職種別職員1人当たり給与月額をまとめたものです。

役職が上がるにつれて、管理業務や責任の度合いが増すため、それが給与に反映されると考えられます。主任保育士は、一般保育士と比較して給与月額で約10~20万円ほど高く、園長になるとさらに高くなっています。
ここまで、様々な観点から保育士の給与差を見てきましたが、いかがでしょうか。
これらの現状を踏まえ、自園の給与体系を検討する上で、公私立の別、地域の相場、そして職種による責任の違いなどを考慮する必要があることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
経営者が直面する給与設定の問題点
「子どもが減って収入が減少する懸念があるが、人材確保や流出を防ぐため職員の給与は改善していかなければならない」という経営手腕が問われる状況にプレッシャーを感じている方も、少なくないかもしれません。
ここでは、職員の給与設定において直面する問題点をまとめてみました。
園の財政的な制約
国の教育・保育政策や予算配分は、幼稚園教諭、保育教諭、保育士の給与に大きな影響を与えます。
公定価格の仕組みや補助金の額が、園の財政的な基盤を左右し、高い給与を支払う財源となる資金に余裕がないという現実も存在します。保護者からの利用料や保育料収入にも上限がある中で、人件費を大幅に引き上げることは難しいという財政的な制約も、経営者が直面する大きな課題です。
近隣園との人材獲得競争
さらに、近隣園との人材獲得競争も、給与設定を複雑にする要因です。
優秀な人材を確保するためには、ある程度の給与水準を維持する必要がありますが、財政的な体力が弱い園にとっては、人材獲得競争を有利に進めにくい可能性があります。
このように、保育士の給与設定は、人材不足、国の政策、収入の構造、そして各園の財政的な状況が複雑に絡み合った難題と言えます。

昨今、高い改定率となっている「国家公務員の給与改定に伴う公定価格における人件費の改定分」は、元をたどると民間企業との賃金格差を是正するための対応です。
この「国家公務員の給与改定に伴う公定価格における人件費の改定分」は、市町村を経由して園に支給されます。この財源を活用して、園にとって最適な給与体系に近づけていくこともできるかと思います。
そもそも「国家公務員の給与改定に伴う公定価格における人件費の改定分」が何かについて知りたい方は、関連記事「【2025年最新版】公定価格における令和4年人事院勧告に伴う国家公務員給与改定に伴う対応について」をぜひご覧ください。
保育士の給与設定の影響とは

保育士の給与の現状や課題がわかってきたところで、ここからは保育士の給与の設定が、保育園にどのような影響をもたらすのか見ていきましょう。
保育士の求人応募数への影響
保育士の求人において、給与設定は応募数を大きく左右する要素になります。
多くの求職者は、求人サイトやハローワークなどで仕事を探す際、
- 「保育士 年収」
- 「保育士 手取り」
といった検索キーワードを頻繁に使用します。
これは、生活の安定に直結する給与額が、就職先選びの最優先事項となっている可能性が高いといえます。
魅力的な給与水準を求人票で見せていくことは、より多くの求職者の目に留まり、応募意欲を高める効果的な手段となります。
職員(スタッフ)のモチベーションと定着率
適切な給与設定は、既存の職員のモチベーション維持と定着率向上に影響を与えられると考えられます。
職員の貢献や幼稚園教諭、保育教諭、保育士としてのプロ意識の高さが給与として正当に評価されていると、職員が感じることができれば、園への貢献意識はさらに深まります。
一方、給与水準が低いと、職員は「自分の頑張りが正当に評価されていないのではないか」不安を抱きやすく、離職を検討する可能性が高まります。
特に、業務負担が大きい教育・保育の現場においては、
- 職員の精神的な安定
- 長期的なキャリア形成
を、給与という形でも支援していく必要があると考えられます。
安定した人材の定着は、保育の質の維持・向上にも繋がり、結果として園運営の安定性を高めます。

