「新制度に移行すべきか、私学助成のままでいくべきか…」
幼稚園経営者の多くが、この判断に悩まれています。すでに全国の私立幼稚園の7割以上が新制度へ移行している中、まだ移行していない園では「本当に移行してよいのか」という不安が大きいのではないでしょうか。
新制度への移行は、補助金の仕組みが大きく変わる重要な経営判断です。園児数100人以下の小規模園では収入が増える可能性が高い一方、大規模園では慎重な検討が必要です。また、事務手続きの増加や、一度移行すると戻ることが難しいといったデメリットも存在します。
本記事では、幼保業界専門のコンサルティング会社として数多くの移行支援を行ってきた実績をもとに、新制度移行の判断に必要な情報を実務的な視点から網羅的に解説します。
この記事でわかること
- 新制度と私学助成の具体的な違い
- 移行による収入シミュレーションの考え方
- メリット・デメリットの正確な理解
- 認定こども園と新制度幼稚園の選択基準
- 移行すべき園の4つの判断基準
- 実際の移行手続きの流れとポイント
- よくあるトラブル事例と対策
少子化が進むなか、園児数減少に備えた経営戦略として新制度移行を検討されている理事長様も多いはずです。本記事が、貴園にとって最適な選択をするための判断材料となれば幸いです。
この記事を監修した人

関西の税理士法人にて公益法人に対して決算・申告書作成、財務コンサルティングを担当。 2017年、同税理士法人の仙台支店に転勤。 2019年7月に税理士法人を退職後、株式会社いちたすに参画。
得意分野:幼稚園・保育園・認定こども園の経営・財務コンサルティング。 少子化がますます進む東北で、今後数十年、安定して運営していける園づくりの支援を行う。 新規園の設立や代表者の代替わりなどの際は、法人に入り込んで、伴走型の支援を行うこともある。
宮城県中小企業診断士協会 会員
幼稚園の新制度(子ども・子育て支援新制度)とは

私立幼稚園は、従来の私学助成を受け続ける選択肢と、新制度に移行して施設型給付を受ける選択肢の2つから選ぶことができます。どちらを選ぶか、理事長先生にとって最大のポイントは、補助金の仕組みが大きく変わる点を正しく理解することです。
新制度導入の背景と目的
子ども・子育て支援新制度(こども・こそだてしえんしんせいど)は、平成27年4月にスタートしました。この制度が生まれた背景には、待機児童の増加や幼児教育の質のばらつきといった課題がありました。
制度の目的は、幼児期の学校教育や保育の量を増やし、質を高めることです。すべての子どもに質の高い教育・保育を提供できる環境をつくることを目指しています。(出典:こども家庭庁 子ども・子育て支援制度)
この制度により、認定こども園・幼稚園・保育所に共通する「施設型給付(しせつがたきゅうふ)」という新しい補助金の仕組みが誕生しました。また、小規模保育事業などには「地域型保育給付」が設けられています。
幼稚園における新制度移行とは、従来の私学助成(しがくじょせい)という都道府県からの補助金ではなく、この「施設型給付」を受け取る形に切り替えることを指します。補助金の出どころと計算方法が大きく変わる点が、理事長先生にとって最も重要なポイントです。

私学助成の幼稚園では、都道府県によって運営費(経常費)補助金の金額の計算方法が異なり、かつ、具体的な補助金の計算方法が公開されていないことが多いので、弊社でご支援をする際も、明確な金額での予算を立てづらいということがありました…。
施設型給付費では、公定価格に基づいてどの地域でも同じ計算方法で金額が算定されますので、より計画性のある事業計画、予算管理を行うことが出来るようになります。
新制度移行の現状データ

こども家庭庁が令和7年1月に発表したデータによると、全国の私立幼稚園7,705園のうち、令和7年度末までに5,562園(72.2%)が新制度へ移行する見込みです。つまり、すでに7割以上の園が新制度を選んでいることになります。
地域別に見ると、移行状況には大きな差があります。富山県、福井県、鳥取県、島根県、高知県、宮崎県では、移行割合が100%に達する見込みです。これらの地域では、すべての園が新制度を選択したことになります。
一方で、移行割合が50%未満と低い地域もあります。岐阜県、京都府、東京都、埼玉県、愛知県などです。これらの地域では私学助成の補助金が手厚いなど、現行制度のメリットが大きい可能性があります。

このように地域差が生まれている理由は、各都道府県の私学助成の充実度や、自治体の方針の違いが影響していると考えられます。ご自身の園がある地域の状況を確認することが、判断の第一歩となります。

大きな都道府県では、都道府県独自の補助金などもあり、少子化の影響がありながらも、まだまだ園児がしっかりと集まっていたことで、収支差額がマイナスになることもなく、そのまま移行を検討せずに来られている園もあるかと思いますが…。
補助金の金額もありますが、私学助成のままでは教職員の処遇改善という面ではなかなか補助が少なく、新制度に移行した園と年収ベースで大きく差が広がってきてしまっているということも、新制度に移行する園が増えている要因と考えられます。
(出典:こども家庭庁 令和6年度私立幼稚園の子ども・子育て支援新制度への移行状況等調査の結果)
【基礎知識】私学助成幼稚園と新制度幼稚園の違いを徹底比較

理事長として適切な判断を行うためには、それぞれの特徴を正確に理解することが不可欠です。ここでは、経営に直結する重要な違いを3つの視点から解説します。
補助金の算定方法の違い
私学助成の補助金は、各都道府県が独自に算定方法を決めているため、計算の仕組みが不透明なケースが多く見られます。たとえば宮城県では「園児数割と補正項目で算出する」とだけ記載されており、具体的な計算式は公開されていません。(出典:宮城県 私立学校運営費補助金交付要綱)
そのため、来年度の補助金がいくらになるのか、正確な見通しを立てることが難しいのが現状です。金融機関への説明資料を作る際にも、根拠を示しにくいという課題があります。
一方、新制度の施設型給付は「公定価格(こうていかかく)」という国が定めた単価表に基づいて計算されます。園児一人あたりの単価が明確に決まっているため、園児数から収入をほぼ正確に予測することが可能です。
公定価格は、施設が所在する地域や定員区分によって単価が変わります。たとえば都市部と地方では単価が異なり、定員が少ないほど一人あたりの単価は高くなる傾向があります。この明確性が、中長期的な経営計画を立てやすくする大きなメリットです。

