【令和5年6月2日追記】
第5回こども未来戦略会議にて「こども未来戦略方針」案が示されました。
本記事では、「こども誰でも通園制度」について追記いたしました。

岸田総理が2023年の年頭記者会見で「異次元の少子化対策」に挑戦することを掲げ、2023年1月には1回目の関係府省会議が開催されました。

この異次元の少子化対策は、2023年3月末までにたたき台をとりまとめることとなっていましたが、ようやく2023年3月31日にこども家庭庁より異次元の少子化対策の試案が公表されました。

2022年の出生数が過去最低の80万人を割り込み、少子化が深刻さを増すなか、「異次元の少子化対策とはどういった内容なのか? 」「幼児教育・保育施設へどのような影響があるのか?」を保育園・幼稚園・こども園等の経営者の方に向けて解説しています。

中小企業診断士・大窪

異次元の少子化対策」というキーワードが目立ってしまうのですが、試案を読んだ段階では、何と何を比較して「次元が異なる」という強い言葉を使っているのかはわかりませんでした…。
全体的に危機感をあおる内容でしたが(実際に危機的な状況ではあるのですが…)、それに対応する政策については「ここまで危機感をあおったうえで、やることなのか…? もっと抜本的な対策を行わないと少子化の傾向は変わらないのでは…」と感じました。
おそらくは具体的な政策が明確になる前の試案の段階だからだとは思いますので、今後も追いかけていきたいと思います。

異次元の少子化対策(試案)のポイント

政府から公表された異次元の少子化対策の試案の正式名称は、「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」です。

全文をご確認になりたい方はこちらからどうぞ。
こども・子育て政策の強化について(試案)‐次元の異なる少子化対策の実現に向けて‐

早速、ポイントを解説していきます。

基本理念

基本理念の説明画像

公表された試案の中では、3つの基本理念が掲げられています。

3つの基本理念
  1. 若い世代の所得を増やす
    …賃上げ、雇用のセーフティネット構築、106万円・130万円の壁解消に向けての制度の見直し など
  2. 社会全体の構造・意識を変える
    …「共働き・共育ての推進
     「こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革
  3. 全ての子育て世帯を切れ目なく支援する
    …「ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化
     「全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充

この3つの基本理念では、岸田総理が会見で示した「(1)若い世代が希望通り結婚し、希望する誰もがこどもを持ち、(2)ストレスを感じることなく子育てができる社会、そして、(3)こどもたちが、いかなる環境、家庭状況にあっても分け隔てなく大切にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会」が目指すべき社会の姿として掲げられています。

中小企業診断士・大窪

教育・保育施設の経営にとって大きく関わるのは、3つめの「全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充」です。
そのなかで「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設が検討されています。詳しくは、記事の後半で解説しています。

こども・子育て支援加速化プラン

こども・子育て支援加速化プランの説明画像

2030年代に入るまでのこれからの6~7年が、少子化傾向を反転できるかどうかの転換期になることから、2026年まで今後3年間を集中取組期間として、「こども・子育て支援加速化プラン」に取り組むことが発表されました。

その中で、「待機児童対策などに一定の成果が見られたことも踏まえ、子育て支援については、量の拡大から質の向上へと政策の重点を移す。」という考え方が示されました。

これまでは、女性の就業率が上がり、待機児童が大きな問題となっていたため、国や自治体主導で保育施設の整備が進められてきました。その結果、待機児童問題が解消しつつあり、定員割れしている保育施設も少なくありません。

そのような状況の中で「量の拡大から質の向上へ」という考え方が政府から示された、ということは保育園経営者の方が押さえておくべき大きなポイントです。

中小企業診断士・大窪

待機児童の解消に向けては、小規模保育施設や企業主導型保育施設を始めとして、認定こども園・認可保育所の新規設立が一気に増えました。
幼児教育・保育業界のご支援をしていく中でも、本当に園を取り巻く環境が変わったと実感します。
こども・子育て支援加速化プラン」では、量から質へという考え方の大きな方向転換が示されましたので、具体的な政策にどう結びついていくか、しっかりと見定めていく必要があります。

全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充

全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充の説明画像

こども・子育て支援加速化プランに取り組むことが発表されましたが、具体的にはどういった内容なのでしょうか?

こども家庭庁が「全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充」の主なポイントとして掲げているのは以下の5つです。

こども・子育て支援加速化プランのポイント
  1. 妊娠期からの切れ目ない支援の拡充
    ~伴走型支援と産前・産後ケアの拡充~
  2. 幼児教育・保育の質の向上
    ~75年ぶりの配置基準改善と更なる処遇改善~
  3. こども誰でも通園制度(仮称)の創設
    ~就労用件を問わず、全ての子育て家庭が保育所を利用できるように~
  4. 新・放課後子ども総合プランの着実な実施
    ~「小1の壁」打破に向けた量・質の拡充
  5. 多様な支援ニーズへの対応
    ~社会的養護、障害児、医療的ケア児等の支援基盤の充実とひとり親家庭の自立支援~

(出典:こども・子育て政策の強化について(試案)‐次元の異なる少子化対策の実現に向けて‐(概要)