経営者が考える「給与に見合った働き」と、職員が考える「給与に見合った働き」は、ずれていることもあります。
職員の方の話を聞いてみると、給与が低いことが不満なのではなく、自分の働きを評価されていないように感じることが不満という話が出てくることがあります。その場合、給与を上げることが解決策なのではなく、今の給与への納得性を職員に抱かせることが解決策になります。
保護者や地域社会からの評判
保育士の給与設定は、間接的に保護者や地域社会からの保育園の評判にも影響を与えます。
適切な給与によって資格を持った意欲の高い保育士を確保することは、取得できる給付費(委託費)の加算が増えて収入の増加に繋がるだけでなく、質の高い保育の提供に繋がります。
質の高い保育ができれば、子どもたちの健やかな成長を促し、保護者の満足度を高めます。
また、職員の言動は、地域社会からの信頼を構築していく上で重要な要素となります。
地域社会というと漠然としたイメージかもしれませんが、
- 園に出入りする給食業者の方への対応
- 監査に訪れる自治体職員の方への対応
など、職員が保護者以外の大人と接する機会は、多いと考えられます。
職員一人ひとりの誇りを持った言動が、園の長期的な発展を支える強固な基盤となります。

保護者や地域社会からの
「○○園の先生は、みんな丁寧だけどテキパキと対応してくれて気持ちがいいね」
などの肯定的な評判は、口コミなどにより広がって、新たな入園希望者の増加に繋がるかもしれませんね。

給与水準を高くするだけで、何もしなくても地域からの評判が高くなることはありませんが…。
給与水準が高いと、優秀なひとを採用しやすくなり、優秀な方は、業務外のことでも積極的に取り組んでくれたり、勤務時間外でも積極的に勉強をされていくので、良い循環が回り始めるきっかけにしていくことも出来ます。
保育園経営者の為の給与体系最適化戦略

保育士の給与をいくらにするかは、保育園の経営においる重要な判断事項であることが、既にお分かりのことと存じます。
ここからは保育園経営という視点から、保育士の給与体系を最適化する戦略について深掘りしていきます。
市場調査と内部評価のバランスの取り方

保育園経営における給与体系の最適化には、外部の市場調査と内部評価のバランスが鍵となります。
市場調査と内部評価で行うことについて、それぞれまとめていきます。
市場調査で行うこと
市場調査では、
- 近隣の競合園の給与水準、手当、福利厚生など
- 地域全体の給与相場
などを調査します。
都市部や地方などの特徴によっては、生活コストに違いが生まれ給与水準に影響を与えるため、地域特性を踏まえた設定が求められます。地域の相場を大きく下回る給与体系では、求人応募数の減少や離職につながる可能性が高まります。
このような市場調査により、自園が人材市場においてどの程度の魅力を持っているのかを比較でき、優秀な人材を引きつけるための給与水準の目安を掴むことができます。

地域の保育を担っていく事業を行われている理事長先生、代表の方からすると、園経営を行っていくうえで
・戦略
・市場調査
・人材市場
など営利企業が行っていることと、同じことを行っていく必要があります。保育施設の数が増えたにも関わらず、少子化が進んでしまったため、競争が激しくなっています…。
保育施設を運営する経営者の方々にとっては、好むと好まざるとにかかわらず、対応せざるを得なくなってきています。
内部評価で行うこと
一方、内部評価では、
- 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の定期的な分析
- 長期的な資金繰りの予測
- 職種別給与体系の構築
などを行うことが考えられます。
内部評価では、まず自園の財政的な状況を正確に把握することが大切です。
例えば、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の定期的な分析です。人件費率、経常利益率、自己資本比率、収支差額の推移などの主要となる指標を継続的に追いかけていきます。
収入とコストの内訳を精査しながらも、短期的な資金繰りだけでなく、長期的な予測も行うことで、より正確な財政状況が把握できます。必要に応じて、会計顧問などの専門家に助言を受けることも有効な手段です。
また、職員の経験、能力、そして園内での職務内容(園長、主任保育士、一般保育士など)に応じた職種別給与体系を構築することも重要です。責任の度合いや専門性に見合った給与を設定することで、職員のモチベーション向上と公平性の確保に繋がります。
このように、財政的に無理のない範囲を見極め、市場調査の結果を踏まえた給与水準を設定します。