本当なのか噂だったのか、いまとなっては確認できないのですが、福島県では東日本大震災の影響で、私学助成の補助金が大きく入ってきているという話がありました。
ただ、経常費補助金を県に申請する際の資料を拝見しても、具体的にどうやって補助金額が決まるかはわからなかったので、確かめようがありませんでした。感覚的な話になりますが、確かに私学助成の補助金額が近隣の県に比べて多く、新制度に移行しても思ったより収入が上がらないというお客様はいらっしゃいました。
補助金が多く入っている分には問題になりませんが、計算方法がわからなければ、予算配分が変わっただけで、一気に園の収入が減る可能性もゼロではありません。
新制度に移行して「施設型給付費収入」になると、全国同じ考え方で予算を立てることが出来るのも、事業運営上は大きいです。
収入構造の違い
公定価格は定員が少ないほど園児一人あたりの単価が高くなる仕組みです。そのため、園児数100人以下の幼稚園では、新制度に移行することで収入が増える可能性が高いと言えます。
また、新制度幼稚園の大きな魅力の一つが、「処遇改善等加算(しょぐうかいぜんとうかさん)」を受け取ることが出来ることです。この加算は保育士不足を解消するために作られた制度で、職員の給与アップに使える財源として注目されています(もちろん幼稚園の教員に支給することも出来ます)。
処遇改善等加算を取得すれば、園の持ち出しなしで教職員の待遇改善を行うことができます。特に園児数が少ない小規模園では、この加算による収入増加の効果が非常に大きくなります。
一方、私学助成の幼稚園には「幼稚園等教育体制支援事業費補助金」という賃金改善の補助金がありますが、全額補助ではない点に注意が必要です。たとえば東京都では、賃金改善部分の4分の3が補助対象となっており、残りの4分の1は法人の持ち出しとなります。(出典:東京都私立幼稚園等教育体制支援事業費補助金交付要綱)
保護者の負担と認定手続きの違い
私学助成の幼稚園では、保護者の認定手続きは不要です。園児募集を行い、保護者と園の二者間で入園手続きを完結できるため、シンプルでわかりやすい仕組みとなっています。
一方、新制度幼稚園では、入園前に「1号認定(いちごうにんてい)」という手続きが必要になります。これは市区町村が保護者に対して発行する認定証で、「教育を希望する満3歳以上の子ども」であることを証明するものです。
保護者は園を通じて市区町村に認定申請を行い、認定証の交付を受けてから入園という流れになります。園としては、この認定手続きのサポートや書類管理が新たな業務として加わることになります。
ただし、認定手続き自体は一度覚えてしまえばルーティン化できる業務です。保護者への丁寧な説明と、園内での事務フローを整えることで、スムーズな運用が可能になります。
【経営者必見】新制度移行のメリット|園児数減少時代の経営安定化

新制度への移行は、特に園児数100人以下の小規模園にとって大きなメリットがあります。少子化が進む中、経営を安定させる選択肢として注目されています。
収入の安定化と増加
幼稚園が新制度に移行すると、私学助成の補助金から施設型給付費という明確な計算方法の収入に変わります。特に園児数が少ない園ほど、収入が増える傾向があります。
新制度移行による収入増加の目安
- 園児数100人以下の園:ほぼ確実に収入が増加
- 園児数100~200人の園:加算の取得方法によって収入増加の可能性あり
- 園児数200人以上の園:慎重なシミュレーションが必要
新制度では、私学助成にはない「処遇改善等加算」も受け取ることができます。この加算は職員の給与改善に使える財源として、園の持ち出しなしで待遇を向上できるので、新制度に移行するうえでの大きなメリットになります。
こども家庭庁の調査によると、新制度に移行した園の69.8%が「経営が安定した」と回答しています。計算方法が明確になったことで、収支の見通しが立てやすくなった点が評価されています。(出典:こども家庭庁 令和6年度私立幼稚園の子ども・子育て支援新制度への移行状況等調査の結果)
少子化により園児数が減少しても、公定価格の仕組みにより小規模園ほど一人あたりの単価が高くなるため、収入を維持しやすくなります。

経営学者のピーター・ドラッカーは、人口構造の変化を「すでに起こった未来」と表現しています。
令和5年、6年ごろから、園児募集が格段に難しくなっている幼稚園が多くなったと実感しています。しかしこれは、新型コロナウイルスの流行があったことで、令和2年の婚姻数が大幅に減少し、出生数も予測よりもはるかに早いスピードで少子化が進んでしまった時点で、わかっていたことではあります。
いま、仮に園児募集がうまくいっていたとしても、今年の出生数の減少が幼稚園に影響してくるのは2,3年後です。現在の園経営では、今年の園児募集をしっかりと行いつつ、2,3年先の園児募集も視野に入れて、決断していく必要があります。
処遇改善等加算の活用
優秀な職員の確保・定着に課題を抱える園にとって、処遇改善の財源を確保できることは大きな魅力です。近年では保育所に勤める保育士の待遇が年々向上しており、幼稚園教諭との待遇差が広がる傾向にあります。
処遇改善等加算の主なメリット
- 園の持ち出しなしで職員の給与アップが可能
- 人事院勧告に基づく処遇改善分も反映される
- 優秀な人材の確保・定着につながる
- 職員満足度の向上により、教育の質も向上
私学助成の幼稚園にも「幼稚園等教育体制支援事業費補助金」がありますが、全額補助ではありません。たとえば東京都では賃金改善部分の4分の3が対象となり、残りの4分の1は法人の持ち出しとなります。
一方、新制度の処遇改善等加算は全額が補助対象です。この違いは、長期的に見ると大きな経営インパクトとなります。
こども家庭庁の調査では、新制度に移行した園の84.6%が「職員の処遇改善を図ることができた」と回答しています。人材確保が難しい時代において、この制度は強力な武器となります。
(出典:こども家庭庁 令和6年度私立幼稚園の子ども・子育て支援新制度への移行状況等調査の結果)