それでは、幼児教育・保育施設に関連する
「2.幼児教育・保育の質の向上
「3.こども誰でも通園制度(仮称)の創設」について、解説していきます。

幼児教育・保育の質の向上 

幼児教育・保育の質の向上について、具体的には1歳児及び4・5歳児の職員配置基準について見直しが検討されることとなっています。

年齢現行改善案
1歳児6対15対1
4・5歳児30対125対1
職員配置基準の改善案

公定価格の改善については、公的価格評価検討委員会中間整理を踏まえて取組を進める、とされています。また、保育士等への更なる処遇改善についても民間給与動向等を加味して検討されます。

公的価格評価検討委員会とは? こちらの記事で解説しています。
参考記事:【令和4年度最新版】保育園の公定価格について経営者目線で7分で解説

75年ぶりに職員配置基準が改善されようとしています。
保育士1人に対し保育を行う子どもの人数が少なくなり、手厚い保育ができるようになることは、保育施設にとっても、保護者にとっても良いことですが、その分保育士の確保が必要となります。

中小企業診断士・大窪

現在でも、保育士の人材不足にお困りの保育園経営者の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今後は更に保育人材確保の競争も激しくなることが予想されます。

保育士不足でお困りの保育施設経営者の方へ
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【令和5年6月2日追記】こども誰でも通園制度(仮称)の創設

0~2歳児の約6割を占める未就園児を支援するため、現行の幼児教育・保育給付に加え、就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付の創設が検討されています。
当面は、未就園児のモデル事業の拡充を行うとのことです。

未就園児のモデル事業とは、令和5年度予算で新設された「保育所の空き定員等を活用した未就園児の定期的な預かりモデル事業」のことだと推測できます。

この未就園児のモデル事業は、定員に空きのある保育所等において、未就園児を定期的に預かることで保育所の多機能化に向けた効果を検証することが目的です。

未就園児の定期的な預かりモデル事業については、こちらの記事で詳しく解説しています。
参考記事:【速報!】第64回 子ども・子育て会議のポイントを3分でわかりやすく解説

中小企業診断士・大窪

これまでは、保育園における園児募集の対象は「保護者が共働きの家庭」でした。
今後、就労要件を問わない新たな通園給付が創設されるとなると、園児募集の対象が拡がることになります。
まだ全容はつかめませんが、保育園経営者の方は注目すべきポイントです。

【令和5年6月2日追記】
岸田総理が令和5年6月1日に「こども誰でも通園制度」について2024年度から制度の本格実施を行うことを表明しました。

また、同日に開催された「第5回こども未来戦略会議」で政府の「異次元の少子化対策」の具体的方向性を示した「こども未来戦略方針」案が示されました。

その方針案では、このように記載されています。

具体的な制度設計に当たっては、基盤整備を進めつつ、地域における提供体制の状況も見極めながら、速やかに全国的な制度とすべく、本年度中に未就園児のモデル事業を更に拡充させ、2024 年度からは制度の本格実施を見据えた形で実施する。あわせて、病児保育の安定的な運営に資するよう、事業の充実を図る。

「こども未来戦略方針」案

就労要件を問わず利用できる通園給付が創設されることが決まりました。
未就園児0~2歳児の約6割を占めているため、園児募集の対象が大きく拡がることになります。

「こども誰でも通園制度」とは?

月一定時間までの利用可能枠の中で、就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付のことです。

全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備するとともに、全ての子育て家庭に対して、多様な働き方やライフスタイルにかかわらない形での支援を強化するために創設されます。

具体的な制度内容はこれから検討されますが、2023年度にモデル事業を行い2024年度に本格実施されます。

試案の今後について

試案の今後について説明画像

今回は試案が公表されましたが、財源を含めてまだまだ不透明の部分がほどんどです。
2023年4月以降は「内閣総理大臣の下に新たな会議を設置し検討を深める」としています。

2023年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2023」までに、将来的なこども予算倍増に向けた大枠が提示されます。

当ブログにおいても、最新情報が発表され次第、お伝えしていきます。

まとめ

2023年3月31日にこども家庭庁より異次元の少子化対策の試案が公表されました。
幼児教育・保育に関連する重要ポイントは以下の5つです。

異次元の少子化対策(試案)のポイント
  1. こども・子育て支援加速化プラン今後3年間に集中して取組む)
  2. 子育て支援については、量の拡大から質の向上へと政策の重点を移す
  3. 75年ぶりの配置基準改善と更なる処遇改善
  4. 就労要件を問わない通園給付の創設
  5. 2023年6月の「骨太の方針2023」に向け検討を深めていく

今後は、内閣総理大臣の下に新たな会議が設置され、検討が進められます。
当ブログでも、随時、最新情報をお伝えしていきます。

本記事で解説した「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」はこども家庭庁のHPから確認することができます。
参考URL:こどもまんなか こども家庭庁

中小企業診断士・大窪

具体的な施策はこれから検討されますが、職員配置基準改善就労要件を問わない新たな通園給付の創設など、教育・保育施設にとっても大きな影響を受けることは間違いないです。
この異次元の少子化対策をチャンスと捉え、情報収集をしっかりと行い、幼児教育・保育施設経営に活かしていきましょう!

本記事は令和5(2023年)年4月4日時点の情報を基に執筆しています。

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