保育施設を運営されていくうえで、予算の作成が求められているかと思います。
これまでは、予算と実績を管理して、園の状況がどうなっているのかを月次で追いかけて、現場の業務に反映させていく、という園は少なかったかと思います。しかし、給与水準を高めつつ、将来のための積み立ても行っていくということを考えると、いわゆる経営管理も求められ始めています。
給与を考えるうえでは、原資となる園の財政状況も関わってきますので、会計数値を使って考えていく必要があります。
当社では、記帳代行から会計確認、予算と実績の管理・分析も行っております。給与を考えていくうえで、将来の園運営をこのまま進めて良いのか、悩まれた際はお気軽にご連絡ください。
賞与・福利厚生の充実:賞与体系、各種手当、福利厚生制度設計

優秀な人材を惹きつけ、長く活躍してもらうためには、給与だけでなく、賞与や福利厚生を充実させることも重要です。
賞与体系の設計においては、基本給をもとに算定する方法や、園の業績や個人の評価を反映させる方法など、様々な選択肢があります。
導入にあたっては、支給基準を明確にし、職員に透明性を確保することがとても大事になります。
例えば、下記のような園独自の評価基準を設けることも考えられます。
- ポイント制賞与
園への貢献度をポイント化し、その累計ポイントに応じて賞与額を決定する。
貢献度は、研修への積極的な参加、委員会活動への貢献、革新的な保育実践の導入、その他の園運営への協力などの項目で評価。
期待できる効果:
給与だけでは評価しきれない職員の献身性を刺激し、組織への貢献意欲を高める。 - 多面評価を取り入れた賞与
上司からの評価だけでなく、同僚や保護者からの評価も賞与額に反映させる。
※多面評価の収集方法に際しては、プライバシーへの配慮が重要となる)
期待できる効果:
多角的な視点を取り入れることで、保育士の潜在的な能力やプロ意識を評価し、より公平性の高い賞与分配に繋がる。
各種手当についても見ていきましょう。
例えば、資格手当は専門性を評価し、役職手当は責任に見合った報酬を提供します。住宅手当や通勤手当は、経済的な負担を軽減し、安心して働ける環境づくりに貢献します。これらの手当を設計する際には、一般的な相場を参考にしつつ、園の財政的な状況に合わせて適切な基準を設定することが重要です。
福利厚生制度は、職員の満足度を高め、定着を促進する上で重要な役割を果たします。
社会保険や有給休暇、育児休業制度といった法定福利厚生に加え、法定外福利厚生の充実も検討しましょう。例えば、下記のような法定外福利厚生を取り入れることも選択肢として考えられますが、園の財政的な負担を考慮し、継続できる範囲で制度を導入することが重要です。
- スキルアップ制度
専門的なスキルアップを支援
(例:書籍の購入補助、オンライン研修やセミナーの参加費補助、園内の勉強会の開催など) - リフレッシュ休暇
心身の疲労回復を推進
(例:勤続年数などに応じた特別休暇の付与など) - 託児支援制度
職員が子育てをしながら働き続けられるようにサポート
(例:職員が利用できる企業主導型保育事業・事業所内保育所の整備、ベビーシッターなどの託児サービスにかかる費用を法人が補助など)
賞与・福利厚生制度を設計・導入する際には、就業規則等への明記と職員への丁寧な説明により、理解と合意を得るようにします。また制度を定期的に見直し、職員のニーズに合わせて更新していくと、長期的な人材定着に繋がります。

保育施設では、処遇改善等加算や人事院勧告への対応もあり、給与制度を複雑にすると、どの手当が何に対応しているのかがわかりにくくなるという弊害もありますが…。
一般企業では、すべて法人負担で社員の手当を出していることを考えると、国の制度で園負担なく支給するための財源があるというのは、プラスに考えることも出来ます。
(処遇改善や人事院勧告への対応の負担が大きすぎて、考えるのも嫌になるというお話を頂くことも多いですが…。本来はとても恵まれた制度です)
給与以外の待遇を含む総合的な報酬体系の改善