令和5年度以降、特に人事院勧告分に基づく改定率が大きくなっているため、保育士の待遇改善が進んでいます。私学助成の幼稚園では、人事院勧告分は反映されないため、ますます保育士との待遇の差が開いていくことも懸念されます。
計算方法が明確で経営計画が立てやすい
施設型給付費は公定価格として明確に定められているため、将来の収支シミュレーションを正確に行うことができます。これは経営戦略を立てる上で非常に重要なポイントです。
経営計画が立てやすくなる理由
- 園児数と定員から収入を予測できる
- 3年後、5年後の収支計画を具体的な数値で示せる
- 金融機関への融資申請時に根拠のある事業計画書を作成できる
- 施設の増改築や設備投資の判断がしやすくなる
私学助成では、補助金の算定基準が不透明なため、来年度の収入を正確に予測することが困難です。特に金融機関から融資を受ける際、事業計画の根拠を示しにくいという課題がありました。
新制度では、定員区分や年齢別園児数、取得する加算の種類によって収入が明確に計算できます。たとえば「定員90人、園児数85人、処遇改善等加算を取得」という条件があれば、月額・年額の収入を具体的に算出できるようになります。
この透明性の高さは、理事会での説明や、後継者への経営引き継ぎの際にも大きなメリットとなります。数値に基づいた経営判断ができることで、園の将来像を明確に描くことが可能になります。
幼稚園としての運営の自由度は維持
新制度に移行する際、多くの理事長先生が心配されるのが「建学の精神や独自の教育方針を継続できるか」という点です。結論から申しますと、新制度幼稚園でも教育の自由度は維持されます。
新制度移行後も変わらないこと
- 幼稚園としての法的位置づけ
- 建学の精神や教育理念に基づいた運営
- 独自のカリキュラムや特色ある教育活動
- 園の行事や教育内容の自由な設定
こども家庭庁の調査でも、「建学の精神に基づいた独自の教育を継続できるか不安である」という理由で移行をためらう園が44.8%ありました。しかし実際には、移行後も各園の教育方針はそのまま継続されています。(出典:こども家庭庁 令和6年度私立幼稚園の子ども・子育て支援新制度への移行状況等調査の結果)
法人の理念や教育方針はそのままに、経営基盤だけを強化できる。これが新制度移行の本質です。補助金の仕組みが変わっても、園が大切にしてきた価値観や教育内容を変える必要はありません。

「私学助成の園から新制度幼稚園に移行すると、これまでの特色ある教育を行うことができなくなるのではないか」というご質問をよくいただきます。新制度に移行したからといって「幼稚園」としての形式は変わらず、補助金の受け取り方が変わるだけです。むしろ経営が安定することで、より充実した教育環境を整えたり、職員の待遇を改善したりすることが可能になります。
新制度移行のデメリットと注意点

新制度移行にはメリットが多い一方で、注意すべきポイントも存在します。移行を判断する前に、これらのデメリットをしっかり理解しておくことが重要です。
大規模園では収入が減少する可能性
公定価格は定員区分が大きくなるほど、園児一人あたりの単価が下がる仕組みになっています。そのため、定員が多い大規模園では、新制度に移行すると収入が減少する可能性があります。
収入減少のリスクがある園の目安
- 園児数200人以上の大規模園:私学助成のほうが有利な場合がある
- 私学助成が手厚い地域の園:都道府県の補助金額によっては現状維持が得策
- 加算をあまり取得できない園:職員配置の関係で加算が少ない場合は要注意
園児数が200人を超えているから「検討の余地なく私学助成に残る」ではなく、チーム保育加配加算などの加算を戦略的に取得することで、
- 新制度に移行したほうが収入が増える
- 移行前と収入は同程度でも教員を多く配置できる
- 移行前と収支差額は同程度でも、教職員の賃金を上げることが出来る
というケースは多くあります。
重要なのは、現在の園児数だけでなく、将来の園児数推移も考慮することです。少子化により園児数が減少していく見込みがある場合、新制度のほうが長期的には安定する可能性が高くなります。
職員配置によって取得できる加算が決まるため、移行前に複数パターンのシミュレーションを行うことが大切です。定員設定と職員配置を同時に検討することで、最適な収支計画を立てることができます。

私学助成と新制度では、収入の構造も大きく異なりますが、職員配置の考え方も全く違います。誤った認識で移行準備を行うと、思ったような収入額にならなかったり、配置基準違反となったりするため、注意が必要です。収入や職員配置のシミュレーションは専門家に相談することをおすすめいたします。
事務手続きの増加
新制度に移行すると、私学助成の幼稚園では不要だった事務手続きが新たに発生します。特に移行初年度は、慣れない業務に戸惑うこともあるでしょう。
新たに発生する主な事務手続き
- 移行申請の書類作成:自治体への移行申請書類の準備・提出
- 1号認定の手続き対応:保護者の認定申請サポートと書類管理
- 毎月の給付費請求:自治体への請求書発行(様式は自治体により異なる)
- 加算の申請・実績報告:処遇改善等加算などの申請と年度末の報告
私学助成では年度ごとの申請が中心でしたが、新制度では毎月の請求業務が加わります。請求書の様式や提出方法は自治体によって異なるため、事前に確認が必要です。
また、1号認定の子どもを受け入れるため、保護者が園を通して行う認定手続きにも対応しなければなりません。入園前の説明や、書類の受け渡し、認定証の管理など、細かな業務が増えます。
ただし、これらの事務手続きは一度仕組みを作ってしまえば、ルーティン化することが可能です。システムやテンプレートを整備することで、業務負担を軽減できます。事務担当職員の配置や、必要に応じて専門家のサポートを受けることも、スムーズな移行のための選択肢の一つです。

特に移行前年度、移行初年度は注意が必要です。
私学助成の園からすでに新制度へ移行した園も増えてきているため、以前には行われていた、新制度への移行を検討する園向けの行政主催の説明会も、最近はあまり行われなくなってきたという実感があります…。
思っていたよりも収入が少ないということで、弊社にお問い合わせを頂くケースでも、
「移行前にご連絡を頂いていれば、もっと園にとって良い形で移行することが出来たのに…」
ということが少なくありません。利用定員の検討と、処遇改善等加算制度への対応準備は、早ければ早いほど、いろいろな選択肢を検討することが出来ます。
一度移行すると元に戻せない可能性がある
新制度に移行した後、再び私学助成に戻ることは制度上は可能です。しかし実際には、元に戻る園はほとんど存在しません。
私学助成に戻ることが難しい理由
- 事前予告期間が必要:自治体への事前通知が求められる
- 私学助成の再調整が必要:都道府県との補助金に関する調整が必要
- 保護者への影響:認定制度や保育料の仕組みが再度変わる
- 信頼性の問題:頻繁な制度変更は保護者や職員の不安を招く
(出典:子育て情報サービスかながわ)
実際、新制度から私学助成に戻った園の事例はとても少ないです。移行後は新制度での運営が定着し、経営も安定するケースが大半です。
そのため、新制度への移行は「後戻りできない重要な経営判断」として捉える必要があります。移行前に十分なシミュレーションと検討を行い、理事会や職員とも合意形成を図ることが不可欠です。
専門家のサポートを受けながら、複数のシナリオを検討し、最も適した選択をすることをおすすめします。

「後戻りできない重要な経営判断」と聞くと、躊躇してしまうかもしれません…。ただ、幼稚園にとって現在(令和5年度~令和8年度)は、後から振り返ったときに大きな転換点だったという分水嶺になると感じています。
「経営判断」と聞くと「新制度に移行する」のような行動を伴うものをイメージしてしまいますが、「何もしない」ということも、とても大きな経営判断です。
厳しい状況では、何も検討せずに「これまで通りの運営をしていく」は悪手になりやすいので、意識的に「何もしない」という決断ができるように、新制度についても押さえておくことが重要になります。
経営者の分岐点:新制度幼稚園と認定こども園の違い

私学助成から新制度へ移行する際、「新制度幼稚園」として移行するか、「認定こども園」として移行するかという選択肢があります。どちらを選ぶかは、園の将来を左右する重要な判断です。
受け入れ対象児童の違い
新制度幼稚園と認定こども園の最も大きな違いは、受け入れる子どもの種類です。この違いが、園の運営スタイルや収入構造に大きく影響します。
受け入れ対象児童の比較
- 新制度幼稚園:1号認定の子どものみ(満3歳以上で教育を希望)
- 認定こども園:1号認定+2号・3号認定(保育が必要な子ども)も受け入れ可能
認定こども園は、教育と保育が一体化した施設です。
幼稚園機能に加えて、保育所機能も併せ持つことになります。そのため、共働き世帯など保育を必要とする家庭の子どもも受け入れることができます。
2号・3号認定の子どもを受け入れることで、入園対象となる家庭が大きく広がります。最近では共働き世帯が圧倒的に多いため、園児募集の面では認定こども園のほうが有利になる傾向があります。
一方で、1号認定の子どもだけを対象とした幼稚園の教育理念を大切にしたい場合は、新制度幼稚園のままで移行することも有効な選択肢です。

これから詳しく見ていきますが、私学助成の幼稚園から認定こども園に移行することは、園運営にとってとても大きな変化になりますので、躊躇してしまうかもしれません。
その場合は、まずは新制度の幼稚園に移行して、新制度を理解してから認定こども園に移行するという2段構えにするという方法もあります。
施設設備要件の違い
認定こども園に移行する場合、特に0~2歳児(3号認定)を受け入れるためには、施設設備の要件が大きく変わります。
主な施設設備要件の違い
- 給食設備:3号認定を預かる場合、自園調理設備が必須
- 保育室の面積:0~2歳児の基準に合わせた保育室の確保
- 園舎の増改築:既存施設では対応できない場合が多い
新制度幼稚園であれば、給食は外部搬入でも対応可能です。しかし認定こども園で3号認定の子どもを預かる場合は、自園調理が必須要件となります。
そのため、幼稚園から認定こども園への移行を検討する場合、園舎の建て替えや増築が必要になるケースが多くあります。この施設整備には大きな費用がかかるため、資金計画を慎重に立てる必要があります。

施設整備の負担が大きく、すぐには対応できない園の場合、まずは新制度幼稚園に移行するという選択をされる園が多いのが実情です。将来的に認定こども園への移行を視野に入れながら、段階的に進めることも可能です。
収入構造と経営安定性の違い
収入構造の基本的な仕組みは、新制度幼稚園も認定こども園も同じです。どちらも公定価格に基づいた施設型給付を受け取ることになります。
収入面での主な違い
- 新制度幼稚園:1号認定の子どもの給付費のみ
- 認定こども園:1号認定+2号・3号認定の給付費を受け取れる
- 定員バランス:1号と2・3号の定員区分により収入が変動
- 加算の種類:保育部分の加算も取得可能
認定こども園では、2号・3号認定の子どもも預かることができるため、収入の柱が増えます。特に3号認定(0~2歳児)は、公定価格の単価が高く設定されているため、収入増加につながります。
ただし、2・3号認定の子どもを受け入れる場合、保育士(保育教諭)の配置基準も厳しくなります。0~2歳児は職員配置が手厚く必要なため、人件費も増加することを考慮しなければなりません。
最近は共働き世帯が圧倒的に多く、園児募集においては認定こども園のほうが強みになることが考えられます。入園希望者の母数が増えることで、定員充足率の向上が期待できます。
1号と2・3号の定員バランスは、法人の理念と収益最大化の両面から検討する必要があります。複数パターンのシミュレーションを行い、最適な定員構成を見つけることが重要です。

こども家庭庁から出ているシミュレーションソフトは令和4年度で更新が終わっているため、最新の制度に基づいた複数パターンの検討を行うには、専門家のサポートが効果的です。弊社では、法人の理念や理想とする園についてお伺いしながら、シミュレーションすることが可能です。お困りの方は、ぜひ一度お問い合わせくださいますと幸いです。
新制度移行の判断基準|こんな園は移行を検討すべき

新制度への移行は、すべての園にとって「必ずメリットがある」というわけではありません。ここでは、移行を検討すべき園の特徴を4つのパターンに分けて解説します。
園児数100人以下の小規模園
園児数100人以下の小規模園は、新制度幼稚園に移行することで収入が増える可能性が非常に高いと言えます。公定価格の仕組みが、小規模園に有利に働くためです。
小規模園が移行を検討すべき理由
- 公定価格は定員が少ないほど園児一人あたりの単価が高くなる
- 処遇改善等加算により、園負担なく職員の賃金を増やすことが出来る
- 園児数が少なくても、安定した収入を確保できる
- 将来的な園児減少にも対応しやすい
少子化が進んでいる今、園児数は今後も減少していく可能性があります。私学助成のままでは、園児数の減少がそのまま収入減につながりますが、新制度では小規模であるほど有利な仕組みになっています。
たとえば定員数が80人の園と150人の園を比較した場合、一人あたりの単価は80人の園のほうが高く設定されます。この差額が年間収入に大きく影響してきます。
園児数減少を見込んで、今のうちに新制度園への移行を検討することは、将来の経営安定化につながる重要な戦略の一つです。現状では園児が集まっていても、5年後・10年後を見据えた判断が求められます。