優秀な人材の確保と長期的な定着のためには、給与以外の待遇改善、特に働きやすい環境づくりは重要な柱となります。給与以外の待遇改善の例をいくつか挙げてみました。
フレックスタイム制度の導入
勤務時間においては、柔軟さを取り入れていく方向で考えてみるのはいかがでしょうか。
例えば、フレックスタイム制度の導入により、職員自身のライフスタイルに合わせて1日の勤務時間を選択できるようにします。
また、業務効率化を図り、残業時間を削減する努力も重要です。残業時間の削減は、職員の心身の負担を軽減し、仕事への満足度を高めます。
休暇制度の拡充
休暇制度の充実も、働きやすさの重要な要素です。有給休暇の取得を推奨するだけでなく、リフレッシュ休暇や慶弔休暇、子の看護休暇、介護休暇などの特別休暇を整備することで、職員の様々なライフイベントに対応できます。
制度はあっても使いにくい…という声が出ないよう、休暇取得を促進する仕組み作りも併せて進めていくと、高い休暇取得率を求職者にアピールできます。
ライフステージに応じた勤務制度の導入
ワークライフバランスへの支援としては、育児休業や介護休業からのスムーズな復帰を支援する制度、短時間勤務制度の導入などが挙げられます。
仕事とプライベートの適切なバランスは職員によって異なり、職員のライフステージによっても変化します。そういった変化するバランスに応じて、職員の業務量を適正に配分していく制度を整備することも、職員が長く園に貢献できる環境づくりに繋がると考えられます。
これらの取り組みは、求職者にとって魅力的な勤務条件となり、求人応募数の増加にプラスの影響を与えながら、在籍する職員の満足度を高め、離職を防ぐ効果も期待できます。

私自身の求職経験の話になりますが、弊社いちたすに入社したいと思ったきっかけの1つに「執務室の照明」があります。
弊社の執務室は、照明が蛍光灯のような白色ではなく、温かみのある電球色の証明が設置されています。
蛍光灯の青白い光は、メラトニンを抑制する作用が強く、夜間に強い光を浴びると、眠りが浅くなると言われています。
他の会社では見たことのなかった特色というのもあり、「照明からも職員の健康に気を配っている会社なのだな」と強く印象に残りました!
このように、皆様の園について、数値化できない福利厚生に目を向けてみると、求職者に刺さるポイントが見つかるかもしれません。
なお、こういった従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」に取り組む優良な法人を認定する制度もあり、弊社も認定を受けております。
健康経営優良法人認定制度について詳しく知りたい方は、関連記事「【プロ解説】健康経営優良法人に認定された当社が教える5つのメリット」をぜひご覧ください。

有資格者の配置基準を守らないといけない保育施設では、職員が自由に働く時間を選べるフレックスタイム制の導入は難しいとは思いますが…
短時間勤務の正職員制度は可能だと思いますし、もしかすると1日8時間週5日勤務という一般的な働き方ではなく、1日10時間で週4日勤務で働きたいという方もいるかもしれません。
保育施設でテレワークを導入しているという話も聞きますし、保育施設だからできないという制限を外して考えると、意外といろいろなことが出来る余地は残されていると思います。
高給与を支払うための財務戦略