もちろん、一人あたりの単価が低くても、園児が80人の園と150人の園では150人の園の方が収入は高くなります。ただ、園児募集が苦しく150人も集めることができない場合は、適切な定員区分を設定し、収入を最大化していく必要があります。

園児が80人の園と150人の園では、150人の園のほうが収入は高くなりますが…。園児80人のほうが必要となる先生の配置人数は少なくなりますので、1年間幼稚園を運営していくらお金が残ったかという資金収支差額では「園児が80人の園のほうが多くお金を残すことが出来た」ということもあります。園児数は大きな要因ではありますが、園児数が減少してしまっても、方法次第で将来のために資金を積み立てていくことも可能です。
職員の処遇改善に課題がある園
職員の給与水準が近隣園より低く、優秀な人材が他園に流出してしまっている場合、こうした人材確保の課題を抱える園にとって、新制度移行は有効な解決策となります。
処遇改善が必要な園の特徴
- 近隣の保育所と比べて給与水準が低い
- 職員の離職率が高く、人材の定着に悩んでいる
- 給与を上げたいが、園の財源に余裕がない
- 求人を出しても応募が少ない
新制度に移行すれば、処遇改善等加算を活用して、園の持ち出しなしで職員の待遇を改善できます。この財源があることで、給与アップや賞与の増額が可能になります。
近年では人事院勧告分も年々上昇しており、保育所に勤める保育士の待遇は着実に向上しています。幼稚園教諭の待遇がこのまま据え置かれれば、保育士との待遇差がさらに広がってしまいます。
処遇改善等加算制度を活用することで、保育業界全体の水準に合わせた給与体系を構築できます。これにより、優秀な人材の確保と定着が期待でき、結果として教育・保育の質の向上にもつながります。
中長期的な経営計画を明確にしたい園
私学助成の算定方法の不透明さに不安を感じている園や、金融機関への説明資料作成に困っている園にとって、公定価格の明確性は大きなメリットとなります。
経営計画の明確化が必要な園の特徴
- 将来的な増改築や設備投資を計画している
- 金融機関からの融資を検討している
- 理事会への財務説明に苦労している
- 後継者への経営引き継ぎを考えている
公定価格は国が定めた明確な単価表に基づいているため、3年後・5年後の収支シミュレーションを具体的な数値で示すことができます。金融機関への融資申請時には、根拠のある事業計画書が求められます。私学助成では「来年度の補助金がいくらになるかわからない」という状態ですが、新制度では明確な数値で示すことができます。
将来的な増改築や設備投資の計画も、収入見込みが明確なため立てやすくなります。たとえば「5年後に園舎を建て替える」という計画があれば、その時点での収入を正確に予測し、返済計画を立てることが可能です。
また、理事会での経営報告や、後継者への引き継ぎの際にも、数値に基づいた説明ができることは大きな強みになります。透明性の高い経営は、関係者の信頼を得る上でも重要です。

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少子化で園児の人数が減ってきている園がほとんどですが…。
園児が何人であれば、園を維持していくことが出来るのか。安定して運営していくためには、園児が何人いればよいのか等の計画を立てることが出来れば、園児数減少という大きな懸念が、漠然とした不安ではなく対処できる課題に変わります。
地域の子育てニーズに応えたい園
地域の子育て支援に積極的に取り組みたい園にとって、新制度の仕組みは大きな可能性を広げてくれます。
子育て支援を充実させたい園の特徴
- 共働き家庭のニーズに応えたい
- 地域に開かれた園づくりを目指している
- 預かり保育の充実を図りたい
1号認定の幼稚園児でも「一時預かり事業(幼稚園型)」を活用することで、夕方まで預かることができます。これにより、共働き家庭も幼稚園に入園することができ、地域の多様な子育てニーズに応えることができます。入園希望者の層が広がることで、園児募集にも好影響が期待できます。
地域に根差した園として、「働きながらでも通える幼稚園」という新しい価値を提供できることは、園の魅力を高める大きな要素となります。
新制度移行の手続きと流れ

新制度への移行は、計画的に進めることが成功の鍵です。ここでは、移行を決定してから実際に新制度幼稚園としてスタートするまでの具体的なステップを解説します。
ステップ1:現状分析(園児数・施設状況・財務状況)
移行を検討する第一歩は、園の現状を正確に把握することです。客観的なデータに基づいて判断することで、後悔のない選択を行うことができます。
現状分析で確認すべき項目
- 園児数の推移:過去3年間の実績と今後3~5年の予測
- 施設の状況:建物の築年数、修繕の必要性、増改築の予定
- 財務状況:積立金の残高、借入金の有無、年間収支
- 職員配置:現在の職員数、職員の年齢構成、今後の採用計画
現在の園児数だけでなく、来年度や数年後の園児数の予測を立てることが重要です。地域の出生数や近隣園の状況も参考にしながら、リアルな予測を行います。
施設面では、園舎の建て替えが必要なのか、修繕で対応できるのかを確認します。大規模な施設整備が必要な場合は、その資金計画も同時に検討する必要があります。
財務状況については、積立金の状況や借入金の返済計画を整理します。移行後の収支シミュレーションと照らし合わせることで、より具体的な経営計画が見えてきます。

新制度幼稚園への移行が可能かどうか、自治体に事前確認をしておくことも必要です。自治体から移行の承認が得られなければ、移行自体ができません…。
ステップ2:移行パターンの収支シミュレーション
現状分析が終わったら、次は具体的な収支シミュレーションを行います。このステップが移行判断の最も重要なポイントです。
シミュレーションで検討すべき項目
- 定員区分の設定:90人、120人、150人など複数パターン
- 年齢別園児数:3歳児・4歳児・5歳児の内訳による影響
- 取得する加算:加算をどこまで取得するか
- 職員配置数:運営・加算取得に必要な職員数の確認
現状と同じ条件で新制度に移行した場合、年間収入がいくらになるのかを計算します。その際、定員区分によって単価が変わるため、複数のパターンでシミュレーションすることが重要です。また、どの加算を取得するかによっても、年間収入が数百万円単位で変わる可能性があります。
加算の取得には職員配置が必要になるため、職員数のシミュレーションも同時に行います。新たに職員を採用する必要があるなら、採用活動も並行して進める必要があります。
定員は容易に変更できないため、慎重に検討することが大切です。将来の園児数予測も考慮しながら、最適な定員を設定します。

処遇改善等加算など、園の収入は増えるけど、そのまま人件費として支給しなければならない加算もあります。シミュレーションの際には、同時に人件費や経費も考えて計画を立てることが出来ると一番ですが…。
園内で行うと時間と手間がかかり、外部に依頼するとしっかりと料金が発生してしまう部分なので、まずは収入だけで比較をしてみるのがお勧めです。
本格的な移行に進む段階では、専門家に入ってもらい、計画が誤っていないか、漏れている視点はないかという確認を入れると、より現実的な計画になっていきます。
ステップ3:園内合意形成(理事会)
収支シミュレーションの結果が出たら、法人内での合意形成を進めます。理事会での承認を得ることが、移行を正式に決定する重要なステップです。
理事会では、移行後の収入シミュレーションなどの具体的なデータを資料として提示することが効果的です。数値に基づいた説明は、説得力のある判断材料となります。
職員配置数が確保できるかなど、懸念事項は事前につぶしておくことが大切です。「職員が足りない場合はどうするのか」「採用がうまくいかなかったら」といった質問に対しても、対応策を準備しておきます。
理事全員が納得した上で移行を決定することで、その後の手続きもスムーズに進みます。理事会での承認を得たら、正式に移行準備を開始します。

当社(株式会社 いちたす)では、理事会に同席をして新制度移行の説明のご支援を行うこともあります。
その際によくご質問で上がるのは
「私学教育の自由は守られるのか」
「行政から、教育内容について口出しされることはないか」
というものです。
結論から書きますと、心配する必要はありません。
新制度の、施設型給付を受ける幼稚園に移行したとしても、法律上は幼稚園なので、教育内容についてはこれまで通り行えますし、認定こども園に移行した場合も1号認定の園児についてはこれまで通りなので、理事の方が懸念されるケースに私は出会ったことがありません。
懸念があるとすると、2・3号認定の園児に、どこまで宗教教育も含めた独自の教育を行えるかですが、所轄する自治体の判断次第になります。なので、自治体のご担当の方とは連絡を密にして、事前に心配なことは解消しておく必要があります。
ステップ4:必要な書類と申請手続き
理事会で移行が承認されたら、自治体への申請手続きを進めます。必要な書類や期限は自治体によって異なるため、早めに確認することが重要です。
申請手続きの流れ
- 自治体への事前相談(移行時期や必要書類の確認)
- 移行説明会への参加(開催している自治体の場合)
- 申請書類の準備(定款、就業規則、施設図面など)
- 申請書類の提出(期限厳守)
- 審査・承認(自治体による審査)
自治体によっては、決まった時期に移行に向けた説明会を開催しているケースがあります。この説明会では、具体的な手続きの流れや必要書類について詳しく説明されるため、必ず参加することをおすすめします。
申請書類には、法人の定款、就業規則、施設の図面、職員名簿、事業計画書など、多岐にわたる書類が必要です。準備には時間がかかるため、余裕を持って取り組むことが大切です。
提出期限を過ぎると、希望する年度からの移行ができなくなる可能性があります。スケジュール管理をしっかり行い、期限内に確実に提出します。
ステップ5:保護者への説明と同意
自治体への申請と並行して、保護者への説明も丁寧に行う必要があります。制度が変わることへの不安を解消し、理解と協力を得ることが重要です。
保護者への説明で伝えるべき内容
- 新制度に移行する理由と目的
- 保護者にとって何が変わるのか(手続き、保育料など)
- 園の教育方針や運営は変わらないこと
- 1号認定の手続きについて
- 質疑応答の時間を十分に確保
保護者への説明方法は園によって異なります。保護者会を開く園もあれば、お便りを配布する園もあります。懇談会のタイミングに合わせて説明する園もあります。
重要なのは、「何が変わって、保護者にどう影響するのか」を具体的に説明することです。特に保育料についてや、1号認定の手続きについては、丁寧な説明が求められます。
また、園の教育理念や保育内容は変わらないことを明確に伝えることで、保護者の不安を取り除くことができます。質問には一つひとつ丁寧に答え、不安や疑問を残さないようにします。

私学助成の幼稚園のときに設定していた、無償化を超える部分の保育料については、新制度の幼稚園に移行しても、保護者の了解のもと上乗せ徴収額(特定保育料)として受け取ることができます。
成功の鍵は「専門家」との連携
新制度移行は、園の将来を左右する重要な経営判断です。定員設定や職員配置を誤ると、収益に大きく影響するため、専門家のサポートを受けることが成功への近道です。
専門家に相談すべき理由
- 定員設定のミスは収益に直結する
- 職員配置と加算取得の関係は複雑
- 処遇改善等加算の運用は初年度が肝心
定員は一度設定すると容易に変更できません。また、処遇改善等加算の運用も初年度の設計が非常に重要です。あとから「こうすればよかった」と後悔しても、取り返しがつかないケースもあります。
幼保業界に精通した専門家であれば、他園の成功事例や失敗事例も踏まえた上で、最適なアドバイスを提供できます。シミュレーションも複数パターンを短時間で比較検討できるため、効率的です。
いちたすでは、新制度移行のご支援実績が豊富にあります。定員設定から職員配置、処遇改善等加算の運用設計まで、トータルでサポートしています。移行を検討されている理事長様は、ぜひお気軽にご相談ください。
新制度に関するよくあるトラブルと対策