高給与戦略は、優秀な人材を惹きつけ、質の高い保育を提供する上で不可欠な投資です。
まず、財務戦略を立てる準備の一例として、下記のような流れで自園を取り巻く環境を整理してみるのはいかがでしょうか。
- 競合園や地域の給与相場を調査
- 自園にとって最適な給与水準の目標を設定
- 人件費のモデル化により、新たな給与体系が園の財政に与える影響を分析
- 確保すべき収益を数値化、自園の財務状況に応じて予実管理に反映
続いて、どのような手段で目標とする給与水準の実現に充てる費用を確保していくかを考えていきます。
収益を確保していくためにできることとして、
- 収入源の多角化による収入の増加
- 運営効率化による支出の削減
の2点から考えた場合、どのような改善ができるでしょうか。
1つずつ解説していきます。
収入源の多角化による収入の増加
収入源の多角化においては、幼保業界の事業は国の運営費で賄われている事業である以上、公益性を重視した事業展開を念頭に置くことが重要です。
例えば、延長保育や一時預かりサービスの拡充、地域子ども・子育て支援事業への積極的な参加など、新たな収入の流れを検討しましょう。
また、系列園を増やすことで食材の共同購入、事務部門の共通化、研修制度の一括実施など、コスト削減による収益性向上も考えられますが、園の財務的に可能か慎重に判断する必要があります。
- 公益性を重視した事業展開
延長保育や一時預かりサービスの拡充、地域子ども・子育て支援事業への積極的な参加など
⇒新たな収入源を確保 - 系列園の開設
食材の共同購入、事務部門の共通化、研修制度の一括実施など
⇒コスト削減による収益性向上
運営効率化による支出の削減
次に運営コストの見直しについても考えてみましょう。
例えば、残業時間の削減による人件費削減を目指す場合、自園の職員の勤務時間の見える化から始めるのも1つです。
勤務時間(業務)の見える化によって所要時間の目安を設けたり、削減していく業務を特定したり、外部に任せた方がコストがかからない業務があったりなど、自園に合ったコスト削減方法に気づくことができます。
人件費以外の部分においては、使われていない物品や設備の見直し、技術的なツールの導入による省力化など、人・モノ・カネ・情報などの観点から広く検討します。
「保育の質を担保もしくは向上できるか」という観点で見直すことで、本来の事業目的に沿ったコスト削減に繋がります。
- 職員の勤務時間の使い方の見える化
削減する業務の特定と削減、所要時間の目標値を設定し残業時間を削減、内製不要な業務の外部委託化など
⇒業務効率化による収益性向上
- 人件費以外の省力化
不使用物品や設備の見直し、技術的なツールの導入による省力化
⇒コスト削減による収益性向上
高給与を支払うための財務戦略は、定期的な経過観察と、経済状況や園の経営状況に応じた調整を経ながら、数年間にわたり長期的に取り組むことになると考えられます。
繰り返しになりますが、優秀な人材の確保は、保育の質の向上、保護者の信頼獲得、そして園の存在価値の向上へと繋がり、安定した園運営の基盤となります。

弊社いちたすでは、業務によってルールやマニュアルが設けられていますが、より確実な方法や効率化できることがあれば、職員から上司に改善提案しよう、というやり取りを入社当初から感じています。
職員の目線から改善案をあげる文化が根付くことで「今携わっている業務で、もっと早く正確にできるやり方はないかな?」など、職員が組織全体に恩恵をもたらすことを探す意識を育てることに繋がると思いました。

職員の勤務時間の見える化は、これから重要になってくると考えています。
これまでは、幼稚園や保育園で残業手当を出していない園を見ることもありましたが、残業手当など、働いた時間への対価を適切に支給しているかなども、見られる時代になってきています…。
給与最適化に成功している保育施設の事例紹介

ここからは、給与最適化に成功した保育施設の事例を紹介していきます。
給与水準を上げた保育園の事例分析
今回は、園児減少に悩む小規模保育園が、処遇改善等加算Ⅱの取得を機に、職員の給与改革をした事例です。職員の貢献度の向上と離職防止に繋がったプロセスを、分析していきます。
取組みの背景
地方都市に位置するA保育園は、近隣の人口減少と少子化の影響を受け、園児数が徐々に減少していました。経営者の園長は、収入の減少に危機感を抱きながらも、日々の保育に真摯に向き合う職員たちの頑張りを肌で感じていました。
「職員が毎日頑張ってくれていることを何とかして給与で還元したい」と思いながらも、限られた委託費の中で、どのように職員の給与を上げられるか、具体的な手段を探していました。
取組みの内容
そんな中、園長は毎年の処遇改善等加算の申請準備を進める中で、これまで適用できていなかった加算Ⅱに目をつけます。加算Ⅱの取得要件を詳細に確認した結果、キャリアパスの整備、研修機会の充実など、自園でも対応可能であると考え、準備を進めました。
進めた取組みを下記にまとめました。
- 研修支援制度の導入(研修費用の一部補助)
- 職務分担と組織体制の明確化(職務分担表と組織図を整備)
- 全職員への丁寧な説明と合意形成(役職者に対する個別説明、職員説明と職員の疑問解消の場)
- 給与規程の見直しと手当の導入(役職者への追加的な手当の導入)
- 加算額の段階的な配分(経験に応じた配分で職員全体の給与底上げ)
- 市町村職員やその他の関係機関と連携(加算の要件確認、添付書類の調達)
取組みの成果
これらの取り組みの結果、A保育園の全職員の賃金水準が着実に向上しました。
また、新たに整備した職務分担表により、これまで園長が担っていた業務の一部を、主任保育士が円滑に引き継ぎすることができ、園全体の運営効率が向上しました。
それぞれの職務が明文化されたことで、職員は自身の役割を認識し、優先順位をつけて業務に取り組めるようになりました。制度導入後の退職者はゼロが続いています。
成果の要因、背景
まず、約1年という計画期間を設け、着実に準備を進めたことが成功の大きな要因です。
市町村の職員との連携を丁寧に進めていくことで、イレギュラーな場合の適切な申請手続きを行うことができました。
また、職員会議での丁寧な説明と質疑応答を通じて、キャリアアップの仕組みや手当導入の意図を共有し、職員との間で十分な合意形成を図れたことが、スムーズな制度移行と職員の積極性を引き出すことに繋がりました。
職務分担表や組織図による業務の可視化、そして役職者だけでなく経験に応じた手当支給といった公平性の確保も、職員の納得感とモチベーション維持に貢献したと考えられます。