新制度に移行した園の中には、事前の準備不足によりトラブルに直面するケースもあります。ここでは、よくあるトラブル事例とその対策を紹介します。
加算要件を満たせず返還請求
新制度に移行したものの、職員配置を満たせずに減額調整されるトラブルがあります。私学助成の幼稚園と新制度幼稚園では、職員配置の考え方が大きく異なるため注意が必要です。
定員が決まったら職員配置数もシミュレーションし、必要な職員数を正確に把握することが大切です。配置がギリギリの園は、職員の退職や休職も想定して採用計画を立てておきましょう。加算を取得するために必要な職員数を確保できなければ、計画していた収入を得られなくなります。
処遇改善の配分に関する職員の不満
処遇改善等加算制度について職員へ誤った理解がされていると、配分時に不満が生じることがあります。「全員に均等に配分される」といった誤解を防ぐため、事前の丁寧な説明が重要です。
配分は理事長や園長の主観ではなく、客観的な判断基準に基づいて行う必要があります。人事評価制度との紐づけも検討し、公平性と透明性を確保することで、職員の納得感を高めることができます。配分ルールは、全職員に周知しておきましょう。
保護者からの問い合わせ対応
移行直後は、保護者から「1号認定とは何か」「保育料はどうなるのか」「預かり保育の料金は変わるのか」といった問い合わせが増えます。
事前に想定される質問をリストアップし、Q&A形式の資料を準備しておくことが効果的です。保護者説明会では十分な質疑応答の時間を設け、一つひとつの疑問に丁寧に答えることで、不安を解消できます。園だよりやホームページにもわかりやすい説明を掲載しておくと、保護者の理解が深まります。
専門家に相談すべきケース

新制度移行は経営判断の重要な分岐点です。以下のようなケースでは、専門家のサポートを受けることで、より確実で効果的な移行が可能になります。
収入シミュレーションが複雑な場合
園児数が微妙なライン(150~200人程度)の場合、移行による収入増減の判定が難しくなります。小規模園ほど有利な公定価格の仕組みですが、この規模では私学助成との差が小さくなるためです。
シミュレーションが複雑になる要因
- 定員区分による単価の違い
- 取得する加算の組み合わせパターン
- 職員配置数と人件費のバランス
- 将来の園児数変動の予測
どの加算を取得するかによっても、年間収入が数百万円単位で変わる可能性があります。一般的に加算を取得するには職員配置が必要となるため、人件費とのバランスを見極める必要があります。
職員を新たに採用してまで取得したほうがよい加算なのか、費用対効果を慎重に検討しなければなりません。複数パターンのシミュレーションを行い、最も収益性の高い組み合わせを見つけることが重要です。
専門家であれば、過去の支援実績に基づいて複数パターンの比較検討ができます。定員設定や職員配置の最適なバランスを一緒に検討することが可能です。
認定こども園移行と比較検討したい場合
認定こども園への移行を検討する場合、1号認定だけでなく2号・3号認定の収入もシミュレーションする必要があります。特に3号(0~2歳児)を預かる場合は、職員配置基準が厳しくなるため、人件費が大幅に増加します。
認定こども園移行で検討すべき複雑な要素
- 2号・3号の収入計算:保育単価と加算の仕組みが1号と異なる
- 職員配置の大幅増加:特に3号認定は配置基準が厳しい
- 1号と2・3号の定員バランス:比率により園の性格が変わる
- 保育所特有の加算:幼稚園にはない加算がある
2号・3号は児童福祉になるため、加算の種類や要件も幼稚園とは大きく異なります。処遇改善等加算以外にも、保育所特有の加算が多数存在し、その仕組みは複雑です。
1号と2号・3号の定員バランスによって、園の雰囲気や収入構造が大きく変わります。法人の教育理念と合致させながら収益を最大化するには、複数パターンの詳細なシミュレーションが不可欠です。
こども家庭庁から提供されている試算ソフトは令和4年度で更新が終わっているため、最新の制度改正を反映した計算ができません。最新制度に基づいた正確な検討を行うには、専門家のサポートが効果的です。
就業規則・賃金規程が必要な場合
処遇改善等加算の導入に伴い、就業規則や賃金規程の改定が必要になります。加算で受け取った財源を職員にどのように配分するか、明確なルールを規程に盛り込む必要があるためです。
処遇改善加算の運用にあたり対応が必要な項目
- 処遇改善等加算の配分ルールの設計
- キャリアパスに応じた等級制度の構築
- 昇給基準の明確化
- 賃金体系の見直し方針
- 職員への説明方法
キャリアパスの構築も重要な課題です。経験年数や職務内容に応じた等級制度を設計し、昇給の基準を明確にすることで、職員のモチベーション向上につながります。
一般的に、保育業界に精通し、かつ処遇改善等加算制度にも詳しい専門家は多くありません。制度の要件を正確に理解した上で、適切な配分設計を行う必要があります。
加算の要件を満たす賃金体系の設計や、職員への説明資料の作成など、専門的な知識が求められる場面は多くあります。いちたすでは処遇改善等加算制度について、制度設計から運用までトータルでサポートしています。

「就業規則や賃金規程の改定まで行ってほしい」という方は当社が提携している保育業界に精通している社会保険労務士の先生をご紹介することも可能です。お気軽にお問い合わせくださいませ。
幼稚園 新制度に関するよくある質問(Q&A)

新制度移行について、理事長の皆様からよくいただく質問にお答えします。移行判断の参考にしていただければ幸いです。
- Q幼稚園の「新制度」とは、分かりやすく言うと何ですか?
- A
平成27年度に始まった「子ども・子育て支援新制度」のことです。この制度により「施設型給付」という新しい補助金の仕組みが創設されました。
従来の私学助成(都道府県からの補助金)ではなく、公定価格に基づく施設型給付を受け取る形に切り替えることを指します。補助金の出どころと計算方法が大きく変わる点が、経営上の重要なポイントです。
- Q幼稚園が新制度に移行しない理由は何ですか?
- A
こども家庭庁の調査結果では「移行に伴う事務の変更や増大等に不安がある」園が64.1%、「建学の精神に基づいた独自の教育を継続できるか不安である」園が44.8%となっています。(出典:こども家庭庁 令和6年度私立幼稚園の子ども・子育て支援新制度への移行状況等調査の結果)
「新制度の仕組みがよくわからない」という不安が背景にあると考えられます。しかし実際には、移行後も幼稚園としての教育の自由度は維持されますし、事務手続きも慣れればルーティン化できる内容です。正確な情報を得ることで、こうした不安は解消できます。
- Q新制度幼稚園と私学助成幼稚園の違いは何ですか?
- A
最も大きな違いは補助金の仕組みです。私学助成は都道府県が独自に算定する補助金であるのに対し、新制度幼稚園は公定価格により国が定めた施設型給付を受けます。
公定価格は計算方法が明確なため、将来の収入を正確に予測できます。また、新制度では処遇改善等加算という職員の待遇改善に使える財源も受け取ることができます。この2点が経営上の大きな違いです。
- Q新制度幼稚園に移行すると収入は増えますか?
- A
増える園が多いと言えますが、すべての園で必ず増えるわけではありません。園児数100人以下の小規模園では、収入が増加する可能性が高いです。園児数100~200人の園でも、加算の取得方法によって増加する可能性があります。
ただし、園児数200人以上の大規模園では、慎重なシミュレーションが必要です。定員区分や取得する加算によって収入が変わるため、事前のシミュレーションが必須となります。いちたすでは、複数パターンの詳細なシミュレーションをご提供しています。
- Q「新制度の幼稚園」と「認定こども園」への移行、どちらを選ぶべきですか?
- A
認定こども園へ移行すると、共働き世帯も受け入れられるため、園児募集では強みとなります。ただし、法人の教育理念や、施設整備の状況によって最適な選択は異なります。
認定こども園では0~2歳児を預かる場合、自園調理設備が必須となり、施設の大規模改修が必要になるケースもあります。幼稚園の理念を大切にしながら経営を安定させたい場合は、新制度幼稚園のままで移行することも十分有効な選択肢です。
- Q認定こども園にならないと、新制度のメリットは受けられないのですか?
- A
いいえ、新制度幼稚園でも本記事で紹介したような施設型給付のメリットは十分に享受できます。
公定価格による収入の明確化、処遇改善等加算の活用、経営計画の立てやすさなど、新制度の主要なメリットは幼稚園のままでも得られます。認定こども園への移行は、さらに2号・3号認定の子どもも受け入れたい場合に検討する選択肢です。
- Q今私学助成の幼稚園が新制度に移行する手続きは難しいですか?
- A
手続きの難易度は自治体によって異なります。必要な書類や申請期限も自治体ごとに設定されているため、早めに確認することが重要です。
いちたすでは収支シミュレーションや移行判断のサポート、必要書類のリストアップなど、移行をスムーズに進めるための総合的な支援を行っています。
- Q新制度に移行すると、給食(自園調理)は必須になりますか?
- A
新制度幼稚園では、給食は外部搬入でも対応可能です。自園調理は必須ではありません。
ただし、認定こども園へ移行して3号認定(0~2歳児)を預かる場合は、自園調理が必須要件となります。そのため、調理室の整備が必要になります。施設整備の負担を避けたい場合は、新制度幼稚園のままで移行することをおすすめします。
- Q幼稚園の新制度移行に関する「処遇改善等加算」とは何ですか?
- A
保育人材不足の解消を目的に導入された加算制度です。施設型給付費の一部として受け取り、それを職員の給与改善に還元することになります。
園の持ち出しなしで職員の待遇を改善できる点が最大のメリットです。キャリアパスに応じた配分ルールを設計することで、職員のモチベーション向上や離職率の低下にもつながります。
- Q幼稚園の新制度移行のコンサルティングサポートをいちたすさんにお願い出来ますか?
- A
はい、いちたすでは新制度移行のご支援実績が豊富にあります。
定員設定の最適化、収支シミュレーション、職員配置計画、処遇改善等加算の運用設計など、移行に必要なサポートをトータルでご提供しています。他園の成功事例や失敗事例も踏まえた実践的なアドバイスが可能です。
- Q新制度について相談したい場合、いちたすさんに相談しても良いですか?
- A
はい、もちろんです。新制度移行が決定していなくても、検討段階からのご相談を歓迎しています。
まずは収支シミュレーションを行い、移行のメリット・デメリットを具体的な数値で確認することができます。シミュレーションの結果、現状維持のほうが有利という結論になることもあります。法人にとって最適な選択ができるよう、客観的な視点でご支援いたします。お気軽にお問い合わせください。
保育園・幼稚園・こども園経営のご相談なら幼児教育・保育専門コンサルティング会社いちたすへ

保育園・こども園・幼稚園を経営するうえで、お困りのことがありましたら株式会社 いちたすへお気軽にお問合せください。
人事院勧告分への対応はもちろん、処遇改善等加算の配分方法や、今後どのように運営していけばよいか、給付費(委託費)や補助金はしっかりと取れているのかといった経営・財務に関するご相談から、保育士・職員に外部研修を行ってほしい等の人材育成に関するご相談まで、幅広くご支援しています。
いちたすについて

株式会社 いちたすでは、保育園・こども園・幼稚園の経営者の皆様に対して、経営・運営・財務に関するコンサルティングを専業で行っています。
会計事務所として、日常の会計の確認、記帳代行を行ってもいますので、保育所のバックオフィス業務、書類関係全般のご支援もしています。幼稚園・保育所・こども園の税務・労務に精通した税理士法人・社会保険労務士事務所とも提携しています。
「会計事務所は法人設立からお世話になっているから変えたくない」というお声を頂きます。
そのような場合は、会計・税務ではなく、
- 委託費の加算の取りこぼしがないか、第三者に確認してもらいたい。
- 認定こども園への移行を考えているが、何から手を付ければよいかわからない。
- 処遇改善をどのように取り入れていけばよいか、他園がどのように行っているかを知りたい。
などのお悩みに対してご支援・コンサルティングを行う顧問(相談)契約もあります。こちらは、セカンドオピニオンのようにお使いいただくことも可能です。
料金プラン

株式会社 いちたすでは、定期的な顧問契約から、スポット(単発)での委託費の確認、申請書類の確認なども行っております。
たとえば相談契約、コンサルティング契約ですと
で引き受けております。
「複数施設を運営しているが本部で契約したい」「打ち合わせは2か月に1回でよい」など、オーダーメイドでご契約内容を作成いたしますので、お気軽にご連絡ください。
依頼の流れ

お問合せフォームかinfo@ichitasu.co.jp宛にメールをお送りください。
詳しい内容をお伺いいたします。
その後は、
- 当社の担当者が園にお伺いする
- 当社事務所(仙台市一番町)にお越しいただく
- Zoomなどを利用してオンラインで打ち合わせをする
といった形で、具体的にどのようなご支援が出来るのかを打ち合わせいたします。
園によって状況は様々ですが、
など、ご要望に合わせてご提案いたします。
お気軽にお問い合わせください。