今回の事例では、
・加算Ⅱとしての加算額を職員に還元すること
・加算Ⅰ賃金改善要件分2%上昇による加算額を職員に還元すること
の2点により、給与の改善を行いました。
国の制度を活用した給与改善は、制度の理解と、市町村職員の方との確実なやり取りが求められます。
弊社がこういった制度の新たな活用をご支援する際は、
「市町村の職員様には○○の資料のURLをお送りして、市町村の職員様にも理解をいただけよう間接的に交渉してみましょう」など、園の適正さの根拠となる国の通知やFAQなどをお伝えし、審査通過の後押しをさせていただくこともあります。
給与改善による効果の具体例
加算Ⅱ取得による給与改善は、職員のキャリアアップ、離職防止、保育の質の向上、組織運営など、様々な効果があったことがお分かりいただけるかと思います。
ここでは、事例のまとめとして、給与改善により、園長をはじめとする経営者にとって、どのような効果をもたらすのか、まとめていきます。
園長の業務負担の軽減
理由なく給与を改善するのではなく、給与の改善に応じて職員の職務を調整することも重要です。給与の改善により、主任保育士に手厚く改善する分、園長の業務の一部を担わせることで、給与の改善と同時に「経営者の時間確保」につなげることも出来るようになります。
職員の成長促進による園の価値上昇
職員の給与を上げたことに応じて、職員が果たす職務・職責も大きくなると考えると、職員が今までできなかったことに挑戦する場面が増え、より教育・保育の現場経験が豊富になっていくことが考えられます。
職員一人ひとりが担える業務の量や質が増えることで、より質の高い教育・保育に繋がり、保護者や地域社会から求められる園としての存在感を放っていくことが期待できます。
園の経営課題のステップアップ
職員の賃金水準の向上が叶ったことで、園の経営課題は次の段階へと移っています。
一時預かり事業の開始や入園希望者数を増やすための取組みなど、経営者が収入増加の取り組みに注力できる環境が整ってきました。
保育士の給与についてよくあるご質問

ここでは、幼保業界の経営者様からよくいただく、保育士の給与についてのご質問に回答します。
- Q現状の園の財務状況から最適な給与の割合が分かりません。
- A
園の財務状況について、具体的にどのようなことが分かっていますでしょうか。
例えば人件費率でいうと、保育園の人件費率は収入に対して65%~75%程度が平均と言われています。しかし、これはあくまで平均的な数値であり、園の規模、地域、保育内容、職員構成などによって異なります。最適な給与割合を検討するには、まず現状の人件費を算出し、地域の給与相場や競合園の状況と比較することが重要です。その上で、確保したい人材の職種別の給与相場や、園が実現したい教育・保育の質などを考慮し、無理のない範囲で人件費を調整していくのはいかがでしょうか。
- Q保育士の年収を上げたいとは思っているのですがどのような給与体系にすれば良いか悩んでいます。
- A
どのような給与体系が望ましいかは、競合園や地域の給与相場などによる外部要因や、自園の財務状況などの内部要因を総合的に踏まえて検討する必要があります。
まずは、全職員一律で給与を上げたいのか、手厚い給与を支給したい職員の層があるのか等によって目指す給与体系は異なります。保育士の年収を上げたい理由や、年収を上げたら園がどうなっていくことを期待しているのかを考えてみると、方向性が見えてくるかもしれません。
- Q地域で何番目の高さで給与設定にすべきか悩んでいます。
- A
地域で何番目の高さか悩まれているとのことですが、その背景は優秀な人材確保、離職率低下を防ぐなどでしょうか?
例えば、地域内では給与が低かったとしても、他の給与の高い園よりも融通の利く働き方ができる、園児1人あたりの職員数が多く職員1人あたりの業務負担が高すぎない場合が考えられます。このように給与の低さに納得性があると、求職者が「この園で働く理由」として認識しやすくなるとも考えられます。
求職者や職員が求める条件を丁寧に把握していくと、「何番目か」より「この園で働く理由」が明確になり、自園にとって適切な給与設定が見えてくるかもしれません。
- Q保育士の給与の地域相場の調べ方が分かりません。
- A
保育士の給与相場を知る情報源を2つご紹介いたします。
①こども家庭庁の「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」
こども家庭庁が行っている「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」は、5年に1回ほど行われています。
施設類型、職種別に人件費が公開されているため、幼稚園・こども園・保育園に特化した情報源として活用できます。
現時点で公開されている最新の調査は、「令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報>」となります。②厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」は、毎年1回行われています。
幼稚園教諭、保育教諭、保育士などの職種別だけでなく、経験年数別の給与額を知ることができます。
現時点で公開されている最新の調査は、「令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」となります。
- Q保育士の給与を下げる事は出来るのですか?
- A
保育士の給与を下げることは、慎重に検討すべき問題です。給与を下げることを検討されている理由は、園児数の減少、物価上昇による物流コスト増加など、様々あるかと想像します。
制度的な側面から見ると、施設型給付を受ける幼稚園、こども園、保育園では、処遇改善等加算を受けています。この加算では、原則として職員の賃金水準を下げてはならないと定められています。どうしても給与水準の見直しが必要な場合は、処遇改善等加算制度のルールを確認し、事前に自治体に相談することが重要です。場合によっては、減給ではなく、賞与や手当の見直し、昇給の抑制といった代替的な方法を検討することも考えられます。
いずれにしても、職員のモチベーション低下や離職に繋がらないよう、丁寧な説明と合意形成が必要不可欠です。
保育園・幼稚園・こども園経営のご相談なら幼児教育・保育専門コンサルティング会社いちたすへ

保育園・こども園・幼稚園を経営するうえで、お困りのことがありましたら株式会社 いちたすへお気軽にお問合せください。
今後どのように運営していけばよいか、給付費(委託費)や補助金はしっかりと取れているのかといった経営・財務に関するご相談から、保育士・職員に外部研修を行ってほしい等の人材育成に関するご相談まで、幅広くご支援しています。
いちたすについて

株式会社 いちたすでは、保育園・こども園・幼稚園の経営者の皆様に対して、経営・運営・財務に関するコンサルティングを専業で行っています。
会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、保育所のバックオフィス業務、書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。
「会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない」というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、
- 委託費の加算の取りこぼしがないか、第三者に確認してもらいたい。
- 認定こども園への移行を考えているが、何から手を付ければよいかわからない。
- 処遇改善をどのように取り入れていけばよいか、他園がどのように行っているかを知りたい。
などのお悩みに対してご支援・コンサルティングを行う顧問(相談)契約もあります。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも可能です。
料金プラン

株式会社 いちたすでは、定期的な顧問契約から、スポット(単発)での委託費の確認、申請書類の確認なども行っております。
たとえば相談契約、コンサルティング契約ですと
で引き受けております。
「複数施設を運営しているが本部で契約したい」「打ち合わせは2か月に1回でよい」など、オーダーメイドでご契約内容を作成いたしますので、お気軽にご連絡ください。
依頼の流れ

お問合せフォームかinfo@ichitasu.co.jp宛にメールをお送りください。
詳しい内容をお伺いいたします。
その後は、
- 当社の担当者が園にお伺いする
- 当社事務所(仙台市一番町)にお越しいただく
- Zoomなどを利用してオンラインで打ち合わせをする
といった形で、具体的にどのようなご支援が出来るのかを打ち合わせいたします。
園によって状況は様々ですが、
など、ご要望に合わせてご提案いたします。
お気軽にお問い合わせください。